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6-12 エンカウントブルー

 妖精の森の跡地に≪青≫が現れないまま、3日が過ぎた。

 その3日の間に、各ギルドの支部から“見慣れない闇色の髪と瞳の男”の情報がポツポツと入り、フィリスが行った事のある場所には【長距離転移魔法(ハイポータル)】で向かい、それ以外の場所はギルドの方で転移魔法を使える人を呼んで貰って会いに行った。

 結局、そっちでも目的の≪青≫を持った人間は見つからなかった。

 ただ…ガゼルの言ってた異世界人がやけに増えてるって話は本当だな。


 それに、気になる事がある。


 明弘さんがコッチに来たのは、勇者を召喚する儀式魔法で呼ばれたからだ。俺に関しても、恐らくその巻き添えだと思う。

 じゃあ………他の異世界人はなんでコッチの世界に居るんだ?

 月岡さんの事もそうだし、今回出会った人達もそうだ。皆、気付いたらコッチの世界に居たって言ってたけど、異世界人がそんな頻繁に引っ張り込まれるって明らかにおかしいだろ。

 これ…誰か、もしくは何かの意思が、俺達の世界からコッチの世界に人間を引っ張り込もうとしてる気がする。まあ、それが何の為かは分からんけど…。


 ……異世界人云々に関しての話は置いといて、3日の間にした俺等の活動の話。

 ガゼルに協力して貰って、森の跡地の見回りがてら少しずつ妖精の遺体を探して、掘り起こして順次弔う。と言っても、いつ≪青≫が現れるかも知らんから、森の跡地に近付けるのはガゼルと俺等3人だけ…。流石にこの頭数だと遺体を探す作業も思うように進まず、3日かけてようやく全体の5%ってところかな?


 そんな報告を白雪伝いに他の生き残りの妖精達にしたところ、すぐにでも墓参りに来たいと言いだした。気持ちは分かるが、この一件が片付くまではここは危険過ぎるので、それまでは待って貰う。



 で、現在の話。

 ガゼルと俺とロボとエルフの4人で、いつも通りに森の跡地を警戒しながら歩いて妖精の遺体を探す。


「なかなか≪青≫は現れねえなあ…」

「そうですね。痕跡、形跡は発見できませんので追跡のしようもありません」

 

 って事は、やっぱここ離れる時には転移を使ったか。

 転移を追跡する魔法やスキルってのも存在はするらしいが、転移の使い手以上に希少らしいからなぁ…。やっぱギルドの情報を待つか、ここに戻って来るのを網張ってるしかないか…。


「待つしかないってのも、精神的にシンドイなぁ」

「忍耐のねえ男は女に嫌われるぜ?」

「じゃあ、お前ぇもモテないだろうが」


 なんか、3日の間にガゼルにツッコミ入れるのにも馴れて来たな。

 一緒に居てくれれば魔物にもいち早く気付くし……。なんだろうな? あの無駄な勘の良さは?


「世界中の異性に嫌われても、私はマスターのお傍に居ますので安心して下さい」


 別にそこは不安に思ってなかったけどな。


「わ、私も≪赤≫の御方に尽くし続けますから!」


 無駄に張り合わんで良いっつーの…。


「はいはい、ありがとうな」

「そう言えばアーク? お前<夜の処刑人(エグゼキューター)>に連絡取ろうとしてたんだろ? そっちはどうなったよ?」

「音沙汰なし」


 ≪黒≫の女―――えーと…ルナだっけ? が、俺からの連絡を無視する事はねえと思うんだけどなぁ…。

 暫くどこのギルドにも立ち寄って無いだけかな? キング級の業務は知らないけど、いつもパッと来てパッと帰るし、もしかしたら忙しい奴なのかもしれん。


「ダメそうじゃないか? 元々、人前に姿を見せる事すら珍しい奴だし」

「うーん…かもなあ」


 戦力として期待していたのは本当だが、居ないなら居ないで俺達でどうにかする…。まあ、その程度の期待だ。

 でも、≪黒≫が居ないなら気を引き締めて置かないとな。


「マスター、アチラの陰に」

「ん? おう」


 パンドラが指差した、倒木の死角……土から萎れた蝶のような羽が生えていた。


「掘り起こそすぞ」

「はい」「……急いで出してあげましょう」


 パンドラとフィリスが素手で作業しようとするのを、ガゼルが先に立って倒れていた中々の太さの木をヒョイッと持ち上げる。


「掘るのに邪魔だろ?」

「ありがとうございます」「…すまない」


 女に対しては、本当に気使い屋だよなぁ…流石ナンパ師。今も、女2人が手を汚さないように率先して土を掘ってるし。

 俺も掘るのに協力したいのだが…フィリスが「≪赤≫の御方の手を土で汚させる訳には行きません」とやらせてくれないし、パンドラは「戦闘能力的にも探知範囲的にも、マスターが警戒に当たるのが宜しいかと」って言うし…。


 ん?


 ……今…なんか、変な感じがしたような…?

 辺りを感知能力を使って見渡して見るが、特に異常はない。

 気のせいか?

 ガゼルも黙々と土掘ってるし。やっぱり気のせいだな。


「マスター、どうかなさいましたか?」

「いや、気のせいだった。それより―――」


 3人の手元を見ると…土に塗れた妖精の遺体。

 土に埋もれる前に何かがぶつかったかしたのか、体の右半分が酷い潰れ方をしていた。


「…弔ってやろう」

「はい」「……ありがとうございます」


 ガゼルが大事そうに遺体を抱き上げ、体に付いた土を優しく払う。

 遺体を抱き上げる事に迷いは全く無く、それどころか敬意さえ感じるような手付きだった。そんなだからかな? フィリスも人間が(実際は純粋な人間じゃないらしいが…)妖精を抱き上げても文句を言わない。

 いつもは軽そうな癖に、遺体を見つけるたびにこんな感じだコイツは…。やっぱり、亜人の血が入ってるって言ってたし、その辺りの事情もあるのかな?


「可愛い顔が台無しじゃねえか…。妖精は流石に俺の守備範囲外だが…女をこんな殺し方して良いわけねえ」


 いつも通りに見えるが、どこか言葉の奥に怒りを感じる口調。ナンパ師にはナンパ師の矜持があるって事か…。

 近場の水場で手を洗うパンドラとフィリスに手を拭く布を差し出す。


「一旦墓まで戻ろう」


 3人が無言で頷いて俺に続く。

 ………遺体を見つけた後に空気がズンッと重くなるのはいつもの事だ。何人見つけたって、慣れるもんじゃねえ。

 見知らぬ人…しかも相手は普通の人ですらない。けど、そこは関係ない。妖精には妖精の日常があって、それを突然終わりにされた…。それが、妙に悲しくて仕方なかった。


 会話の無いまま10分程歩いて―――


 妖精のお墓。

 大層な物ではない。少し大き目の石と、倒れたここの森の木で作った十字架で作った、急ごしらえの簡素な物だ。リザリアの町の近くで摘んできた花を供えてあるが、そもそも花が少なくて全員分供えられてないし…。


 そんな並んだお墓の前に、1人の男が立っていた。


――― 黒い髪に黒い瞳


 神経質そうな顔の若い男。多分20代前半。

 どこか気だるそうで、どこを見ているのか分からない目が墓の周りを行ったり来たりしている。

 そして、その靴の下には……踏み潰された花。


「おい」


 俺の声に反応して、ユックリと男が俺達を見る。

 ゾワリとした感覚。刃を心臓に突き付けられたような圧迫感……ああ、分かる…この感覚を俺は知ってる。


――― 魔神の気配


 どうやら男の方も同じ物を感じたようで、初めて目の中に生気が宿る。


「へぇー、お前が≪赤≫か?」「テメエが≪青≫の継承者か?」


 お互いに答えは要らない。相手が自分にそれを問う事が、すでにもう答えだから。

 俺達の言葉を聞いて、ガゼルがパンドラとフィリスを後ろに下がらせて、抱いていた妖精の遺体をフィリスに預け、背中の槍を抜く。


「一応訊いておくぞ? ここをこんな状態にして、妖精を殺したのはテメエか?」


 俺の問い掛けに、ニヘッと興味無さそうに薄く笑う。


「そうだよ? だから何?」

「決まってんだろ―――」


 ヴァーミリオンを抜き放つ。


「ぶっ潰すッ!!!」



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