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5-25 エルフ族の長

 夕飯を2人で食い終わって一息吐いていると、そう言えばエルフの族長が会いたいとか何とか言ってたなぁ…と思い出す。


「エルフの族長って、今から会いに行ったら流石にヤバいかな?」


 コッチの世界じゃ、陽が落ちたらもう1日の終わりみたいな流れだしなぁ。


「マスターの時間が出来た時であればいつでも構わないとの事でしたので、問題はないかと」

「そーなん? んじゃ今から行ってみるか?」

「はい」


 どうせ寝たばっかりで暫く眠気が来そうにないしな。族長が寝てるとかなら適当に出直せば良いし。

 って、俺は散々寝てたから良いけど、パンドラは……。


「パンドラ、お前疲れてないか?」

「疲れていません」


 即答したけど、嘘だな。


「………肉体の稼働効率何%落ちてる?」

「…18%です」


 約2割減か。

 俺が寝ている間付きっ切りだったって事は、ドラゴンゾンビ―――エグゼルドとの戦闘からずっと起きてて、食べ物も口にしてなかったって事だもんな。そりゃ、これだけ無理すれば当然か…。


「お前はもう休んでおけ、族長の所には俺1人で行って来るから」

「マスターの安全管理の面からその命令を拒否します」

「すんなよ!? 大丈夫だよ、変わりにゴールド連れてくから」


 テーブルの傍に炎を出すと、その中から赤毛の狼と空中を漂う赤い仮面が出てくる。


「主様、お呼びにより参上致しました」


 エメラルドが仮面を傾けてお辞儀をし、ゴールドが少々狭そうにしながら床に頭を付けて服従の姿勢を取る。

 ゴールドの大きさは、外で呼ぶべきだったな…スマン。


「おう。毎度悪いな、突然呼び出して」

「お気になさらず。それでどのような用件で我等をお呼びになったのですか?」

「ああ、エメラルドはパンドラが寝ている間の護衛を頼む」

「はっ。お任せを」

「マスター、私は眠る事を承諾していません」


 パンドラの意見を無視して進める。


「ゴールドは俺の御供な」


 尻尾を振って「ガゥっ」と元気な返事。

 お前の反応はいつも気持ちが良いな!


「んじゃ、行って来るわ」

「マスター…」


 抗議するような…縋る様な声を出されたがあえてそれも無視する。これくらい突き離してやらないと、自分の体に無理させてでも着いてこようとするからな…。

 ゴールドを連れて外に出ると、見張りに立って居たらしいエルフの男が、突然中から現れた大型の魔獣の姿に驚いて声をあげそうになっていた。


「お、お目覚めになったのですね!」

「ああ、お蔭さんで。んで、族長さんの所に行きたいんだが?」

「あっ、は、はい! 族長のお住まいは、アチラの木の上階になります!」


 指差された方を見ると、木の上に若干豪華なドアが見えた。

 光が漏れてる様子がねえな? やっぱりもう寝てるか…まあ、良いやとりあえず行くだけ行ってみよう。


「ありがとう」


 お礼を言って歩き出すと―――


「は、はい! ≪赤≫の御方にお礼を言われるとは光栄です!」


 また“赤の御方”? 俺が気を失う前にフィリスも確か言ってたよな…?

 エルフ達は原色の魔人の事を知ってるって事か。

 ゴールドがしきりに「乗って乗って」と背中を鼻で突いて来るので、仕方なくその背に跨る。

 多分俺が疲れているだろうと気を使ってくれたんだろうが、【回帰】のスキルを持つ俺は寝たら全回復出来るRPGの宿屋みたいな能力を持っているから、気にする必要はないんだが…。

 まあ、心配してくれるのは嬉しいけどな。感謝の気持ちを込めてゴールドの体を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振る。

 暗い森の中を抜ける夜風に吹かれながら、ゴールドの背に揺られて進む。


「気持ち良いなー」


 夜の散歩には良い夜だな。

 まあ…たまに里の見張りをしているらしいエルフ達が、俺を見るなり深々とお辞儀をして挨拶するのがちょっと勘弁して欲しい…と言うか、いきなりその対応になってる意味が分からない。

 里と森の驚異だったドラゴンを俺が倒したのはそうだけど、それを感謝するって言ってもこの対応は…なんつーか、行き過ぎじゃねーかな。これがエルフの礼儀だってんならそーなんだろうけど…。


「お前はどう思うよ?」


 ゴールドの首の毛を整えるように撫でると、「ワゥ?」と首を傾げた。

 その後も出会ったエルフ達に…更にはたまたま外に出ていたドワーフや、翼人までもが同じように深々と頭を下げて「≪赤≫の御方」と挨拶をしてくる…。

 本当にこの扱いはなんなの…?


 結局その疑問が解ける前に、族長の屋敷……屋敷? 木をくり抜いた家だけど…屋敷と一先ず言っておこう…とにかく、その屋敷に到着した。

 そして扉の横には1人のエルフ―――って…。


「隊長さん?」


 一応失礼がないようにゴールドの背から降りる。


「これは≪赤≫の御方。目を覚まされたのですね」


 アンタもその対応なのかよ…。

 若干げっそりする。


「その魔獣は? ……まさか!? 従者のお嬢さんの正体は獣人だったのですか!?」

「いや、違うけど」

「…………失礼しました」

「…うん」


 フィリス兄が顔を伏せて少し赤くなってるし…空気が気まずい…。さっさと要件を進めよう。


「族長さんってまだ起きてます? 会いたいと聞いたんで来たんですけど」

「少々お待ち下さい」


 頭を下げてから扉の中へ入って行く。

 する事もないので、じゃれついて来るゴールドの顔をワシャワシャしながら待つ事にしよう。


 2分程待って―――…


「お待たせしました。中へどうぞ」

「ありがとうございます。ゴールド、お前は中入ると迷惑だろうから、ここで待ってな」


 最後に一撫でしてやると、扉の前でお座りの姿勢で「ガゥ」と一鳴きする。


「じゃあ、スイマセンけどコイツの事もついでにお願いします。まあ、基本は放って置いてくれれば良いんで」

「はぁ…」


 フィリス兄にゴールドを任せて中に入ると、ふんわりと良い匂いがした。料理とかそう言う匂いじゃなくて……良く知らないけど御香の匂いかな?

 部屋の中は小さな照明用の魔導器1つだけで、他にはコレと言った物が置かれていない。椅子もテーブルもベッドさえも…何も無い部屋。

 そんな薄暗い何も無い部屋の奥に、小さな人影がポツンと佇んでいた。

 エルフの子供……?

 背丈は俺……いや、ロイド君よりも小さく、130くらいだろうか? 小さい体には似合わないやたら面積の小さな、踊り子の着そうなビキニの様な服装で…なんつーか、目のやり場に困る。その上に大きなローブを羽織っているけど、背丈が足りなくて裾を引き摺っているのが何とも涙ぐましい。

 いや、でも、俺が一番目の前のエルフの子供の見た目で気になったのは……肌の色。

 肌が黒い。

 褐色の肌―――よりも、もう一段階黒い。

 普通のエルフの肌は白い。黒い肌のエルフは、また別の種族で確か呼び名は―――


「ダークエルフを見るのは初めてですか?」


 クスっと子供とは思えない落ち付いた笑みを浮かべて言う。

 っと、ジロジロ見るのはマナー違反だな。っつか、まさかとは思うけど、この子供が族長か? いや、それしかねーよな…? だって他に誰も居ないし…。

 だとしたら目上相手だしコッチから挨拶しないのは失礼だ。


「失礼しました。アークと申します」


 俺が挨拶と共にお辞儀をしようとすると、ススッと俺の前まで寄って来たダークエルフの少女は迷う事無く―――跪いた。


「こうして、もう一度貴方様に会う機会をくれた神々に感謝を。そして、よくぞ長き封印の眠りより御目覚めになりました。偉大なる≪赤≫き魔神を宿した我等が守護者―――」


 まるで、神を讃えるかのような迷いのない真っ直ぐな目を俺に向ける。


「≪赤≫の御方」

「………はぃ?」


 どうやら、俺は単なる謝辞の為に呼ばれた訳ではないらしい。



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