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6-26 絶望の種

 カグ……秋峰かぐやは俺の幼馴染である―――…。

 出会ったのは、小学校に上がる前だから、もう10年以上の付き合いになるのか…。

 長いな、10年は……。コッチの世界に来てから色々とアッチの世界の思い出がふと頭の中で再生される事があるけど、大抵はカグが一緒に居る。

 まあ…小学校も中学も高校も一緒だったからなあ…。しかも、その間で別のクラスになったのが中学1年の時の1回だけ。もう何か呪われてるんじゃないかと……いや、別にアイツが嫌いって訳じゃねえけど。

 お互い気心が知れ過ぎててなぁ…その~…なんつーの? うん…上手く言えねえけど、そんな感じだ。


 カグとの出会いは今でも良く憶えてる。

 引っ越して来たばかりのカグが、子犬を拾って飼ってくれるようにおばさんに頼んだのだが結局ダメで…、新しい飼い主を探そうにも、アイツは引っ越して来たばかりで相談できる相手も居らず、1人で子犬を抱えて公園の片隅で泣きながら途方に暮れていた。

 当時の俺は……なんでカグに声かけたんだっけ? 「なんか俺達の縄張りの公園に、見知らぬ奴がいる」とか、そんな感じで声かけた気がするなぁ…。

 まあ、ともかくカグと一緒に飼い主を探して歩いたけど結局見つからず、最終的にカグのおばさんにもう一度一緒に頼んで飼って貰える事になったんだよ。


 アレからずっと一緒で……数え切れないくらい喧嘩もして、カグに引っ叩かれたのなんて……もうカウントするのもバカらしい。


 ……でも、その数え切れない程の喧嘩をしてても…


――― こんな冷たい敵意の目を向けられた事はない。



「……お前…何してんの…?」


 空気の壁によって地面に押さえつけられながら、なんとか口を開く。

 そんな俺の姿を、長いストレートの髪を靡かせながら冷たい目で見下ろしているカグ…。

 何…? なんでそんな怖い顔してんのお前…?

 いやっ、それ以前に―――


「なんで、コッチの世界に…お前が居るんだよ……!」


 ………そう言う可能性(・・・・・・・)を考えなかった訳じゃないんだ。

 もしかしたら―――と言う恐怖にも似たその予感を、ずっと見ないふりをしてきただけで…。

 勇者召喚の儀式魔法。俺がそれに巻き込まれてコッチの世界に来たとすれば、俺と一緒に居たカグも巻き込まれて、コッチに来ている可能性がある―――…。

 そして、その予感は当たっていた。

 それを理解した瞬間に、津波のような後悔が押し寄せる。

 その可能性に気付いた時に、すぐにでもカグの事を探しに行くべきだった、と…。


 カグは何も言わない。

 ただ黙って俺達に、白い刻印の浮かび上がる手の平を向ける。

 グンッと背中に圧し掛かっている圧力が増す―――。

 この空気の壁を作ってるの、お前なのかよ……!?


「…おい、アーク…。このお嬢ちゃんは…お前の知り合いか……?」


 苦しそうにガゼルが聞いて来る。

 流石にこの圧力は、竜人(ドラゴノイド)のガゼルでもシンドイのか。


「俺の…幼馴染…だ…」

「…マジかよ…?」


 そのマジかよ、は何に対してのだ?

 俺と幼馴染の両方が魔神の継承者だからか?

 それとも―――幼馴染が敵になってるっぽい雰囲気だからか…?


「……説得できないのか?」

「…分かんない…」


 聞く耳持ってくれてないっぽいんだよなぁ…。


「いい加減黙ったら?」


 お、喋った。

 ……なんか、凄ぇ懐かしい声。2ヶ月も離れてねえのに、なんか変な感じだ…。


「……なあ? カグ……だよな…?」

「………」


 無言でジロッと睨まれる。

 見れば見る程、カグにソックリ……ってか、本人だよな…? 似てるだけの他人ってオチはねえよな…。


「なあ! 俺の事分かる―――…訳ねえか、この姿じゃ……」


 今の俺は【魔人化(デモナイズ)】してて、完全に人間離れした異形の姿だ。そうじゃなくっても、ロイド君の体使ってるから分からなかったかもしれないけど…。


「私の事カグって……」


 お? ちょっと脈ありな感じ?


「そうだよ、俺だよ! 良太―――…」

「リョータだって言うんでしょ?」


 遮るように鋭い口調で言葉を放ち、また敵意に満ちた目―――…そんな目、今までの10年で向けられた事ねえから、萎縮されてしまう。


「……本当に、聞いていた通りの事を言うのね?」

「え…?」


 蔑むような、憐れむような……“敵”に向ける目。


「アンタがリョータな訳ないでしょ?」

「…っ!? なに……言って…んだ…。こんな姿してるけど、俺は―――」

「もう良いわよ。アンタがどこの誰だか知らないけど、聞くに堪えないわ」


 スッとカグの視線が動いて横に向く。


「そうでしょ?」


 何時の間にやらそこに1人の少年が立っていて―――


「ああ。そいつが“阿久津良太”だなんて、何かの冗談かよ?」


 そこに立っていた黒髪の少年は―――



「……俺…?」



 そこには、俺が……阿久津良太が立っていた―――…。


 …え? なんだ?

 意味が分からない。今、目の前で起こっている事を理解出来ない。

 黒い髪に黒い瞳、最後の記憶よりも若干髪が伸びているが…17年間過ごして来た、どこからどう見ても阿久津良太の……俺の姿だった。


 なんで……なんで俺が居るんだよ!?

 だって、俺は―――俺の体はコッチに来る時の事故で死んじまったんだろ!? だから、今俺は精神だけがロイド君の体の中に居て―――…


「カグ、大丈夫か?」

「うん、全然大丈夫よ」


 なんで、カグと親しそうに話してんだよ…!?

 なんで、俺に向けるような笑顔をそいつに向けてんだよっ!?


「て…めえ!! 誰だっ!!?」


 俺の―――いや、阿久津良太の目が俺に向く。

 静かな見下すような、それでいて嗤っているような楽しげな目…。


「誰? お前こそ誰だよ?」

「聞いてんのは…俺だろうがッ!!」

「俺が誰かなんて、そっちも分かってるんじゃないか? 俺は、阿久津良太だよ」


 違うっ!! 阿久津良太は俺だろうがっ!!!

 怒っているのに、頭の中が状況を理解できずに混乱して言葉にならない。


「リョータ? そいつと喋って大丈夫なの…?」

「おっと、そうだった…。コイツは、人の記憶を読んで、心の弱みに付け込む非道な悪魔みたいな奴だからな」


 は…? なんだそれ?

 記憶を読む? そんな能力持ってねえよ!!?

 いや…待て、もしかして、その誤情報のせいでカグの奴は話聞かねえんじゃ―――


「それより早く≪青≫の人を連れて行こう」

「うん。あの人は、私達の仲間になってくれるんでしょ?」

「ああ、きっとな」


 目的は……水野!?

 だから、このタイミングで出て来たのか? 決着がつく寸前の、水野が大人しくなって俺達が弱ったこのタイミングを……!


「待て…よ! そいつを…連れて行かせる…訳、には…!」


 水野を、ここで仕留めなきゃ……!

 気合いを入れて立ち上がろうとするが、力が入らない……それどころか、【魔人化】が今すぐにでも解けちまいそうだ…!?


「後輩、ここは任せとけって……!」


 額に脂汗を光らせながら、ガゼルがなんとか風の壁に抗って立ち上がる。

 自分の能力で押し潰せなかった事に驚くカグ。対照的に、ガゼルになんの興味も無さそうに阿久津良太は―――。


「エスぺリア、遊んでやれ」

「はい、はぁ~い」


 転移の光と共に目の前に現れたのは、ピンク色の髪をしていた。


「あらぁ? ≪赤≫の坊やじゃなぁーいぃ? お久しぶりぃ」


 コイツ―――ソグラスを…アステリア王国に魔物を放ったピンク髪!?

 なんで、コイツが出て来るんだよ!?

 コイツは、魔神の力を狙ってるって言う連中の仲間だ。じゃあ、カグは…“俺”はコイツの仲間なのか…!?


 くそっ………何だよコレ!?


「どうなってんだよおおおおおっ!!!!」



 俺の叫び声が虚しく辺りに響いた。



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