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6-5 暴食…

 クイーン級の冒険者。

 人外の能力を持った人類の守護者とも言うべき、世界でたった9人の絶対強者。

 その9人の中には俺も入っている。って事は、他の8人も俺と同じくらいに強い奴等だって事だ。

 クイーンへの昇級には同級の魔物の単独討伐が条件になってるから、一般人から見れば怪物並みの強さなのは当然として、一体どのくらいの強さを持った連中なのかと気になってはいたんだ。……いたんだが……。


「―――だからさ、女の子は世界のどんなお宝よりも輝いてる訳よ? キシルノ産の織物のよりも滑らかな肌…俺が触れるとその肌が照れて赤くなって、それを少し強引に抱き寄せて―――……あれ? 何の話してたんだっけか?」

「森をあんな状態にした相手の話だろうがっ!! なんでいつの間にか、オメエのナンパ話になってんだよ!?」


 ……自分以外に初めて会ったクイーン級の冒険者がコイツかぁ……。他の7人はまともな人達だと良いなぁ…。


 場所を移して、現在地は例の妖精の森跡地から10km程離れた山の中腹にあるリザリアって、そこそこ大きな町。「色々調べるから」とテンガロンハット以外の4人は森の跡地に残ったので、町に来たのは俺等4人だけだ。一応残った連中には「死んだ妖精達が眠ってるから」と気を付けるように言っておいたが……どうだろう…? 死者を冒涜するような真似をするなら、俺が率先してケジメつけさせないとな。ただでさえ人と亜人の関係は拗れてるのに、これ以上になったらもう笑えない。


 さて、それはともかく俺達の話。

 腹も減って来ていたので、とりあえず飯屋に入って「お互い腹を割って話そうぜ?」と目の前のテンガロンハット…ガゼルが言ったのが10分前の事。始めは真面目に話をしていた様な気がするのだが、ふと気が付くと「俺は女好きなんじゃない! 全ての女性を平等に愛でたいだけだ!!」とか言いだしていた。

 パンドラは俺の右隣で無表情に食事を進めつつ、時々スキンシップを取ろうとするガゼルの手を音速で叩き落としている。

 一方俺の左隣では、フードで顔を隠すように俯いたまま凄まじい勢いで料理を消費していくフィリスの姿が……え? なんなのその食欲? フィリスの前には、空になった皿がひー、ふー、みー…10枚以上積み上がってんだけど…?

 なんなのお前? 怒りを食欲に変換する異能(スキル)でも持ってんの?

 ガゼルでさえ、そのとてつもない食欲に若干ヒいて……いや、怯えてパンドラ相手のようなスキンシップどころか声をかける事すらしようとしていない。


「……なんで俺、お前等に女との楽しい思い出話をしてたんだ?」

「俺が聞きてえわっ!?」


 ツッコミを入れてみたけど、根本的に“コレ”に話してしまって良いもんかと…。

 そんな疑問を相談してみようと、パンドラにアイコンタクトを送ってみると「絶対ダメです!」と物凄い目力で返して来た。

 フィリスにもアイコンタクトを送ってみたら、全力で目の前の肉を消費していてスルーされた。コイツはコイツでなんでこんな食う事に必死なの……?


「まあ良い話を戻そうか?」


 脱線させたのも、そのまま話続行したのもお前じゃんっ!?


「お前達はあの惨状について何か知ってるのか?」


 俺が口を開く前にパンドラが、


「知りません」


 と先に答える。

 ガゼルは肉を一口放り込み、咀嚼しながらパンドラの顔を見る。さっきまでの、綺麗な顔だから見ている……のではない、言葉の真偽を顔色から判断している…ように見える。けど、それは無駄だろ? パンドラのポーカーフェイスはガチだぜ? なんたってロボだからなそいつ。


「嘘だな」


 ……おぉう…あっさり見破られた。

 女の顔色は散々見て来たから、微妙な変化から嘘を見抜けるとかそんな感じか?


「嘘ではありません」

「パンドラ、もう良いよ」

「マスター……」


 パンドラを見ていたガゼルの目が俺に向く。女を睨む事をしないからか、俺に対しては3割増くらい目付きが鋭い。


「話す気になったのか?」

「その前にそっちの話を聞かせろ。何であの場に?」

「それは、わざわざ聞くような質問か?」


 若干呆れたようにテンガロンハットの位置を直す。

 ………そういや、コイツはなんで店の中なのに帽子取らねえんだろうな? まあ、今はどうでも良い話か。


「お前もクイーン級なら分かってると思うが、国を脅かすような事が起これば、最初に声がかかるのが俺達クイーン級の冒険者だ。あれだけの事をした奴がこの国の中を自由に歩き回っているのなら、そいつが魔物だろうが人間だろうが俺の所に討伐依頼が来るのは当然じゃないか?」


 それもそうか。


「今度はそっちの番だ。正直に話せよ?」

「分かった。けど、ここじゃ話せない。人の目の無い所に移動したい」

「…訳有りか。まあ、普通の事情じゃないのは分かってたしな」


 ふぅっと諦めるような溜息を吐いて、帽子を押さえながら立ち上がる。俺は、ガゼルにもう1つ言わなければならない。

 チラッと左横に座るローブで全身を隠しているフィリスに目をやる…そう俺は言わないと、今すぐに、ここで!


「それと―――」

「何だ?」


 何を言わるのかと身構えるガゼルにテーブルの上を指さす。


「先輩として、ここの支払いは全部ヨロシク」


 テーブルの上には、いつのまにか塔のように積み上がった皿の山が3つ出来上がっていた。皿を回収する速度より、皿を開ける速度の方が早いってのはどういう理屈なんだろうな…?


「お前…ふざけんなよ…!」


 どれ程の金額になるのかと、目眩を起こしてフラ付く先輩。しかしここは是非とも払って貰おう。何故なら、こんな莫大な食事費用を払いたくねえからだっ!!


「男として、女に甲斐性見せるチャンスじゃん?」

「よし支払いは全て俺に任せろ!」


 チョロイ男で助かった…。

 俺が心の中で安堵している間に、フィリスが更にもう一枚皿を積み上げる。

 本当にどんだけ食うんだこの女…!? 下手すりゃ自分の体重の半分くらいの量を食べてないか…? もしかして、こいつの胃袋は妖精のポケット的なアレで、異空間になっているのかもしれない…。

 …一応聞いておくか。


「なぁフィリス?」

「なんでしょうか≪赤≫の御方?」


 その呼び方も止めて欲しいなぁ…。まあ、すでに言ってみたけど無駄だったから諦めてるけど。


「お前、無茶苦茶食うけど、それ何かの異能(スキル)か……?」

「スキル? いえ、特にそう言った物は持っていませんが? と言うか、まだ全然食べ足りませんが」


 なるほど、その食欲は素か。


「………お前のあだ名は“グラトニー”で決定な?」

「グラトニー? 格好良い響きですね? どのような意味なのでしょうか?」

「……まあ、意味は気にすんな」

「グラトニー。七つの大罪の1つ。暴しょ―――」

「パンドラー! 黙っとけーっ!」


 わざわざ懇切丁寧に説明を始めたパンドラの口を慌てて塞ぐ。

 俺の手の下でモゴモゴと口を動かし―――


「ふぁい(はい)」


 いつも通りの返事をした。



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