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6-27 暗く深い絶望を

「うふふ、竜人(ドラゴノイド)ねぇ? とっても強そうで恐ぁ~い」


 ふざけた口調でピンク髪……エスぺリアと呼ばれていた女は、自分の腰の曲線をアピールするように腰をくねらせる。

 正直、この女にはソグラスで散々虚仮にされた恨みがあるから、この場で死ぬほどボコって土下座させてやりたい……と言う気持ちも有るには有るが…今の俺はそれどころじゃない…!

 だって…今、目の前に居るのは、幼馴染のカグと―――俺なんだぞ…!?

 カグは、自身の能力で地面に押さえつけている俺の事に興味を無くしたのか、すでに視線さえ向けておらず、目的の人物である倒れている水野の様子を見ている。

 そして、その隣の俺―――いや、俺の姿をした何か…もしくは誰かは、空気の壁に抗いながらエスぺリアと対峙するガゼルをチラッと見ただけで、その後はやはりカグと同じように興味を無くしたのか、倒れている水野に視線を向けている。


「俺はフェミニストでね? 出来れば女とは戦いたくないんだが?」


 言う割に、槍の穂先は真っ直ぐにエスぺリアの心臓を狙っている。

 戦いたくないとは言っているが、戦わないとは言ってない。必要であれば、問答無用で心臓を貫きに行く覚悟はある…と言う事だろう。


「あらぁん? 優しいのねぇ…好きになっちゃいそうかもぉ」


 クスッと笑いながら、煽る様に唇をペロっと舐める。


「だったら、こんな所で敵意向けあってないで、楽しくディナーにでも行かないか?」

「魅力的な御誘いねぇ? でもぉ、ダぁーメぇ」


 エスぺリアがパチンっと指を鳴らすと、上空から巨大な魔素の塊―――魔物!?

 更に地面の下にも大きな魔素の反応―――。

 1つや2つではない…!? 10……いや、もっと!?

 空から落ちて来る魔物。漆黒の翼の堕天使型、トンボのような虫型、8枚羽の鳥型、その他諸々―――。

 地面から這い出て来る魔物。モグラのような奴、雷を纏うティラノサウルスのような奴、芋虫のような虫型、その他諸々―――。


「残念だけどぉ~、貴方がぁこの子達のディナーになってねぇん?」

「魔物の腹の中じゃ女も居ないだろ? だから、却下だ!」


 仮に女が居たのなら良かったのか? と言うツッコミはさて置き…。

 空気の壁で動きを著しく悪くされているのも構わず、ガゼルは蝙蝠のような翼を広げて魔物の群れに向かって行く―――。

 

 機動力がゴッソリ落とされている状態で、あえて迎え撃つ事をしなかったのは、全く動けない状態の俺から敵を近付けないようにか……くっそ…情けねえなぁ…!

 俺はもう戦えるような力は残ってないし…空気の壁で抑えつけられてまともに動けない。けど、口はまだ動く…。


「おい……待てよっ!」


 カグはまったく俺の声に反応しなかったが、偽物の俺は水野に向けていた視線を切って…感情の見えない静かな湖面のような目を俺に向けた。……俺の見た目でその目止めろやっ! 率直に行って気持ち悪ぃんだよ!!


「ん? まだ居たのかよ?」

「お前は…誰なんだよ!?」

「だから、阿久津良太だよ」

「そんな訳ねえだろうがっ! 阿久津良太は俺だぞ!!」


 俺の言葉に反応して、カグがイライラした時に見せる鋭い目で俺を睨む。


「リョータ…そいつと話すのもう止めなよ? そいつ…凄いイライラするわ」

「……っ」


 なんでだよ…!? なんで俺だって分かってくれないんだよっ!!

 幼馴染に気付いて貰えない事に怒りと共に、涙が出そうなくらい悲しさが込み上げてくる。


「そう言うなよカグ? コイツも≪赤≫の継承者だぜ?」

「でもコイツは敵でしょ? ここで戦闘不能にしておいた方が良くない?」


 ……よりによって、お前にそんな言葉を言われるとは思わなかったよ…。元の世界で、お前の事大事にしてなかったツケかな…?


「いずれな? 今はまだ早いよ」


 偽物の俺がポンとカグの頭を叩く。

 おいっ、ふざけんな! 俺10年以上の付き合いだが、カグにそんな事した事ねえぞ!!


「うん…」


 そしてカグもなんか若干赤くなって、しおらしい反応してるし…。なんなんだよお前は! なんで顔赤くしてんの!?


「リタイアさせるにしたって、まだもっと先だ」

「……ねえ? 聞きたかったんだけど、リョータは何がしたいの?」


 ……え?

 カグは、偽物の俺に協力してるだけ……なのか?


「何って?」

「だって、この魔神の力? を集めてるんでしょ? でも、その先に何をしようとしてるのか聞いてないし……」


 瞬間、スッと偽物の俺から表情が消える。そして口元が微かに動く…自分の顔だから分かる。コイツ今、音を出さないように口の中で舌打ちした…。

 そして、まるで恋人同士のような仕草でカグの頬に触れて、その瞳を覗き込む―――…って、止めろマジで!! クソ恥ずかしいからマジで止めて下さいッ!!

 フザケンナよ!! どんな羞恥プレイだこれ!!!?

 なんで自分と幼馴染のこんなシーン見せられてんだよっ!!?


 心の中で恥ずかし過ぎてバタバタしていると……、


「カグ。俺の目を見て」

「え……リョータ…?」


 偽物の俺の目が、微かに怪しく光ったように見えた。


何も考えるな(・・・・・・)

「―――…」


 カグの目から意識の光がフッと消える。

 ……なんだ? 今、何した!?

 催眠術…? いやっ、まさか、洗脳してるのか!?

 スキルか魔法かは分からないけど、カグの精神の根っ子を俺の偽物が握ってるってんなら、アイツが俺らしくない行動や言動をしても、カグがそれに疑問を持たない事に説明がつく。


――― 視界が怒りで真っ赤になった


「ふっざけんなっ!!!!!」


 カグの精神が何かしらの変化があったせいか、空気の壁が格段に軽くなっている。

 体に残っていた痛みやダルさを全部忘れて体が動く。

 怒りで肉体にかかっていたリミッターが外れて、火事場の馬鹿力が体を前に動かす。


「人の幼馴染に何してくれてんだ!!!?」


 目の前に居るのが、自分の体かもしれないと言う可能性さえ忘れて、ヴァーミリオンを全力で振って阿久津良太の首を落としに行く。

 俺の攻撃に対して反応しない。

 当たり前だ。その体が本当の俺の物なのか、全く関係のない物なのかは分からないが、少なくても“阿久津良太”であるのなら、この速度には反応出来ない。

 魔神の力を宿したカグならともかく、何の力も持ってないその体は、紛れもない一般人の物だからだ!

 戦いどころか、殴り合いの喧嘩だってまともにした事無い“阿久津良太”では、この攻撃は避けれないし防げない。


 だが、刃が首に届く前にヴァーミリオンが止められた。


「割って入らせて貰うぞ」


 俺と偽物の間に、男が立っていた。

 右手の人差し指と親指で摘まむように深紅の刀身を、掴んでいる。

 優男だが、隻眼なのが雰囲気を険しくしている―――…この男、いつからここに居た? 転移の気配は無かった。

 ……突然現れたと言うより…コイツはまるで、始めからそこに居たような自然な動作でヴァーミリオンを受け止めた。

 まさか…始めから居たのか!? 俺がこの男を認識出来ていなかった……!?


「大人しくしていろ」


 隻眼の男が、空いている左手を虫でも払うように振る。

 瞬間、背中に焼けるような痛みが走り、赤い飛沫が辺りに飛び散った。


「―――がっ…!!!!?」


 耐え切れなくなって地面に倒れる。

 ………なんだ、今の? 何をされたのか、分からない…!?

 意識が急速に遠退き、【魔人化(デモナイズ)】が俺の意思を無視して解除されようとする。

 やっばぃ………これは…マジで………洒落になら……ねえ…。


「ブランゼ、まだ殺すなよ?」

「致命傷は避けましたので、問題は無いかと」


 偽物の俺の言葉に答えながら、軽く頭を下げる隻眼の男。

 …この男より、偽物の方が目上…? ピンク髪も呼ばれて出て来たし……俺の偽物は、コイツ等の中でも上位の存在なのか……?

 遠退く意識の中でそんな事を考えていると―――


「マスター!」


 パンドラ…?

 遠くからメイド装束のパンドラと、少し遅れてフィリスがコチラに向かって走って来ていた。


「く……るな…」


 声が出ない…。

 アイツ等じゃ、コイツ等と戦うのは無理だ。ガゼルもピンク髪の呼び出した魔物の相手で手一杯だし、フォローは期待できない。俺自身は意識を繋ぎとめるだけでも危うい有様だし。


「≪赤≫の従者か? ガランジャ、任せるぞ」


 隻眼の男が言うや否や、パンドラ達の前に背中に様々な武器を背負った巨大な男が突然現れる……まただ、今の転移で飛んで来た様子はなかったのに……やっぱり、アイツ等を認識出来てないのか…!?

 パンドラも目の前に現れた大男に向けて躊躇う事無く銃を抜く―――。


 次の瞬間―――


()ね!」


 大男が、背中の武器の中から槍を抜いてパンドラに振るい―――


――― パンドラの腹を貫いた



「―――――っっッ………」



 黒いオイルと赤い血の混じった液体と、俺には何の為の物なのか理解出来ない機械部品がパンドラの傷から吐き出されて地面に散らばる…。


「パン……ドラ…ッ!!!!!」


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