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6-8 2人のクイーン級

「さーて、じゃあ次は先輩の格好良い戦いを披露しようじゃないの!」


 準備運動がてら、軽く腕を回して俺の前に出る。

 残りの魔物を進んで処理してくれるって言うのなら喜んで押し付けたいところだが、今は町が後ろにある。万が一があると洒落にならんし、俺も参加して速攻で終わらせるか。

 前を歩くガゼルの背中に追い付いて、横に並ぶ。


「コッチは後ろに町背負ってんだ。1人より2人の方が早く終わるし、その分町への危険も少なくて済むだろ?」

「お? チビの癖にクイーン級らしいセリフ吐くじゃねえの?」

「おぃ、今チビッつったろ? 蹴り一発ツケにしとくからな」

「止めてくれ…俺の魅力的な尻が歪んじまう」


 歪むどころか、むしろ割れてしまえば良いのに…。


「俺のヒップラインには万人の女の愛が注がれているんだぜ?」

「知らねーよ」


 男のケツ事情なんぞミジンコ程も興味ねえわ。

 馬鹿な話をしている間に、ヒートブラストが届かなくて生き延びた魔物達が目の前に迫ってるし―――、


「いくぞ、後輩!」


 槍をクルッと回して構え直すや否や、帽子を押さえて地面を砕くような踏み出してガゼルが飛び出す。

 ―――って、速っ!?


「おぉおおおおおっ!」


 先頭を走っていた狼型の魔物を槍が串刺しにし、魔素となって飛び散るよりも早く槍を振って魔物の体をすぐ後ろに迫っていた魔物達に投げて、数匹をまとめて吹き飛ばして壁にめり込ませる。

 横に迫る蟷螂のような魔物の鎌を、槍の持ち手の位置を変える事でリーチを調整して器用に受け流す。間を置かずに踏み込んで蟷螂を蹴り飛ばして、その背後に居た熊にぶつける事で2匹の動きを封じる。そして、2匹纏めて槍で貫く―――。


「おーい、仕事しろ後輩」

 

 っと、強さに見惚れてる場合じゃねえ。

 俺も行きますかね!

 【空間転移】で魔物の列の背後に回る。

 折角2人居るんだ、効果的に挟撃と行きましょうや!


「ほーら魔物達、ケツに火が点いてるぜ?」


 俺に背を向けている魔物達に向けて【魔炎】を発動。

 魔物を形作る魔素が瞬時に燃え上がり、凄まじい勢いで消費される。

 振り返ろうとした瞬間に体が四散して、魔石だけが地面に落ちる。

 

 うーん。やっぱり魔物に対しては【魔炎】1つでどうとでもなるな。

 つっても、エグゼルドのように魔素の支配力の高い魔物も居るかもしれないし、油断は禁物だ。

 ヴァーミリオンを片手にぶら下げて、次々と魔物に発火させて消し飛ばして行く。たまに耐久力が変に高いのが炎に焼かれながら俺に突っ込んで来るが、それはヴァーミリオンで首を飛ばして仕留める。

 今日は始めっからヒートブラストをぶっ放したからか、ヴァーミリオンがやけに機嫌が良い。こう言う日は【炎熱吸収】で熱を溜める速度がいつもより2割増しぐらいになるのでとっても戦いやすい。


 2分も経たないうちに後ろを固めていた魔物は焼き終わり、前から文字通り槍で突き崩していたガゼルと合流。


「おう」「よう」


 そして、俺達の間に居る魔物は残り1匹。

 体長は2m50cmってところか。大きい事は大きいが、サイズだけで言えばソグラスでエンカウントしたデカミミズの方が圧倒的だ。

 姿は…黒いフルプレートを着た騎士っぽい。けど、背中から羽のように生えている6本の禍々しい腕が、異形である事を全力でアピールしている。


「気を付けろ後輩! コイツは、アシュラナイトだ。腕の動きが速いから注意しろ」


 何だアシュラナイトって…。和風なのか洋風なのかハッキリして欲しい。


「へーい」


 腕が速い、ね…。とりあえず、どの程度速いのか見たいな。ちょっと仕掛けてみるか?

 ヴァーミリオンを両手持ちに切り替えて、あえて読みやすい動作で踏み込む。

 黒い鎧の上のバケツのような兜が微かに俺の方に動き、右腕が振られるけど距離が遠い…距離を読み間違えた?


――― 訳ではなかった!


 突然右腕が伸びた…じゃねえ!? 腕を振りながら、手の中に魔素で武器を作った!?

 握られているのは―――鎧と同じ黒い輝きの太刀。


「チッ」


 相手の反応の良さに舌打ちしつつ、【火炎装衣】を発動! 体中から炎が噴き出し、俺の首を狙って振るわれた刃を、炎が鎧となって軽々と受け止める。

 ヴァーミリオンで黒い太刀を弾くと、太刀の軌道を追うように背中の異形の腕が襲って来る―――って、速くね!?

 仕方なく【空間転移】で一旦距離をとる。


 なるほど…確かにガゼルの言う通り、攻撃の振りがアホみたいに速い。特に背中の異形の腕の速度はちょっとヤバかったな。

 ……でも、本当の腕の方の攻撃力はさほどじゃねえな? 【火炎装衣】だけでも、かすり傷程のダメージも抜けて来なかった。

 まあ、【火炎装衣】の防御力がアダマンタイトの鎧以上な事を考えれば、ダメージが通らないのは当たり前っちゃ当たり前だが。

 

「アホかー。気を付けろって言っただろうがー」

「気を付けたからダメージは食らってねえだろうが!」


 アシュラナイトを挟んで会話している間に、魔物の手には次々武器が生み出される。槍、斧、クレイモア、ハンマー、弓矢。

 背中の異形の腕がそれぞれの武器を構え、最後に左手にもう一本の黒い太刀が生み出される。

 それで完全武装って訳ね…。


「どうすんだーせんぱーい? 何かヤル気満々っぽいんですけどー」

「そりゃあ、狩るしかないだろー」

「ですよねー」


 軽口から一転、左右から挟み込むように同時に走る。

 一足飛びで距離を詰めると、両腕の黒い太刀が俺達の動きを追って来る。ガゼルはそれを槍で受け、俺は身長の低さを利用して剣閃の下を潜る。

 太刀を避けた俺に、背中の腕―――槍を持った腕が上から突き殺そうと襲いかかる。

 即座に【空間転移】で槍を避けて、アシュラナイトの頭上に。が、まるで予測された動きだったかのように異形の2本の腕が俺に向けて弓を引き絞っている。

 矢が放たれ―――る前に魔素で作られた矢を【魔炎】で焼き消す。


「後輩ばっか相手してないで、俺とも遊んでくれよ!」


 太刀を槍で受けていたガゼルが動く―――。

 槍を手元で回転させて太刀の軌道を下に捌き、同時に襲いかかる斧を持った異形の腕の手首を掴んで止め、片手で持った槍をアシュラナイトのどてっ腹に突き刺す。


 ついでに追い打ちかけておくか。


 二の矢を番えようとする異形の腕―――【レッドペイン】を展開。リーチを伸ばして、空中を泳ぎながら剣を振る。

 赤い閃光が弓を持っていた方の腕を切り落とし、傷口から黒い魔素が噴き出す。


「やるじゃん、後輩」

「どうも」


 ついでに意味の無くなった矢を持ったままのもう1本の腕を【魔炎】で発火させておく。アシュラナイトを構成する魔素が急激に消費され、力が抜けたように膝をついた。

 同時にガゼルが腹に刺していた槍を抜いて後ろに飛ぶ。

 俺も転移でその横に着地、っと。


「あとはトドメ刺して終わりか」

「そうな」


 まあ、トドメ刺さなくても、火のついた腕を切り落としでもしない限りは放って置いても、もうすぐ死ぬけど。


「最後は俺がやるけど、構わないか?」

「初手は譲って貰ったし、ご自由にどーぞ」


 ヴァーミリオンを鞘に戻して一歩下がる。

 それを確認したガゼルは、満足そうに頷いて体勢を低く構える。


「ぶち抜いて来い!」


 槍が手から離れて投擲される。

 白い光が走り、膝をついていたアシュラナイトの体を、紙を貫くように容易く通り過ぎる。

 黒い鎧に開いた、槍の通り過ぎた小さな穴。次の瞬間―――穴の内側で衝撃が弾けて穴が強制的に押し広げられ、そのままクイーン級の魔物…アシュラナイトの体は空中に黒い魔素となって四散した。


 ………なんだ今の?

 槍を投擲したのは見て居たから分かる。

 けど、まったく軌道を追えなかった―――…!?

 俺の視覚でも【熱感知】でも【魔素感知】でも、俺の有りっ丈の感知能力を使っても、ガゼルの手を離れて壁に突き刺さるまでの槍の姿を捉えられなかった。


 マッハ2のエグゼルドの黒い弾丸よりも速く感じた…と言うか、多分間違いなくアレより速い。

 威力は…相手を【魔炎】で弱体化させてたからちゃんと測れなかったな…。けど、万全の状態のクイーン級の体だって貫通出来たと思う。

 それに、ガゼルの奴…最後の一発も手を抜いてたな?



 ……なるほど。

 <竜帝の牙(ドラゴンファング)>なんて大層な名前だとは思ったけど、そう呼ばれるに足る力があるって訳だ。

 普段は軽めのナンパ男だけど、戦いとなれば怪物級。

 これが世界でたった9人のクイーン級の冒険者か…。俺も舐められないように、戦いでは気を付けないとな……。



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