7-10 ただいま
ソグラスまでの道のりを歩く。
レイアさん曰く、ソグラスの復興はまだ始まったばかりで、人も資材も、もちろん町を守る冒険者も何もかも足りないそうだ。
……そりゃ、そうだろう…。あのでかミミズに町をペシャンコにされたんだ…町が元通りになるには何年もかかる。今はようやく一歩目ってところだろう。
で、復興作業するにしたって魔物に襲われたら進む物も進みゃしないってんで、冒険者の層を充実させたい…けど、人が足りない。他から人を呼ぼうにも、アステリア王国の西側は、どこもピンク頭のけしかけた魔物の襲撃でボロボロだろうし…。
だからこうして、上のランクの人間が新米を育てて使えるようにしている…と言う話らしい。
なるほど……。
まあ、そう言う事情なら…と、道中で出会う魔物の処理は新米3人に任せる。
アーマージャイアントとの戦いでは頼りなかったが、それは突然現れた上位の魔物にビビってテンパったからだったらしい。
ポーン級やビショップ級の魔物を、3人で上手い事連携して倒す姿は中々様になっている。
これもレイアさんやアルトさん、ソグラスの冒険者の教育の賜物かな?
俺が感心している間にも、戦闘を終えた新米達にレイアさんが細々とアドバイスやダメ出しをしている。
うんうん、運動部の縦関係みたいで宜しいね。
「じゃあ、丁度良いからクイーン級の冒険者からもアドバイスを貰いましょうか?」
え?
「はい、じゃあアーク君! 何か後輩達に言ってあげて!」
やべぇ…何も考えてねえ!? っつか、コメントどころかアドバイスもねえ!?
そもそも、俺は戦い方を習った事なんてねえし…。誰かと連携する時も直感頼りだし…。
人の動きを見て、「俺ならこうするのになぁ…」と思う事はあるけど、それはあくまで俺の方が色んなスキルを持ってて応用が利くからってだけだし。
他人様の連携やらに口出し出来るような人間じゃないんだっちゅーの…。
困って視線を泳がせると、フィリスが「何か?」と言うように首を傾げていた。
………そう言えば、フィリスって警備隊の副隊長だったよな? 人を指導したり、アドバイスしたりするの得意なんじゃね?
「あー…オホン、色々言いたい事はある―――」
俺が何を言ってくれるのかと、目を輝かせる新米達。
「けども、その前にフィリス」
「はい」
「お前から何かあるか?」
話を丸投げしているようで心が痛むが、一応クイーン級としての威厳がね…その…あるんですよ……(ゴニョゴニョ)。
「そうですね…。では、そこの盾を使っているお前!」
「は、はい!」
指を刺されてエグトが姿勢を正す。
あの威圧感は、副隊長として培われたものなんだろうなぁ…俺には真似できん。
「盾の使い方をもっと工夫しろ! 愚直に防御するだけでなく、受け流す事も視野に入れろ。お前の剣の距離ならば殴打にも使える。相手の視界を奪って相手の選択肢を奪って攻撃に繋げる事も出来る。盾を防御にしか使わないなんて勿体ないとは思わんのか!」
「は、はははい! すいませんっ!!」
「次に、槍使い!」
「ぁえ? あ、え…あ、はい!」
「槍のリーチを活かして戦うのは良い。だが、それに固執するあまりに腰が引けている! そんな様では懐まで容易く踏み込まれるに決まっているだろうが。その後の対応も悪い、貴様自身が慌てては周りがフォローも出来ないだろう。それなら、相手に踏み込まれる前に自分でリーチを詰めて攻め方を変えろ」
「えぅ…ぁあ、はい……」
「最後に魔法使い!」
「は、はははひぃ!!」
「お前が1番どうしようもない! 前衛のダメージ管理をするのは良い、だが、2人が傷を負ってまで敵を止めている間にお前が敵を減らさなくてどうする!? 剣や槍よりも魔法での殲滅力は格段に高い、その利をちゃんと理解しろ!」
「す、すすす、すいません……」
「指導が足りなくてすいません……」
3人だけでなく、指導官のレイアさんまで落ち込んでる!?
「こんな感じでどうでしょうか?」
「うん……良いんじゃないでしょうか?」
若干フルボッコ過ぎる気がするけど…。
まあ、これ以上俺にコメント求めて来ないから結果オーライ。
* * *
その後は静かに進み……うん、ちょっと静か過ぎて空気に耐えられませんね…?
仕方なく、黙って歩きながらゴールドを撫でたり、思念で白雪と会話しながら歩く。
で、暫くして―――…
懐かしきソグラス。
旅だった時に見た景色は、確かに瓦礫の山だった。
痛々しいって言葉では足りないぐらいにグチャグチャで、怒りや悲しみが湧いて来ないくらいにそこに“町”は無くなっていた。
残骸になった家。
並べられた人の死体。
正直、あの光景が俺の中でトラウマとして刻まれているのは間違いない。
だから、ソグラスに戻るのは……ちょっと勇気がいる。
「着いたー!」「あー、疲れたー」「もう休みたい…」
呑気に喜ぶ3人とは裏腹に俺は、視線を地面に向けたまま上げる事が出来ない。
そんな姿を不思議に思ったのか、白雪とフィリスが心配そうな声を出す。
「父様?」「≪赤≫の御方…?」
ゴールドまで心配してすり寄って来る。
くそ…ビビるな…!
グッと力を込めて視線を上げる。
そこには―――町があった。
家とも呼べないような掘立小屋がズラリと並んで、たくさんの人が元気に行き交い。瓦礫を退かす者、柱を立てる者、地面を掘る者、休憩する者、逞しく露店を出している者。
形は違えど、確かに目の前にあるのは商人の町ソグラスだった。
あの瓦礫の海だった場所が、ここまで活気を取り戻したのか……!
それが嬉しくて、楽しくて……涙が出そうだった。
そんな俺にレイアさんが振り返る。
「おかえり、アーク君」
おかえり…か。
この世界に、本当の意味で俺の帰るべき場所は存在しない。
けど、俺が戻って来る事を望んでくれる人がいる事が、心地よくて安心する。
だから、その言葉を素直に言えた。
「ただいま!」