7-3 謝罪
目的地が決まったところで、さあ出発だ! ……と思ったのだが…。
どうやら、この星の大樹の聖域からは、俺達だけでは出られないらしい。どうしようもないので、仕方なくフィリスが戻って来るのを待つ事にする。
にしても、改めて見ると本当にこの樹はデカイな…。威圧感が凄いと言うか、何と言うか…。
ん?
今まで、この巨大な樹に目を奪われて気付かなかったが、ユグドラシルを囲むように四方に光の柱が天に向かって伸びている。
色は、それぞれ…赤、青、白、黒。
魔神の色と同じ…?
「なあ? あの光の柱ってなんなの?」
「申し訳ありません。我等にも分かりません…」
エメラルド達がシュンっと落ち込む。
別に気になったから聞いたってだけなんだから、そこまで気にしなくても…。あまりに魔獣3兄弟が落ち込むので、ちょっと聞いた事を後悔した。
慰める意味でゴールドとサファイアの頭を撫でておく。すると、撫でられた事が嬉しいのか一瞬で立ち直って甘えて来る。
……現金な奴等。エメラルドがゴールド達を羨ましそうに見ている気がするが…まあ、多分気のせいだろう。
「白雪は?」
「私が知る訳ありませんわ」
ドヤッと胸を張る。
なんでそんな情けない方向に自信満々なのお前…?
まあ、何にしても今のところ正体不明…フィリスが来たら聞いてみるか。
……あの光…なんだか凄い嫌な感じがするんだよなぁ…。俺自身は特に異常はないのだが、≪赤≫が妙にあの光にビビってる気がする。
柱の色も同じだし、何か原色の魔神と関係あんのかな…?
「父様、何か気になるのです?」
「ん? うん、ちょっとな」
俺の肩が居心地が良いのか、妙に機嫌の良い白雪を見る。
「父様?」
ああ…そうだ。俺は、白雪に謝らなきゃ。
「あのさ…白雪?」
「はい?」
「ゴメンな…」
「えっ!? あっ、きゃっ…!」
俺が謝った事に驚いたのか、肩からずり落ちた。
慌てて羽を開こうとしたところを、俺が手の平でキャッチする。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。でも…何がですか? 父様が謝る事なんて…」
ある。
「妖精の里をあんな事にした奴に、俺が落とし前をつけるって約束したろ? 追い詰めはしたけど、結局は逃がしちまった…ゴメン」
俺が手の平の上でポカンとしている白雪に頭を下げると、泣きながら俺の顔に飛びついて来た。
「良いんです、父様が無事な方がもっと大事です!」
そう言って頬擦りしながら、小さな体で命一杯の力で縋り着いて来る。
故郷があんな惨状にされて、同族を数え切れない程殺されて……良い訳ねーじゃねえか…。
今回の戦いは、カグや偽物の俺の乱入があったから負けた。……けど、そんなもん言い訳にもならない。魔神の力を狙ってる連中は居る事は知っていたんだから、何かしらの警戒はしておくべきだった。
それに、俺が水野を殺す事に徹した戦い方をしていれば、違う結果になったかもしれない。
戦いを思い出すと、後悔ばかりが後から後から湧いて来る。
なんで、俺はこう無能なんだろうな…?
自責の念を抑えきれずに、もう一度「ごめん」と口にすると、俺の頬に擦りつけるように白雪が頭を振ったのが分かった。
ゴールド達も、白雪を慰める様に近くに寄って来る。
「父様…父様…!」
しゃくり上げながら何度も俺を呼ぶ声が、何だか胸に痛くて堪らない。
それから10分程白雪は泣き続け、その小さな体からこんなに水分を出して大丈夫なのかと心配になったが、まあ大丈夫らしい…。
「ごめんなさい父様…いっぱい泣いてしまいました…」
「いや…」
俺の方も謝ろうかと思ったが、それだとまた白雪が泣きそうだし…かと言ってお礼を言うのは違うだろう…。
そう言う訳で、黙って白雪の体を手で包むように撫でる。
その手に甘えるように体を預けて来ると、ちょっと呼び方も相まって親心のような物が芽生えそう…。
そしてゴールドとサファイア…白雪に対抗して甘えて来んなっつーの…。まあ、可愛いから撫でるけど…。
その時、目の前の空間が光に包まれてグニャリと景色が歪む。
――― 転移魔法
現れる人物は、まあ1人しか居ないだろう。
「≪赤≫の御方!」
予想通りにフィリスだった。
俺が起きているのを見るや否や、パアッと陽が射したような笑顔になって駆けて来る。
「お目覚めになったのですね!」
「ああ。悪いな? 色々面倒見て貰ったみたいでさ」
「いえ、お気になさらないで下さい。≪赤≫の御方に尽くすのは、全ての亜人の使命です」
それは言い過ぎです。
どこぞの竜人は全然そんな感じなかったぞ。まあ…アレは例外中の例外だろうけど。そもそも、そんな反応されてもコッチが困るけど…。
「まあ、それはともかく……」
この話は適当に流す。
放って置くと俺への賛辞を並べ始めかねないので、さっさと本題に入る。
「パンドラは?」
「はい……現在はアルフェイルで、治癒術に長けた者が数人着いていますが…まだ意識は戻りません。それどころか、お腹の傷も一向に塞がらず……」
予想はしていたからショックは少ない。
この世界の魔法が何でもアリって言ったって、それはあくまで自分達の身の回りにある力や物に対してだ。理解できない…どころか、そもそも身近に存在してすらいない機械をどうこう出来るような都合の良い魔法がある訳ねえ。
やっぱり、パンドラに関してはコッチの世界の力は頼りにならない。
「そうか…」
「申し訳ありません…」
「フィリス達が悪い訳じゃねえよ」
誰が悪いかと言えば、この状況を想定して対応策を用意していなかった俺の馬鹿さが悪い。
「≪青≫や、あの場に居た……黒髪の2人の事で、何か情報あるか?」
「いえ…。≪赤≫の御方とパンドラをアルフェイルに連れて来た後は、一度も人間の世界に出ていないので、外の情報は……申し訳ありません」
「いや、無いなら良いんだ」
カグと偽物の俺……それに水野の事は気になるけど、今の最優先はパンドラの回復だ。
「来たばっかりで悪いけど、アルフェイルまで連れて行ってくれるか?」
「はい、お任せ下さい!」
それじゃあ行くか、と立ち上がると、頬に張り付いて居た白雪が肩に移動しながら…。
「父様? あの光の事はお聞きにならなくて良いんです?」
あー、そう言やそうだった…。
「なあフィリス? ユグドラシルの周りの、あの光の柱って何だ?」
「あの光は守護の御柱です。その名の通り、星の大樹を護る為の結界を張っていて、邪な心を持つ者が入れないようにしているそうです」
ほう…。何やら不思議な力のオンパレードだな、ここは…?
やっぱり、あの光に≪赤≫が怯えてる気がする…。気になる…けど、今は詳しく調べてる場合じゃねえな?
「変な事聞いて悪い。んじゃ、行くか?」
「はい」