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6-30 蹂躙者達の救世主

 薄暗い部屋の中には大きな円卓が1つ。

 その卓上を照らすように中央に置かれた小さな照明用の魔導器。

 部屋の奥…上座に座っているのは、黒い髪の少年―――阿久津良太。

 その横に座っていた、隻眼の男…ブランゼが口を開く。


「頭首、お疲れになったのでは?」


 明りの乏しい部屋の中でも、隣に座る主の微妙な顔色の変化には気付く。それは、ブランゼ1人に限らず、今現在この部屋の中に居る者全員に言える事だ。実際、他の椅子に座っている面々も小さくブランゼの言葉を追うように頷いている。

 と言うのも、例外無く皆【暗視】のスキルを獲得している。その為、彼等にとっては暗闇は苦ではない、むしろ味方だと言っても良い。この部屋の照明用の魔導器も、正直なところ必要無い。それでも置いてあるのは、頭首の言うところのただの“雰囲気作り”である。


「気にするな…」


 下の者の心配を、虫を払うような動きで鬱陶しそうに手を振って流す。


「そんな事より、報告をしろ」


 円卓をトントンっと指で叩いて、情報の共有を促す。


「報告しますっ」


 元気よく声を上げて、椅子から立ち上がる小さな少年。


「リューゼか。≪青≫の治癒はお前に任せていたんだったな?」

「はいっ! アイツ…じゃない、≪青≫の継承者は元々自己治癒のスキルを持っていたみたいで、見る見るうちに回復しました。ただ、それでもダメージが大きかったみたいで、意識が戻るのに3日はかかると思います」

「逆に言えば、3日経てば元通りになる、と言う事か」

「あ…いえ、それは……」


 阿久津良太……頭首に問い返された途端に、リューゼの顔が曇り歯切れが悪くなる。

 そんな様子を、頭首への無礼と見てブランゼが声を荒げる。


「リューゼッ! 頭首への報告だぞ!? 明確に、明瞭に行え!」

「は、はは、はいっ!! ご、ゴメンなさい!!」


 周りの者も、子供相手に…と同情するような事は一切ない。むしろ、ブランゼと同様に叱責の1つでも飛ばしてやりたかった程だ。

 それ程までに、この場に居る人間達にとって上座に座る黒髪の少年は絶対的な存在であった。


「そう責めるなよ。隣で怒鳴られると頭に響く」

「はっ、申し訳ありません…」


 椅子から一度下りて頭を垂れるブランゼを一瞥してから、先を促す。


「続きを」

「は、はいっ! えっと…≪青≫の継承者は、寿命を吸い取るような特殊な攻撃を受けたようで、極端に生命力(マナ)が落ちていますので、元通りには…無理だと思います」

「ほう…」


 中々面白い力だな、と少しだけ黒髪の少年が笑う。


竜人(ドラゴノイド)の持っていた槍の力でしょう」

「アイツか…」


 数日前の戦場に居た竜人の姿を思い出してククっと笑う。


「アレの相手をしたのは、お前だったなエスぺリア?」

「はい、頭首様」


 声をかけられて、ピンク色の髪の女…エスぺリアが周囲に花の開くような、恋する乙女のような甘い空気を撒き散らす。


「どうだった? 障害になりそうか?」

「クイーン級の魔物では相手になりませんね。ですが、私達が“本来の姿”になればさほど気にするような相手ではないかと」

「ならば無視して構わん。邪魔になるようならば、ガランジャお前が行って始末して来い」

「お任せ下さい」


 巨岩のような大男が、狭そうに椅子に身を収めながら肯定の意を示す。

 その2つ右の席に座っていたエルフの少女がボソボソと喋り始めた。


「頭首様………≪黒≫は……やっぱり……大人しく…させておいた方が…良い……と思います…」

「畏れながら、私もエメルと同感です」


 エルフの言葉を即座にブランゼが賛同し、他にも何人か頷いている。

 彼等にとって、≪黒≫の魔神の継承者である褐色の肌の女―――ルナは目の上のタンコブだった。

 その戦闘能力の高さもだが、キング級の冒険者と言うのも厄介だ。自由に国を出入りする権限を与えられ、ギルドの持つほぼ全ての情報網を私用で使う事が出来る。

 逃げるにしても追いかけるにしても、キング級と言うのは相手として厄介なのである。

 潰せるものなら早いうちに潰したい、と言うのが彼等の本音だ。

 何より、放置する事は主の計画の妨げになる可能性が高い、と言うのが1番の問題だ。


「必要無い」


 しかし、当の主は配下の者達の考えを一言で斬って捨てた。


「あれは既に完成している。他が揃うまでに、下手に(つつ)いて傷物にでもなったら困るのは俺だ」

「……申し訳ありません……考えの足らぬ……愚か者が…要らぬ事を言いました……」

「気にするな。奴に対処する必要が有る場合は、俺が直接相手をする。それで良いな?」

「………はっ」


 エルフの少女が黙ったのを確認し、満を持して…とでも言いたげなトーンで片腕の無い老人が報告を始める。


「頭首様、ようやく貴方様にこの報告をする日が来ました」


 嬉しさが隠しきれず、言葉の端々で笑い声が混じっている。

 それを主への無礼を見た周りの者達が、若干眉を(ひそ)める。が、当の主は何も気にした様子もないので叱責するような事もない。


「どう言う事だ?」


 聞き返した途端に、老人がニィーっと口元を大きく歪めて笑う。その顔を見て、老人が何を自分に言おうとしているのか察した少年の顔が驚愕に歪み、喜悦で体が震える。


「おい…グリフ…? まさか!?」

「はい。≪青≫の継承者、奴こそが頭首様の待ち望んだ救世主(メシア)にございます!」


 その言葉を聞くや否や、黒髪の少年は泣きながら大声で笑いだした。


「あーーーはははははあっはあはああはは!!!!! そうかっ!! ついにぃ、ついに現れたかっ!!!?」


 狂喜の涙を流す主を心配する臣下達を余所に、少年の涙と笑い声は絶える事無く続く。


「ははっははは…そうか、そうかあ! 600年種を蒔き続けた甲斐があったなっ!!」

「頭首様の悲願、これでようやく果たされますな?」


 少年の喜びようを受け、嬉しそうに老人が聞く。


「ああ。これでようやくピースは揃った! 紛れも無く、彼こそがこの世界を正しい姿にする救世主………いや、世界の道標だよ!」


 阿久津良太の顔で頭首は笑う。


(これは≪白≫の成長を急がせなければな)


 戻って来てからずっと眠らせてある長い黒髪の少女の事を考える。

 自我の8割以上は少年が握っている。都合良く動いてくれるのは楽で良いが、力が目覚める妨げになるのも事実だ。


(少し、扱いを変えるか? 無理をさせると壊れるか…? 別に構わんか。≪青≫と違ってスペアは幾らでもいる)


 少年は嗤う。

 自分の計画のゴールが近い事が嬉しくて楽しくて仕方ない―――。

 

六通目 赤と青と… おわり

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