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6-4 炎使いと竜の牙

「マスター、何者かが近付いてきます」


 ≪青≫が戻って来たのかとパンドラが銃に手を掛け、フィリスが手の平に魔法陣を展開させる。

 一方俺は無防備なまま近付いて来る者……いや、1人じゃねえな? 多分5人……が俺達の所まで辿り着くまでノンビリ待つ。

 近付いて来る連中の中に魔神の力を持ってる奴は恐らくいない。上手く言葉に出来ないが、≪黒≫の仮面女が近くにいる時には背筋がピリッとする変な気配を感じたのに、アイツ等にはそれがない。

 けど……1人変なのが混じってる…? 5人のうち1番後ろを歩いている奴だけ【魔素感知】でも【熱感知】でも上手く姿を捉える事が出来ない。俺が人数を“多分”とあやふやに言ったのはコイツのせいだ。

 とりあえず、相手の正体が分かるまでは浅慮に敵対行動とる訳にはいかねえな。

 パンドラとフィリスに「一先ずは警戒を相手に悟らせるな」と銃と魔法陣を引っ込めさせる。


 まもなく俺達の目の前まで5人の男。

 前を歩いていた4人は軽装だが、動きに無駄が無く、身に付けている武器や防具もそこそこ良い物を持っている。武装してるって事は、冒険者かどっかの町の衛兵か? ああっ、町と言えば、ここの近くに大きな人間の町が在るって言ってたっけ…! そこから来たのか…。


「お前達、ここで何をしている?」


 最初に口を開いたのは1番前を歩いていた剣士風の男。

 少し観察したら、コイツ等の正体はすぐに判明。ベルトに括りつけられた馬の形の駒―――クラスシンボル…コイツ等冒険者か。

 さてさて…どう答えるかな? 正直に答えるには、コッチの事情が込み入り過ぎてるし、適当に誤魔化すか。


「ここにあった森に妖精が住んでいると聞き、見物にやってきたんです」


 まあ、半分くらいは嘘じゃない。

 妖精に会いに来たのは本当だしね?


「この惨状について知っている事は?」

「…特に何も。俺達が来た時には、すでにこの状態でしたので」

「本当か?」


 あれ、疑われた? 疑われるような事を言ったつもりはねえんだけど、単に脅してるだけかな?


「俺達の事を侮るなよ? 子供とは言え、真実を語らなければどうとでも出来るのだ!」


 面倒臭い連中だなぁ…。どう誤魔化すかと頭をもう一捻りしていると、一番後ろに居た男―――例の感知能力で上手く視えなかった―――が、前に立って俺達に威圧的な言葉をぶつけていた剣士風の冒険者のケツをゴッと重く低い音を立てて蹴り上げる。


「ぇぶっ!?」

 

 50cmの空中遊泳を楽しんで、冒険者は尻を抑えて地面に転がって泣いた。


「が、ガゼルさん何するんですか!? 俺のケツが粉々になるところでしたよ!!?」

「んな(やわ)な鍛え方してるからだろうが」

「アンタの蹴りが規格外なんですよっ!?」


 漫才のようなやり取りをしながら、1番後ろに居た男が前に出て俺と向き合う。

 テンガロンハットを被り、カーキ色のロングコートを着た180cm以上ありそうな長身の男―――そして、背中には一目見ただけで、そのヤバさが分かる程の力を秘めた一本の真っ白な槍。まず間違い無くそこらに転がっている物じゃない…神器か?

 そして、このテンガロンハットの兄ちゃん自身も…多分だけど、只者じゃねえ…!! 俺の中の危険感知のセンサーがコイツに対して大音量で警告を出してやがる。……けど、やっぱり魔神の力は感じねえな…? コイツが≪青≫ってオチじゃなさそうだ。そもそも妖精達の言ってた黒髪ですらねえしな…。


「女子供相手でもそんな口をきくから、冒険者は野蛮だの品性が無いだのと言われるんだよ」


 言いながら、俺の横をスッと素通りしてパンドラとフィリスの手を取る。

 フィリスは呆気にとられ、パンドラは即座に男の手を払おうと抵抗しているようだが…手が離れる気配は全くない。


「初めまして綺麗なお嬢さん達? 美の結晶のような御2人に出会えた今日と言う奇跡を、酒と食事を共に語りませんか?」


 ナンパ始めやがったっ!?


「ちょっとー! ガゼルの旦那、こんな所で女を引っかけてどうするんスか!?」

「うるっせー!! 女性との出会いに場所も時間も関係ねえっ!!」


 このテンガロンハット…もしかしなくても、とてつもなくダメな人間かもしれない……。


「大体お前等は人を見る目が無さ過ぎる! こんな美人が俺達の敵な訳がないだろう!!」

「いや…俺が疑ってたのはお嬢さん達じゃなくて、そこの小さい子供の方で……」

「だから、見る目がねえって言ったんだよ」


 言うと、男の目がスッと鋭くなって俺に向く。


「この小さいのは、お前等がどう頑張っても勝てる相手じゃねえよ」

「なっ!? ガゼルさん、それはいくらなんでも俺達を侮辱し過ぎです!!」「そうですよ! こんな子供に、俺達が負ける訳ないでしょうが!!」


 周りの言葉を気にした様子もなく、テンガロンハットの陰から覗く鋭い瞳は真っ直ぐに俺だけを捉えて離さない。


「お前だろ? アステリア王国で生まれた9番目のクイーン級の冒険者ってのは?」

「「「「えっ!!?」」」」


 仲間の男達が驚きの声をあげるが、やっぱりそれを気にせずに言葉を続ける。


「確か通り名は―――<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>だったか?」


 どうして俺の正体に気付いたのかは分からないが、バレていると言うのなら、コッチも隠す理由はない。いや、元々その事を隠そうとは思ってなかったけど…。

 首から下げていた月の涙(ムーンティア)とクイーンのクラスシンボルを、服の中から出して見せる。


「そのインフィニティなんたらって中二病臭い名前を名乗った事はねえけど……アステリア王国の冒険者アークだ」

「うへぁッ!? ガゼルの旦那の言った通りかよ!?」「ほ、本当にクイーン級じゃねえか!?」「な、な、なんでアステリア王国の奴がこんな所にぃ!!?」


 俺のクイーンのクラスシンボルを見て、満足したようにテンガロンハットが笑う。そして、パンドラ達を離してロングコートの内ポケットから俺が見せた物と同じ―――白いクイーンの駒を取りだした。


「名乗り遅れたな? グレイス共和国のクイーン級冒険者ガゼルだ。奇遇だな? 俺も自分じゃ名乗った事はないが…周りが勝手に<竜帝の牙(ドラゴンファング)>とか呼んでる…」


 言い終わると、片手を差し出して来た。


「ヨロシクな、小人君?」

「だれが小人だナンパ師ゴルァ」


 差し出された手を、スパンっと横から叩き落とす。


「マスター」「≪赤≫の御方」


 2人共声が1オクターブ低い。それに…もうなんか黒い怒りのオーラが見えてる気がする…いや気のせいなんだけどさ…そんな物を幻視しそうなくらい激オコプンプンなのが分かる。


「「あの男はきっと敵です!!」」


 うん、そうね…。女の敵って意味では敵なのは確定だろうけど、善悪での敵かどうかは判断できないから、もうちょっと堪えてね?


「怒った顔も魅力的だよベイビー達?」


 ……よし、このナンパ師はとりあえず一発殴っておこう。


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