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6-14 炎と氷

 森の跡地を観察して、相手の能力の一端はボンヤリと見えている。

 水と冷気を使う能力者。

 このうち冷気の方が魔素に直接干渉するタイプの能力である事は知っている。森を押し流した水を操る能力に関しては、直接見てみない事にはなんとも言えないが、跡地の魔素の減少量を見るにコッチも同じじゃないかと俺は予想している。

 魔素に干渉するスキルの攻略には自信がある。コッチには魔素を消費する【魔炎】があるからな。

 ……とは言え、絶対って訳でもねえか? エグゼルドには効かなかったし…魔素の支配力が高い相手にはこの手は通じないって事も頭に入れておかないとな。

 でも、それでもガゼルに比べれば俺の方がまだ対応力はある!


「先行くぜ!」


 転移で水野の右後ろに飛び、即座に片足を飛ばすつもりでヴァーミリオンを振る。


「おっと」


 ヴァーミリオンの剣閃に、氷の槍が割り込んで止める。

 それは、想定内―――


「だっつーのっ!!!」


 水野の体を火炎が飲み込む。

 さて、どう来る?


「【ブルーエレメント】」


 水野の体から噴き出す、真っ白な冷気!?

 体を包んでいた炎が噴き散らされて、同時に俺の肌に突き刺さる様な冷気が襲う。


――― ヤバいっ


 咄嗟に【レッドエレメント】で体から熱を放出して体の凍結を防ぎ、急いでその場から飛び退く。

 ああ、そうだった! 魔素干渉型の能力だけじゃなく、魔神からもたらされた力にはノーコストで発動できるエレメント系のスキルがあったっけ…! 自分は当たり前に使ってたから、相手も似たようなスキルを持ってるって事に頭が回らなかったな。

 一旦離れた俺に、水野が穂先を向ける。「今度はコッチが攻める番だ」とでも言いたそうに口元を歪める。

 が、甘い。


「どこ見てんだ!?」

 

 すでにガゼルが距離を詰めて、水野の脳天に向けて槍を突き出している。

 水野が反応する、だが遅い! ガゼルの槍を振り抜く速度は回避も防御も許さない。

 決まった―――と思ったのに……


「【冷纏】」


 放出された冷気が空気中で固まって氷の盾となってガゼルの槍を受ける。


「!?」「なっ!?」


 ガゼルは少し顔をしかめただけで済ませたが、俺は完全に驚いてしまった。

 この3日の間で、何度かガゼルとはお互いの動きを良く知る為に手合わせをしたが、今の攻撃はガゼルの9割くらいの本気で殺しに行く時にだけ見せる奴だ。

 とてつもない身体能力に物を言わせた踏み込みの速度から、腰と肩の捻りの力を腕から槍に伝えて撃つ。

 そこらのクイーン級の魔物でも一発で屠る、“必殺”と太鼓判を押して良い一撃だ。


 でも…防がれた。

 氷結の防御スキル……多分、ヴァーミリオンの【火炎装衣】と同じ、発動時に消費した冷気に応じて硬度の増すタイプのスキルだ。

 くっそが…何から何まで鏡映しみたいで気持ち悪い…!!


 俺が水野の能力を解析する間に、ガゼルは更に攻める。

 足を狙う、腹を狙う、腕を狙う、首を狙う。

 高速で突き出される槍が水野の体に届く30cm手前で、一瞬で氷の盾が形成されて全ての攻撃を防ぐ。


「ダメダメー、そんな攻撃じゃ届かないよ~?」


 水野が氷の槍をカウンターで突き出す。

 ガゼルは槍を突き出している腕を無理矢理横に振る事で払い落す。

 すかさずその隙を狙ってガゼルの反撃―――が、氷の盾がそれを阻む。


 防御が硬い―――けど、引き換えに攻撃が…武器の扱いが凄まじく御粗末だな? ガゼルと同じ槍で戦っているから、その技量の差が良く分かる。

 ガゼルの槍は、一撃一撃が相手を死を与えようとする研ぎ澄まされた…一発の銃弾のような鋭さ持つ。それに対して、水野の槍捌きは…まるで、子供の御遊びだ。


 ああ、そうか! アイツは持ってないんだ、俺のように武器を自在に操る【マルチウェポン】を。

 ガゼルの奴は技量を長い時間をかけて研鑽してきたマジ物の実力者だ。

 だが、水野には技量を磨く時間も、その時間を一瞬で埋められるチートなスキルも無かった。アイツの武器の扱いのダメさ加減は当然だな。


 武器の扱いが下手ってのは明確な弱点だ。

 魔神の力で身体能力が化物染みて高くなっているから、有る程度の誤魔化しは通じるが、コッチは同じ魔神持ちと、負けず劣らずな怪物級の身体能力のガゼルだ。

 今、あの冷気の防御スキルさえなんとか出来れば、ガゼルならアッサリ仕留められるんじゃねえか?

 狙ってみるか?


「ガゼル!」


 いちいち作戦を口にするようなバカはしない。

 ガゼルなら、俺が何をするのか酌んでくれる。もし仮に理解してくれなくても、アイツなら勝手に状況を見てなんとかする! ……多分!

 俺の声に反応してガゼルが半歩下がる。

 水野も俺が何かをしようとしているのは気付いている。だから、ガゼルが離れる事を作戦だと感じて、氷の槍で牽制しながら慌てて距離を詰める。


「槍の振り方も、距離の取り方も雑過ぎる。槍を舐めてんのか!?」


 スッと片足を踏み込む動きで、水野のそれ以上前に出る事を制し、氷の槍を上から打ち降としそのまま下から掬い上げるように氷の槍を空中に飛ばす。


「…ちっ」


 水野が舌打ちと同時に【空間転移】で空中に飛んだ槍の上に飛んでキャッチ―――


「アーク!」

「グッジョブだ!」


 ヴァーミリオンの蓄えている熱量を解放!


「焼滅しろっ!!」


 剣を振るって熱量を放射―――ヒートブラスト!

 転移直後のタイミングを狙った攻撃。

 転移直後の瞬間的な意識の隙間―――。転移を何度やっても、視界が一瞬で切り替わるとどうしても周囲の認識しようと意識が瞬間的に止まるんだよ。俺も転移を相当使い慣れてるつもりでいたけど、この前の戦いでガゼルにコソッと注意されて初めて気付いた弱点だ。

 だから、この攻撃は避けられない!

 水野の前に冷気が集まり、何重にも氷の盾が作られる。


「―――クッソがあああッ!」


 だが、そんな薄い氷じゃ俺の熱は防げないぜ!

 …とか、格好良く言いたいところだけど、どんだけ硬ぇんだよあの氷!? ヴァーミリオンの腹の中にある熱量を8割くらい使ってる相当本気の熱放射なのに、ジリジリとしか溶かせねえ!?


 熱を出し尽くしてヴァーミリオンが大人しくなる。


「は…はっはっは! 受け切ったぜ? 俺の―――」

「誰か忘れてないか?」


 空中を漂う水野がハッとなって視線を下に向ける―――と同時に、下から音速を超えて飛んで来た槍が、薄くなった氷の盾をぶち抜いて深々とその右腕を貫く。


「ぁああああぎゃあっ!!!?」


 地面に撃ち落とされて肩に突き刺さる槍を掴んで転げ回る。


「ふぅ、まず腕一本」


 槍を投擲した姿勢のまま、ガゼルが「やれやれ」と溜息を吐く。

 ヒートブラストを受け切られたのはショックだが、コッチは1人じゃないんだし、そのアドバンテージは存分に使わせて貰う。


「くっそ、くそ!! ふざけるなよお前等っ!? 俺が手加減してやってれば調子に乗りやがってっ!!?」


 いきなり三下臭いセリフを言いなさる…。

 俺の心の中のツッコミを無視して、右腕の槍を抜いて地面に投げ捨てると立ち上がる。

 投げ捨てられた血の付いた槍が独りでにガゼルの手元に戻る。……その投げても戻って来るシステムなんなの? 何? お前の槍はグングニルなのか?


「ガゼル無事か?」


 隣に転移しながら、一応聞いておく。


「ああ、攻撃一発も食らってないからな? アイツ、槍術に関しては素人のくせに、身体能力と反応速度が異様に高くて良く分からんな…? さっきも頭貫くつもりで投げたのに、体勢変えて避けられたぞ」


 俺と同じで魔人になれるなら、【浮遊】も持ってる筈だからな。

 しかし、あのお膳立てで腕一本か……。


 でも、まあ、攻略できない相手じゃない!



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