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7-7 狼は駆ける

 大森林を正味20分足らずで抜けて、今度は街道を行く。

 舗装はされてないが、歩く分には不便はない。ただ、ここから歩きだとソグラスまで2日はかかるんだよなぁ…。

 またフィリスに頼んで【短距離転移魔法(ハーフポータル)】の連続で急ぐって手もあるけど…チラッとフィリスを見ると、微かに息切れしている。

 通常の魔法は体内の魔力しか消費しないが、転移魔法のような高等魔法になると体力と精神力もゴリッと消耗するらしいし、これ以上無理させるのは止めておくか…。この先何かあった時に戦えない、じゃ笑えないからな。


「ゴールド、おいで」


 適当に炎を撒いて呼ぶと、2m以上ある赤毛の狼が炎の中から顔を出す。

 その大きさも相まって見かけはかなり恐いが、トコトコと寄って来て目を細めて俺のお腹の辺りにスリスリと鼻先を擦り寄せて来る姿は、もう完全に普通のワンコだ。


「こっから先はゴールドに連れて行って貰おう」

「私の転移の方が早いですよ!」


 なんなのその対抗心?


「息切れしてんじゃん。何かあった時の為に魔力と体力温存しておいてくれ」

「は…はい…」


 森の中と違って、街道ならゴールドの疾走でも相当なスピードが出せるし問題ないだろう。

 ゴールドが走るのを嫌がるようならアレだが、むしろ俺の役に立てるのが嬉しくて尻尾振ってるし…全力で振り過ぎて尻尾取れそうな勢いだし。よしんば機嫌悪かったとしても、頭撫でたら一瞬で機嫌直るし……本当に超絶ワンコ過ぎるな、この狼は……。


「伏せ」


 頭を撫でながら言うと、素直に「ワゥ」と足を折って地面に伏せる。

 俺が前に跨って、その後ろにフィリスが座る。


「ゴールド、重くないか?」


 大丈夫と言うように元気に鳴く。

 まあ、重いパンドラを乗っけて平気で走ってるからな。人間2人分なら、許容範囲のレベルだろう。

 ゴールドの事はさて置き…。


「フィリス…危ないからちゃんと掴まってろ」

「は、はい! し、し、失礼します…」


 背中に、若干薄めの胸が押し当てられて、腕が俺の腰を抱く。

 ……うむ、役得…。いや、そんな場合じゃねえのは分かってるけど、こう言うイベントがあったって罰は当たらんダろう? うんうん。

 とか背中の感触に、変な感動のような物を感じていたら、フードの中で何かがモゾモゾと動いた。


「プハッ、苦しいですわっ!!」


 白雪が飛び出してきたが、纏っている光が赤い。とっても御立腹らしい。


「父様! フィリスさん! 私の事をお忘れだったでしょう!?」


 はい。


「そんなわけねーだろ?」

「父様…!」


 むっちゃ目付き悪く睨まれた。


「私に父様の嘘は通用しないのをお忘れですか!?」


 はい。そうでした……。

 赤い光を振り撒きながら飛び回る姿は、相当怒っているらしい。

 ふむ……。


「白雪?」


 それでも手を差し出して呼ぶと、ちゃんと手の平の上にチョコンっと帰って来る。ただし、腕を組んでプイッと俺を見ようとはしないが…。

 どうしたものかと考え…ご機嫌取りにとりあえず頭を撫でてみる。


「そんな事をしても許しません!」


 更に撫でる。


「ゆ、許さないったら許しません!」


 もっと撫でる。


「ぅう~……許さないんですから…」


 ダメ押しに撫でる。


「もう、仕方ないですね! 許してあげますわ!」


 赤い光が黄色に変わり、組んでいた腕を解いて俺の手にされるがままになる。

 ……チョロ過ぎてちょっと心配になった。

 ゴールドと同レベルだが、大丈夫なのだろうかこの子は? 色んな意味で心配だ…人のいる所では目を離さないようにしよう。


「白雪、パーカーの中入ってな」

「はい!」


 フードに戻すと、またフィリスにプレスされるから懐に隠れさせる。

 パーカーの下で必死に俺にしがみ付く姿は、ちょっと保護欲求がそそられる…。


「じゃあ、行くか。ゴールド、頼む」


 首元を撫でると、元気よく走り出す。

 おおー、速ーい!?

 ガクンッと出だしから体が置いて行かれそうになった。いきなりトップスピードだな!? 特に急げって言ったわけじゃないけど、俺が乗っかってるからテンション高いからか?

 飛ぶように走るとは言うが、ゴールドの疾走はまさにそれだ。

 4本の脚が地面を抉るように早く蹴り上げて、とにかく体を前に前に動かす。

 景色を眺めている余裕がない程の速度で、木が、道端の花が、動物や魔物が後ろに流れて行く。

 ヤバイ、ゴールドって平地だとこんなに速かったの!? 今まで乗って走らせた事はあるけど、色んな悪条件の上での走りだったからな…。

 時速100kmくらい出てないか? 目が痛くて涙が出るし、少し呼吸がし辛い。

 そりゃあ、俺等の世界でもチーターが120kmで走るって話は有名だけど、それはあくまでその身1つで、だ。人間2人分の重さを背中に乗っけて、こんな速度を出せるとか、流石に予想しとらん…。


 速いのはとても良い。

 後でいっぱい顔をワシャワシャして褒めてやりたい。

 ………ただ、1時間も乗っているとケツが痛くてたまらん…。

 はい、スイマセン嘘です。実は30分経ったところですでにもうケツが限界でした。


「……ゴールド、止まって」


 俺の突然の停止命令に首を傾げながらも、4本脚の動きを徐々に減速させて止まる。


「≪赤≫の御方、どうなされましたか?」


 なんでフィリスは平気そうなんだろう…? 普段からこういう動物に乗るのになれてんのかな?

 まあ、とにかく……これ以上乗ってると血便が出る…。一晩寝れば勝手に治るって言っても、借り物の体を痛めさせるわけにはいかんよねぇ。


「いや…ちょっと……」


 とは言え、「尻が痛いからここからは徒歩で行こう」って言うのは…凄い情けなくない? 正直、凄い恥ずかしいわ…。

 そっとゴールドから降りる俺を見るフィリスの目が凄い心配そうで居た堪れない…。ただ、ケツが痛いだけなんですよ俺…。


『父様、素直に仰ったら良いのでは…?』


 バカ野郎、男には護らねばならんプライドってもんがあるんだよ!


『はぁ…そうなんですか?』


 さてと…どう誤魔化したもんか―――ん?

 視覚では分からないが、2つの感知能力がこの近くでの戦闘行動を捉えた。

 どこだ…?


「どうなさったのですか?」

「しっ」


 口元に指を当てて口を閉じさせる。

 感知能力に意識を割いて集中。

 ……居た! ここからだと木々が邪魔で見えないけど、道から外れた所…ここから300mくらいかな?

 人型の熱源4つ、そのすぐ近くに若干熱量の低い奴…魔物が2匹。魔物の大きさは3mくらい、魔素量から戦闘力を算出すると恐らくナイト級。

 ソグラスの周辺でこの条件に該当するのはアーマージャイアントしか居ない。ここいらじゃ1番強い魔物だ。

 俺等にとっては雑魚も良いところだが、ソグラスの冒険者にしてみれば3匹出たらギルド総出で討伐に当たらなければならないような相手。その魔物2匹か…冒険者が戦ってるのか、それとも旅の商人が襲われてるのかは感知能力でも分からないが、どっちにしても放って置いて良い状況じゃねえな!


「誰かが襲われてる! 先に行くから後から来い。ゴールド、フィリスの事を頼む」


 ガゥっと元気な返事を聞くと安心する。

 まあ、ここら辺でゴールドとフィリスをどうにか出来るような魔物は居ないから、俺が離れても心配は要らないけど。



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