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6-18 ≪青≫の真価

「ガゼル、飛びかかる前に忠告だ」

「あん?」

「もしかしたら、野郎は血流操作が出来るかもしれない。出来るだけ血を見られるな、最悪でも血に触らせるな」

「また無茶な注文を……そこいらの雑魚相手じゃないんだぜ?」


 ウンザリしたように返されても困る。

 俺だって正直ウンザリしてんだから……。


「血管爆破されたくねえなら我慢しろぃ」

「へーい」


 人間相手…しかも俺と同じ異世界人だから、無意識に殺そうとする意識が鈍っていた。

 さっき心臓を貫かれて倒れた時も、「生きてるんじゃないか?」と頭では死を疑っていたのに、近付いて即座に首を切り落とそうと言う行動には繋がらなかった。

 傷を負わせた時に、その傷に触れて【バーニングブラッド】を使おうと思わなかった。


 認めなければならない。

 全部、俺の無意識に持っていた“出来れば殺したくない”と言う甘さのせいだ。


 けど、こっから先はもう迷わないし躊躇わない。

 少しだけど話して分かった。コイツは、この世界に野放しにするには危険過ぎる。いや、危険なのは知ってたけど…それを再確認した。

 この世界に来てあんな人間になったから、そう判断したんじゃない。元の世界でも、コイツはそのままの人間だったんだろうってのが透けて見えたから、危険だと思ったんだ。

 水野のにとっては、目の前の気にいらない物は人だろうが何だろうが、存在を否定する対象でしかない。明日の事も考えず、ただその日、その一瞬の快楽を得る為に生きる。

 ……いや、それってもう生きてるって言えるのかさえ疑問だよな…?


「アーク、行くぞ!」

「おう!」


 同時に、左右に分かれて走る。

 水野が反応するよりも早く、目の前に炎の壁を作って視界を奪う。

 水野は慌てない。感知能力があれば、炎の壁が目の前にあっても俺達を見失わないからだ。

 けど、炎の壁を単なる目隠し(ブラインド)だと思われたんなら好都合!

 炎の壁から、水野を捉えようと触手のように真っ赤な炎が伸びる。


「うっざ…」


 水野が軽くバックステップで炎から逃げながら、追って来る炎を目の前に作り出した水球を飛ばして消して行く。

 ボシュン、っと気の抜けるような音と共に炎の壁が水で鎮火された。

 対応が早い。けど、ガゼルが突っ込む時間は稼げた。


「―――ふっ!!」


 離れている俺にまで聞こえる程強く息を吐き、その気合いを乗せて槍を振る。

 水野は、薄ら笑いを浮かべてその槍と正面から氷の剣で斬り合う。


 さっきまではガゼルが圧倒的に押していた。

 けど、それは水野がスキルのサポートの無い槍で戦っていて、しかも刻印も使っていなかったからだ。

 今のガゼルと水野では、どう考えても分が悪い―――…


「くっそ! ウザいよお前っ」

「それはお互い様だろ?」


 ……と思ったけど、言う程押されてない?

 慌ててフォローに入ろうとしていた足を、思わず止めてしまう。

 能力的にはガゼルの方が不利だと思ってたのに…水野の氷の剣を、静かに避け、必要なだけ防御して、隙があれば反撃する。

 刻印を出してる水野の攻撃に対応出来てる…っつか、下手すりゃ押してる…。

 何、お前? マジで何もんなのさ? 亜人の血が混じってるって言うから、身体能力や感覚が優れているのは納得して来たけど、それにしたって能力値高過ぎない?

 水野が、剣戟の間に氷の矢や、水の弾丸を色んな方向から飛ばしているが、それも服を破かせる程度の事はあっても肉体に傷を付けさせるところまでは行ってない。


 ……そもそも、亜人の血って言っても、何の種族の血が混じってるのか結局教えてくれねーし…。

 っと、ガゼルに関する諸々の疑問は、終わった後に飯でも食いながら聞いてみる事にしよう。今は、水野を倒す事優先!


 ガゼルと正面から斬り結んでいる水野の背後に転移。

 背中を狙うなんて正々堂々とは言えないかもしれないが、リングの上の殴り合いじゃないんだし、気にしないでおく。


「チッ」


 ガゼルの槍を氷の剣(インディゴ)で受けつつ、片手を俺に差し出すように突き出す。

 無防備で受ける……つもりはねえよな!?

 予想通りに、差し出された腕に届く前にヴァーミリオンが氷の盾に止められる。

 面倒臭えなっ! この氷の盾、硬くて融けないから嫌いなんだよ…。

 

 ガゼルが予想以上に強いのは分かった。

 俺との連携もそこそこ出来る。

 それは良い。

 けど、水野だって戦いに関しては馬鹿じゃない……まあ、コイツが戦闘技術と状況判断が早いのは、多分自身の経験値の蓄積から来る物じゃなくて、≪青≫の知識と知恵を継承してるからだろうけどな。

 まあ、そこはともかく…、水野も黙って殺られてくれるような相手じゃないって話。

 俺とガゼルが数の利を活かして左右や前後に分かれて攻めようとしても、細かく【空間転移】と【浮遊】を使って位置取りを変えて、俺達を一方向に纏めて相手取る。

 氷結の防御スキルを使いながらも、それに頼り過ぎずにちゃんと回避も防御もする。

 無理な反撃はしようとせず、確実な切り返しが出来る時以外は完全に受けに回っている。


 ……褒めたくねえけど、判断と言い攻撃の捌き方と言い……拍手の1つでも送りたいくらいに完璧だな。

 間を縫って氷の盾の内側に炎を撒こうとしても、氷が周囲の魔素を吸い集めて固めちまうから、火の点きが悪いんだよ。


「はっ!」「らああっ!!」


 同時に飛びかかる俺とガゼル。

 俺の攻撃を剣で受け、ガゼルの槍を―――転移で避けた!?

 飛んだ先はガゼルのすぐ横、現れた時には足を振り被っていて、ガゼルも反応が間に合わない!

 ゴギンッと重い蹴り音、ガゼルが口の端から血を吐きながら吹き飛ぶ―――


「ガゼル!!」


 吹き飛びながら、地面に槍を突き立ててブレーキをかけ―――


「そこで、大人しくしてろ!」


 地面に足をつけた途端、その体を氷の膜が覆う。

 凍らされた―――!? と思ったら、内側からガンガンっと氷を叩いてる…良かった、一応まだ無事か…。

 俺が安堵の息を漏らすと…


「心配しなくても殺してないよ? 邪魔だから閉じ込めただけさ」


 ヤベエな…。助け出そうにも、氷の内側はガゼルがギリギリ入ってる状態。中に入って転移で連れ出すって訳には行かねえぞ!?

 それに―――


「中の酸素の保証は出来ないけどね?」


 だよな、やっぱり…。

 あの小さな空間の中で、何分持つ? あの中じゃまともに槍どころか拳も振れねえし、ガゼル自身の力での脱出は絶望的だ、俺がなんとか助け出さねえと…!


「さあ、じゃあ魔神同士の対決を再開しよう」


 コイツが助け出すのを呑気に待ってくれる訳はねえよな…。

 なんとか隙を見つけて助けねえと……タイムリミットは10…いや5分くらいに見積もっておくか。


「そろそろ、派手な技を使っても良いよな!」


 冷気が辺りに満ちる。


――― 何か来る!?


 周囲の魔素が集まって渦を巻く。


「“冷気の世界(ゼロフィールド)”」


 周囲に、魔素を固めた大きな氷の柱が作り出され、ズンッと大きな音と共に地面を揺らす。1つ、2つ……全部で6つ。


「さあ、楽しもうぜ!」


 水野が突っ込んで来る。


「勝手に楽しんでろっ!」


 牽制に炎を放とうとして気付く。


――― 炎が使えない!?


 周囲の魔素が薄過ぎて、発火出来ない!?

 やられたっ! あの氷の柱、この為に作った物かよ!?

 野郎の狙いは、俺の炎封じか!?


「くっくっく…、顔色が悪いぜ?」


 狙い通りに俺が焦っているのを見て、心底楽しそうに笑う。

 腹立つ、マジぶん殴りてえ、っつかぶっ殺す!

 いや、それより状況が悪過ぎる…! 炎を奪われてもやれる事はやれるが、戦闘力がガタ落ちだ。それにガゼルも助けに行かなきゃならねえっつうのに…クッソ、どーする…!?



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