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5-24 寝起き

 長い……長い夢を見ていた様な気がする…。

 早く起きて学校に行かないと、またカグに怒られる。


――― 眠りから覚めると、見知らぬベッドで横になっていた。


 どこだここ…?

 俺の部屋……じゃないよな…?


「マスター、お目覚めになりましたか?」


 ベッドの横に座っていた、人形のような金髪のメイドがどこか心配そうな顔で俺を覗き込んで来る。


「マスター?」


 誰…?

 ―――じゃねえよ、パンドラか。


「ああ、おはよう」

「はい。何か異常でしょうか?」

「……いや、何でもない。ちょっと寝惚けてただけだ」


 そうだ。これが今の俺の現実……異世界で、人の体を借りているこの状況が俺の現実なんだ。

 ………時々あるんだ。目が覚める時に……夢が終わる時に痛みを伴う事が…。

 こればっかりは慣れるもんじゃねえよ。俺がアッチの世界を忘れでもしない限りは、な…。


「マスター、顔色が優れません。やはり体調が―――」


 ベッドに上がって、いつもの肉布団目覚ましで俺の体調をチェックしようとするのを起き上りながら「大丈夫だから」と押し留める。

 はぁ……起きた途端に疲れる…。

 …にしても、大きな戦いがある度にこうして寝落ちするの何とかしてぇなぁ…。いっつも限界ギリギリまで力使うから、仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。


「で、どこだここ……? フィリス達の家じゃねえよな?」

「はい。他の亜人の族長等を招いた時の迎賓館のような場所だそうです」


 戦いが終わった途端に扱いがVIPになった。

 嬉しいと言えば嬉しいが……気恥ずかしさとか、そー言う扱いに対する礼儀とか考えると、今まで通りに若干嫌われてるくらいが丁度良いとか思ったり思わなかったり…。


「俺が眠ってからどれくらい時間経ってる?」

「半日程です。正確には13時間47分22秒です」


 半日か…。窓の外が暗いのはそう言う事ね。


「何か変わった事は?」

「亜人達がマスターに改めて挨拶したいと」

「面倒臭ぇからキャンセル」

「はい。それと、エルフ達がマスターにお会いしたいと」

「面倒臭ぇからパス」

「はい。それと、エルフの族長がマスターにお会いしたいと」

「面倒臭……って訳にゃ行かねえか、流石に…」


 普段外の者には会わない族長が会うってんだから、それを断ったら俺等を里に連れて来たフィリスにも角が立つよなあ…。


「あー、そう言えば俺がフィリスに渡した竜の核? らしきビー玉の処理ってどうなった?」

「コチラには報告が来ていませんので、まだ処理方法が決まっていないのではないでしょうか?」

「そうか」


 あんだけ派手に暴れた奴の核だってんなら、即座に破壊すると思ったんだが……まあ、良いか。後の事は亜人達で勝手に決めてくれれば。これ以上は俺が首突っ込んでもしょうがねえ。


「お食事になさいますか?」

「ん? ああ、そうだな。腹減ってるし、頼むよ」

「はい。ご用意致しますのでお待ち下さい」


 部屋を出て行くパンドラを見送る。

 アイツ、もしかして俺が寝てる13時間以上をずっと傍に居たんだろうか?

 ……居た気がするな、って言うか絶対に居たな…多分。絶対なのに多分とはコレ如何に?いや、そこはどーでも良い。


 うーん…献身的に尽くして貰うのに近頃慣れが出始めてるけど、やっぱりそれに対して返せる物が何も無い俺としてはちょっと恐縮してしまうな。

 まあ、パンドラにしてみればプログラム通りに俺に尽くしてるだけなのかもしれないが…。

 パンドラか……何か俺、未だにアイツの扱いを測りかねてるな? 人として扱うべきなのか、機械として割り切って付き合うべきなのか…。


――― なぁ? 君ならどうアイツと向き合ったかな…ロイド君?


 答えは返って来ない。

 ロイド君の方から回線繋いでくれないと、俺の声が届いてるのか分かんねえんだよなぁ。俺の見聞きしている事は、全部共有しているみたいだけど…普段の俺の意識の中の声って届いてるのかな…?

 いやいや、人に答えを求めるのは間違いだろ!


「マスター、お待たせしました」

「おう」


 テーブルに料理と皿を並べて行くパンドラに、率直に聞いてみた。


「パンドラ、お前って自分の事をどう認識してる?」

「どう、とは?」

「あー、えーと…ロボなのか人なのか?」

「ロボです」


 ですよね。

 こう質問したら、そりゃあ、そう答えますよね?


「えーっと…じゃあ、何か欲しい物とか、俺にして欲しい事とかあるか?」

「ありません」


 ダメだっ! 即答過ぎて妥協点さえ探せねえ!?


「えっと、休みが欲しい! とか、新しい服が欲しい! とか、そう言うのねーの?」

「ありません。休息は十分にとっていますし、服も今ある物以上に物を必要として居ませんので。お食事のご用意が出来ました」

「はい…」


 ベッドから起き上がってテーブルに着く。

 座る様子がなく、立ったままのパンドラがちょっと気になった。


「パンドラ、お前は飯食べたのか?」

「いえ。マスターが眠っている時に離れる訳にはいきませんので」


 大袈裟過ぎるよ!?


「そこまで付きっ切りにならんでも…」

「マスターはご自身がどれ程世界に影響を与えるのか理解するべきかと」

「ねーよ、影響なんて…。まあ良いや、じゃあ一緒に飯食おうぜ」

「はい」


 テキパキとパンドラが自分の分を用意し終わるのを待つ。

 あれ? そう言えば、飯時になったらフラフラ飛んでくる光る球が見当たらない?


「白雪は?」

「フィリスが、マスターと私が2人っきりにならないと色々出来ないだろうから、と連れて行きました」


 色々ってなんだよっ!? あんにゃろう、絶対まだ誤解してるな!?

 この件だけは、改めてキッチリ説明しておかねえとダメだな。

 白雪も白雪でフラフラと着いて行くなよ。アイツ、絶対綺麗な花か何かで誘い出されただろ…。


「お待たせしました」

「おう。んじゃ、いただきます」

「いただきます」



*  *  *



――― 何か欲しい物とか、俺にして欲しい事とかあるか?


 欲しい物はない。

 して欲しい事もない。


 ただ―――…


 視線を前に向ければ、自分の作った料理を美味しそうに食べる、唯一の主である小さな少年。

 見慣れた姿。

 見慣れた光景。


 ただ―――いつも自分の作った料理を美味しく食べてくれるだけで、それだけで自分は満たされている。


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