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6-23 竜人vs魔人

 ガゼルの通り名は“竜帝の牙(ドラゴンファング)”。

 初めて聞いた時は「なんじゃそりゃ…」と思ったものだが、こうして本当の姿を見せられると、的を得た名前だなぁ……っつか、まんまのネーミングだな…。ガゼルがあの通り名を嫌がってんのは、もしかして自分が竜人(ドラゴノイド)だって事がバレる事を危惧してるからなのかな……。

 まあ、どうでも良いか。

 今重要なのは、ガゼルの本気が魔人に引けを取らない怪物級だって事だ。


「なんだよお前ええっ! 俺は、≪青≫を宿してるんだぞ!? 超絶な力を持つ魔人なんだぞ!? 同じ条件の≪赤≫ならともかく、テメエみたいなコッチ側の雑魚になんでやられてるんだよおおおっ!!」


 自分の思い通りにいかずにごねる駄々っ子かお前は……。

 今までの会話でも若干そんな気がしていたが……やっぱりコイツ、精神が年齢や見かけと釣り合ってない。

 コイツは決して大人じゃない。ただの歳食っただけのガキだ。

 責任とか協調性とか、そう言った物を全部横に放り投げて、目の前にある現実と向き合う事を全力で拒否している。


「お前の力が強いのは認めよう。原初の≪青≫が強力なのも、な。だが、だから何だと言うんだ? 貴様自身が神になった訳でもあるまいし」

「ぁあ? 何言ってんだよ? 俺は魔“神”の力を持ってんだよ! この世界の俺は、神なんだよ! 誰も俺に逆らえねえんだよ!!」


 それを聞いて、ガゼルが「ダメだコイツ」と呆れた顔をする。


「同じ原色の魔神でも、≪赤≫はガキとは言えちゃんとしたのを選んだってーのに、≪青≫は随分どうしようもない馬鹿を選んだもんだ……」


 ……あれ? ちょっと俺褒められた? 同時にガキ扱いでディスられてるけど……。


「あれ? あれれー!? もしかして俺ディスられてる!? ディスられてるよねえ!? ……下等な爬虫類が、俺の事を見下してんじゃねええええ!!」


 全身の傷に構わず転移でガゼルに飛びかかる。

 背後への転移―――しかし、ガゼルは動かずに静かに尻尾を振り、転移直後の水野の体を横から打ち飛ばす。


「ごぁっ!? ちっきしょうがああっ!」


 更に転移する。

 右に、左に、上に―――フェイントを交え、水と氷の弾丸で牽制し、冷気で目くらましをする。

 そして十分な準備の上で放たれる、必殺の一撃―――


「死ねやああああ!!」


 ガゼルの直上から、頭を真っ二つにしようとする上段からの切り落とし。

 あまりにも単純な攻撃だが、変な小細工が挟まっていない為に凄まじく剣速がヤバい。この攻撃の前に色々な攻撃で注意を散漫にさせられて居た事を踏まえれば、間違いなく体に届く。


 普通の相手なら…。


 ガキンッと、氷の剣が槍にシッカリと受け止められる。


「―――っ!!?」

「何遍も言わすな。竜人(ドラゴノイド)を舐めてかかり過ぎだぞ?」


 シュルリとガゼルの尻尾が伸び、空中に居る水野の足を絡め取る。


「な…!?」

「落ちろ」


 そのまま尻尾で足を引っ張って地面に引き摺り落とし、立ち上がる間を与えずにフルスイングで蹴る。


「そら」

「ぐぉおおーーーっ!!!?」


 ゴッ―――と土煙が巻き起こる蹴りで水野の体を吹き飛ばし、足に巻き付いたままの尻尾で引き戻してまた蹴る。

 2度、3度…そこでようやく水野が転移で尻尾を振り解いて距離を取る。


「なんなんだよ…なんなんだよお前っ!! なんなんだよその強さはよぉお!!」


 フーフー、と獣のような荒い息を吐きながら殺意と冷気をガゼルに叩きつける。

 対してガゼルの方は、表情も変えずに殺気はサラリと流して、冷気は羽ばたきで散らす。


「お前、本当に理解できてないのか?」

「ぁあ?」

「俺が強いから圧倒出来てるんじゃないぞ?」

「……なんだと…?」

「お前がさっきウチの後輩と戦ってたのを、俺がボンヤリ見てたとでも? お前の手の内も動きも、アークの奴が俺に見せてくれたからな。予測も対処もさほど難しくない」


 自分がやられたら、そこでジ・エンドだと思ってたけど、こうやって自分の戦いを糧にして、繋いでくれるって場合もあるんだな……。

 今まで、俺が1人でなんとかしなきゃ…って状況ばっかりだったから、自分の後を誰かが引き継いで戦うなんて展開初めてだ…。


「なんだそりゃ…? だから俺が勝てない、ってか!!!!? ぁあっ!?」


 水野を中心に冷気の渦が広がる―――

 【熱感知】で視えていた景色が一瞬で真っ白に染まり、この冷気に呑まれる事が常人に取っての死を意味する事を理解する。


 やべぇ…冷気はここまで届くぞ…。

 パンドラとフィリスは…耐寒魔法で防御してもかなり厳しいだろう。

 俺は……よし、少しは体が動くようになった。戦闘に首突っ込む事までは流石に無理そうだけど、自分の周りを護るくらいなら―――!

 地面に倒れたまま、手を伸ばしてパンドラとフィリスを抱き寄せる。


「マスター?」「あ、ああ≪赤≫の御方!!?」

「ジッとしてろ」


 【レッドエレメント】で俺を中心とした半径1mくらいの小さい範囲に、冷気をシャットアウトする熱の結界を張る。

 くっそ…力が入らなくて、こんな小さな空間しか護れねえ…。


「マスター、あまりご無理をなさらないで下さい」


 俺の胸に耳をくっつけたままパンドラが少しむくれたように言う。


「仕方ねえだろ…放っておいたらお前達が危なかったし……」

「仕方なくありません。マスターの体が最優先です」


 ……と言いつつも、どこか満たされたような顔をしている気がするんだが……まあ、気のせいか。

 フィリスからも何かクレームが来るかと思ったら……。


「…あ、あ、ぁか…≪赤≫の御方……、このような場所で…いけません!」


 何がだ…?

 何故にお前はそんなに長い耳まで真っ赤にして、潤んだ目で俺を見る…?


「い、いえ! 決して嫌という訳ではないのですよ!? で、ですが、こう言う事は…その…場所や…雰囲気が……」


 ………とりあえずコイツはスルーしておこう。

 それよりも、冷気の渦が小さな氷の粒を巻き上げて、さながらダイヤモンドダストみたいになっている。

 正直、気を抜くと冷気が俺のスキルを貫通してきそうなくらいだ…。熱量上げれば大丈夫だけど、それをやるとパンドラとフィリスを焼いちまうからな。

 【熱感知】の視界だけでなく、自身の目で見ている景色も真っ白に染まり、その白いカーテンの向こう側から何かがぶつかり合う音や、時折地面を揺らすような振動。

 【魔素感知】で視ようとしても、空中に飛び回る氷の粒は魔素を固めた物なので、魔素の流れが乱されまくり…言ってみれば、この氷の粒は俺にとってのノイズのような物だ。【魔素感知】で視界を得ようとすると、大昔のブラウン管テレビで良く有ったと言う砂嵐のような光景になる。

 ハッキリ言って、何も見えない。

 

「パンドラ、2人の戦いがどうなってるか分かるか?」

「各センサーでのデータ取得に失敗。私に搭載されているセンサーでは周囲の状況を把握する事は無理です」


 見守る事も出来ねえか…。

 この白い視界の先で、ガゼル1人で戦ってるってのに……。

 無事を祈る事しか出来ねえのかよ…!



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