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6-3 落とし前

 族長宅をあとにして木の下に下りると、皆が慌ただしく動き回っていた。

 エルフの里の家屋全部を使って何とか妖精達を受け入れ、回復魔法を使える者は魔力の限界値まで無理をして治療を行い。それ以外の者達は必要な薬草やポーション、それに綺麗な布や水、その他諸々の物資を手に持って駆けまわっている。

 ドラゴンゾンビの討伐で仕事を終えて帰ろうとしていたエルフ以外の亜人達も、急遽予定を変更してやっぱり忙しく走り回っている。

 そんな中にあって、静かに立ち止まっていた美しい金色の髪のメイド。


「マスター」


 俺の姿を見つけ、トテトテと子犬のように小走りで駆けて来る。

 ついでに、その肩に乗っていた白雪も反応を示すが、いつものように元気に俺の方に飛んで来ない。……まあ、コイツの故郷があんな事になったんだから、そりゃ元気がなくて当たり前だな。

 光り方にも悲しみを表す青が混じってるし……。


「おう、待たせて悪かったな」

「いえ。それで、エルフの族長はなんと?」

「文句は言われなかったよ、むしろ感謝されたくらいで。あと≪青≫と戦う時には気を付けろって…まあ、そんな感じの話だ」

「そうでしたか。マスターに何か失礼な事を言った時には、族長の家の木が何かあって炭になる所でした」


 何不慮の事故で炭になるみたいに言ってんだよ! それ確実にお前が火を撒くつもりだったじゃねえか!?

 折角亜人が先代の頑張りのお陰で友好的なんだから、関係壊さないように気を使ってくれよ…。


「んで、妖精達の方は?」

「はい。助け出せた65名は、この里の建物の40%を使って収容。重症な者から順次治療を開始しています」


 建物の40%って事は、一般家庭も一部治療場として開放してるって事か。しかし、特に不平不満を言っている者も居ないし…亜人同士の絆って相当強いんだな? なんだか、ちょっと羨ましく思えてしまう。


「これから、どうなさるのですか?」

「とりあえずここに居ても出来る事は無さそうだな…?」

「はい。治癒魔法も使えませんし、薬草の扱いや治療に関する情報も私の記憶(データベース)には乏しいので、こう言う状況では戦力にはならないと判断します」


 俺もドンパチ以外じゃ全く役に立たないからなぁ…。情けないけど、妖精達の事は亜人達に任せるしかない。


「だな。俺等はここに居ても邪魔になるし、さっさと現場に戻ろう」

「≪青≫を警戒しての事ですか?」

「ああ、もしかしたら戻ってくるかもしれねーし」


 犯人が現場に戻るってのは、サスペンスドラマじゃ定石の行動だからな。まあ、実際の犯人が、本当にそんな行動を取るのかどうかは知らないが…。あれだけ念入りな殺し方で何十人もの妖精を氷柱にしていた奴だ…もしかしたら、取りこぼしを気にして戻って来る可能性は十分にある。


「妖精を狙って動く可能性があると言うのなら、この里も放置するのは危険なのでは?」

「あー……それもそうだな」


 相手が俺と同格かそれ以上のレベルの継承者だとすれば、里に居る亜人全員でかかっても下手すりゃ秒殺…妖精の里の二の舞だ。でも、かと言ってパンドラを残しておく訳にもいかんしなぁ…。やっぱ、アイツ等に頑張って貰うしかないか?


「里にはゴールド達を残して行こう。アイツ等なら、俺達が戻るくらいの時間は稼いでくれる」


 ………と思う。相手が初手から本気出してたら、エメラルド達でも3分持たない。

 けど、アイツ等は根本的に死なないから安心なんだよなぁ。ああ…死なないってのは不死って事じゃなくて、致死ダメージを受けてもその場から消えるだけで、暫くすればもう一度呼び出す事が出来るって事だ。俺が無事な限りは、何度消えても大丈夫なんだよアイツ等。

 まあ、だからと言ってアイツ等の命を軽んじるつもりは毛頭ないけどな。


「来い、我が眷族達」


 里の片隅で炎が起こり、その中から3体の魔獣が出て来る。


「お呼びにより、御身の前に参上いたしました」

「呼んで早々で悪いがお仕事だ。俺等が離れてる間、この里と亜人達を護って欲しい」

「お任せ下さい」

「襲って来る可能性があるのは、俺と同じ魔神を宿した人間だ、くれぐれも注意しろ。エンカウントしたら倒そうと思うな、俺が来るまで出来るだけ被害を抑えて時間を稼げ」

「はっ!」


 エメラルドの言葉に続くようにゴールドとサファイアが吼える。

 さて、あとは―――


「白雪」


 パンドラの肩で大人しくしていた妖精を手の平に乗せる。

 いつものような元気がなく、自慢の背中の羽も少し萎れているように見えて、ちょっと痛々しい。


「お前にも頼みがある。エメラルド達と一緒に里に残って、もし≪青≫がここに来たらすぐに俺に知らせてくれ」


 ゆっくりと羽を開いて肯定の思念を返して来る。

 んー…やっぱり元気がねえなあ。いつも無駄に飛び回ってるのがこの調子だと、コッチもテンションが下がる。


「白雪! お前の仲間と故郷をあんな目に遭わせた奴は、俺が必ず落とし前をつけてやる!」


 慰めるように指先で撫でると、「本当? 本当?」と思念で問い返して来るので、「ああ!」と迷い無く頷いてやった。

 途端に嬉しさ全開の黄色に変色して体ごと頬擦りしてくる。


「はいはい、嬉しいのは分かったから…」


 軽く撫でてから、ゴールドの頭の上にパスする。


「って訳だ。白雪の事もヨロシク頼む」

「はっ、委細承知しております」


 別れ際に、離れるのが寂しそうなゴールドとサファイアを撫でて落ち着かせる。


 さて、そんじゃフィリスに頼んで妖精の里跡地に戻るか―――。



*  *  *



 転移すればどれだけの距離も一瞬で、本当に便利だなこの世界は…。

 俺とパンドラとフィリスの3人は、水害被害の跡地になった妖精の里のあった森へと戻って来た。

 森…と言っても、もう木々は押し流されて荒れ地のようになってしまっているが…。


 妖精達の話では、魔人化した男が虫を潰すように妖精を殺して回り、途中で動きを止めて―――「面倒クセ」と一言呟いた次の瞬間、海も無いのに津波が森を押し流したらしい。

 聞けば聞く程、≪青≫の力の凄まじさに溜息が出そうになる。けど、使っている能力が水か炎かの違いってだけで、俺にも同じような事は出来る。

 俺の炎は水で潰されるが、相手の冷気はコッチの熱で潰せる。戦いになった時の能力的な条件は五分だろう。

 

「………妖精達の遺体、早く探してあげたいですね…」


 里の外に出る時の決まりなのか、グラムシェルドで野試合していた時のように全身をローブで隠しているフィリス。ローブを目深に被っているせいでどんな顔をしているのかは分からないが、濡れた声から察するに多分泣いてる。ドラゴンゾンビの脅威に曝されていたエルフにしてみれば、圧倒的な力で薙ぎ払われた妖精族の事は決して他人事ではないんだろうな。


 生きている者を最優先で助けてアルフェイルに連れて行ったから、すでに事切れている妖精はまだこの荒れ地になってしまった森の跡地のどこかだ。

 時間が経ってようやく水が引いてくれたから、さっきよりは探しやすいだろうけど、それでも亡くなった妖精族を全て弔ってやれるのはいつになるだろう…。


「そうだな。≪青≫を何とかして一段落したら、早い所探してやろう」


 現状での遺体捜索は流石に危険が大き過ぎる。

 この件を終わらせたら、亜人達の手を借りて探すってのが1番現実的な案だろう。



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