7-9 クイーン級の周りには…
「す、すすすすスイマセンでした!!!!!」
槍使いの人改め、ユーリが全力で頭を下げている。
その横で、エグトとフィッテも頭を下げている。
もう、なんか、頭を下げられている俺の方が悪い事をしたんじゃないかと勘違いしてしまうような謝りっぷりだった。
そして、俺の後ろで腹を抱えて笑っているレイアさんはもうちょっと自重しろと思うの…。
「あー、良いから良いから、気にしてないから」
睨まれた事に関しては、確かに良い気分ではないが、パーティーの中に初見の相手を警戒するぐらい用心深い奴が居るのは好感が持てる。
俺の方の誠意が伝わったのかどうかは定かではないが、ようやく3人が下げていた頭を上げた。しかし、ユーリの目はどこか怯えたように俺の周囲を目が泳いでいる。
そこまでビビらんでも…とは思うが、普通の人間にとったらクイーン級の冒険者ってのはそう言う存在なのか…。改めて自分の対場の重さを考えてしまうな。
「っつか、レイアさん笑い過ぎ! 後輩へのフォローくらいして下さいよ」
「ぷっくく…あ、うん、ゴメンゴメン」
謝った割に笑いが収まってない。
この人、前は気付かなかったけど結構どうしようもない人かもしれない…。もしかしてアルトさんが一緒じゃないからか? いつもはアルトさんの止め役になってるから、自身はしっかりしようとしてるだけで、コッチの方が素なのか?
………うむ、深く考えないようにしよう。
「それにしても、アークさんは凄いんですね!? 私達より年下っぽいのにクイーン級なんて」
「まあ、でも…俺に関しては色々普通じゃないからねえ」
主に魔神とか魔神とか魔神とか…。
話しながら少しノンビリしていると、遠くから大きな影が走って来た。
まあ、ゴールドと背中に乗ってるフィリスなのは感知能力が使っていなくても分かっているので身構えたりはしない……俺は、だが…。
「うわああああっ!!? ま、ままま魔獣!!?」
「おち、おとっ、おちおち、落ち付けよ! だ、だだだ大丈夫、コッチにはクイーン級の冒険者が一緒に居るんだ!」
「そ、そうね!? 大丈夫……本当に大丈夫よね!? アークさん、私達の事身捨てないで下さいね!?」
新人冒険者3人はテンヤワンヤの大騒ぎだった。
確かにゴールドの見かけは恐いし、コッチに向かって来る速度も結構な物だけど…それにしたって取り乱し過ぎだろ…。
3人に比べれば格段に落ち付いているレイアさんも、さっきまで笑い転げていたのが嘘のように焦った顔をして…。
「アーク君、あの魔獣…人を乗せてない? もしかして使役してるのかしら?」
冷静な分析ありがとうございます。
腰の弓を抜いて構えようとしているレイアさんを制して前に出る。
「大丈夫ですよ。アレ、俺の仲間なんで」
「え?」
驚くレイアさん。
「「「えええええぇぇえぇぇっっっ!!!!?」」」
ムンクの叫びみたいな顔をして驚く新米3人。
………なんちゅう顔してんだお前等…。
そんなやりとりをしている間に近くまで走って来ていたゴールドとフィリスを出迎える。
「≪赤≫の御方!」
俺の目の前で立ち止まるや否や、「クゥン」と甘えて来るゴールドをワシワシと撫でながら、その背から下りて来たフィリスを労う。
「おう、ご苦労さん」
つっても、俺の後を追って来ただけだけど。
「ご無事でしたか!?」
「余裕だよ。ここら辺は魔素も薄いから、魔物もそこまで強くないしな?」
たまに何かの弾みで生まれるクイーン級は勘定に入れなければ…だが。まあ、でも、今の俺なら並みのクイーン級の魔物なら余裕か。
「私如きが、貴方様の心配をするなど畏れ多い事でした。申し訳ありません!」
「いや、心配してくれたのは素直に嬉しいよありがとう」
「勿体ないお言葉…それで」
キッと見慣れぬ冒険者4人を睨みつける。
お前さぁ…エルフだけあって顔立ちが凄い整ってるのは良いんだけど、それだけに睨む時の顔つきが無茶苦茶恐いんだよ…。
「この人間達は何者ですか?」
俺には普通どころか、下にも置かない扱いをするからついつい忘れそうになるけど、亜人の人間嫌いはそう簡単には直らないよなぁ。
人前に出る時には絶対に全身を隠すローブを取らないし…。
「俺が助けた人達……って、フィリス…睨むの止めろ」
「は、はい。申し訳ありません」
んな深々と頭下げる必要はねえけど…。
「あとゴールド、お腹に頭擦り付ける止めろ。いい加減白雪が潰れる」
寂しそうに小さく鳴いてお座りする。
「アーク君、その人と……その魔獣…は?」
「ああ、紹介します。こっちのローブの女がフィリス、そっちの赤毛の狼がゴールド。他にも2体使役してる魔獣が居るけど…まあ、機会があったら紹介するよ」
「えっ!? こ、この魔獣、アークさんが使役してるんですかっ!?」
「しかも他に2体!!?」
驚かれてばかりで話が進みゃしねえ…。
「それで、レイアさん達はこれからどこに向かうんですか?」
「え? ああ、うん。ソグラスの西側を見回りながら魔物退治していただけだから、もうそろそろソグラスに戻ろうかと」
「じゃあ、一緒しますか? 俺等もソグラスに向かってたんで」
本来の目的地は遺跡と言う名の研究所だが、一先ずソグラスでここら辺の状況を探りたい。何かしらの異変があるのなら、パンドラを連れて来る前に片付けてしまいたい。
ピンク頭の事もあるし、見慣れない魔物の目撃情報だって無視できない。
まあ、ともかくソグラスに向かう。
ここからなら、歩きでも1時間半ってところか? ゴールドが頑張ってくれたお陰で大分短縮できたな。横を楽しそうにテクテク歩くゴールドを撫でて労う。
嬉しそうに目を細めるゴールド…お前は本当に愛らしいワンコだな? ……ちょっとサイズが大きいけど…。
そしてフィリスが羨ましそうにゴールドを見ているのは何故なんだ…? 「私もモフモフしたい!」で俺を見るなら分かるが……まさかとは思うが、お前も撫でられたいとかじゃないよな?
歩きながら、ふとお腹の辺りに違和感を感じて視線を向けると、パーカーの裾に隠れて白雪が必死にしがみ付いていた。
光る球の時にはあんまり思わなかったけど、こうして人型になると……隠れてばっかりってのはシンドイよなぁ…?
『白雪、隠れてるの嫌か?』
『父様? どうしたのですか突然?』
思念の会話を受けて、隠れながら驚いた顔で俺を見上げる。
『いや、人前だと隠れさせてるけど、お前が嫌ならもう出て来ても良いぜ?』
『でも…父様に迷惑がかかるのでは?』
『それは考えなくて良い。俺もクイーン級で周りから一目置かれる人間になったし、お前の事を変な目で見る奴も居ねえと思うよ……多分』
それ以上に、亜人は一般人にはもの珍しい。…特に妖精は小さくて非力だから、変な人間に狙われる事もあるかもしれない。だが、白雪を連れているのはクイーン級の冒険者の俺だ。
相当な命知らずか、物を知らない馬鹿でもない限りは白雪を狙うなんて事を考える事もないだろう。
『なんかあった時は俺が護るから心配は要らねえよ。お前のしたいようにしろ』
『父様……!』
パーカーから勢い良く飛び出して、俺の顔にベッタリと張り付く。
「父様、大好きですわっ!!!!」
「はいはい…」
感極まって俺の顔に頬擦りしながら泣き始めた白雪を指先で撫でてあやす。
そんなキラキラと黄色い光を纏っている白雪の姿を見て、新米3人だけでなくレイアさんまでもが目を見開いて口を開けた。
「「「「妖精だアアアアアアアっ!!!?」」」」
いい加減驚かれるのも疲れて来たので、これを最後にして貰いたいもんだ……。