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5-23 赤より紅く

 俺の生み出したサッカーボール大の紅の炎。

 大きさは頼りないけど、内包している熱量は6000度以上。地上で使えばラーナエイトのような惨状を起こしてしまう危険極まりない、俺の使える最大級の炎熱攻撃。

 太陽光のように辺りを照らす姿は我ながら神々しく感じるが、実際は近付いた物を問答無用で灰にする小さな怪物だ。

 だが、その紅の炎を持ってしてもエグゼルドの竜の体は中々焼き滅ぼせない!? 竜の鱗(ドラゴンスケイル)はほとんど剥がしてあるのに…信じられねえ耐久力してやがる!?

 紅の炎の光を撃ち抜くように黒い光が俺に向かって真っ直ぐ伸びて来る―――ブレス…!? 

 避ける余裕は無い、後は野郎と俺の耐久力勝負だ!

 ヴァーミリオンの溜めた熱量を全部防御に回す! 【火炎装衣】を全開にして発動。空を覆うような巨大な炎が俺の体から噴き出す。―――が、噴き出すそばから炎が黒い光に分解されて消える。

 ふっざけんなよっ!? どんなアホみたいな威力してやがるっ!?

 【炎熱化】があるとは言え、あの黒いブレスは俺もダメージを受ける。

 どうする? このまま受ければ無事じゃ済まない。耐えるって言ったって、最大威力で撃ってるブレスに何秒耐えられるか分からない。

 だったら―――


――― 前に向かって最大速度で飛ぶ


 だったら、攻めろ!!

 黒いブレスに突っ込む。

 【火炎装衣】の防御を前面に集中。それでも黒い光の半分以上は貫通して俺の体を貫く。全身を切り裂かれたような痛みと共に、腕や体から血飛沫が舞う。

 この黒いブレスの特性を今さらながら理解する。

 多分、この黒い光は“分解”の力だ。物質だろうがスキル効果だろうが、捉えた物はなんでも分解してダメージに変換してしまう。防御不能の、正に最強の生物に相応しい攻撃。

 けど、なんでも即座に分解出来る訳じゃないな? 多分【炎熱化】のような上位の防御スキルの効果は分解に時間がかかる。

 そのスキルが分解されるまでの短い時間にブレスを抜け切る―――!


「抜けろおおおおッ!!!!!」

 

 ブレスの放射に曝されながら、その暴力的なエネルギーの波を突き抜けた。

 そこには、顔が半分溶けてもブレスを吐き続ける竜の首!!


「口閉じてろっ!!」


 ヴァーミリオンを口の上から突き刺して串刺しにする。


『―――――!!!!』


 動かない口の中で何かを叫んだようだが聞こえない。もう聞くつもりも無い!

 蛇のような目がギラギラとした殺意と憤怒を宿らせて俺を見る。が、その体は今も紅の炎の熱を浴びて燃え出したり、溶けだしたり、魔素が飛び散ったり…傍目に見ても酷い有様だ。正直、ゾンビの時の方がまだまともだったんじゃないかと思えるくらいに…。

 まあ、この状態でもまだ死んでないってのが俺には恐ろしいけどな。

 そして、何よりコイツはまだ戦意を失ってない―――燃え出して太さが半分になった前足が襲いかかる。

 速度もパワーも残っていない、そこらのクイーン級……いや、ルーク級にも及ばない弱々しい攻撃。

 俺に届く直前で、剣のような尻尾を振ってその足を跳ね飛ばす。更に尻尾を伸ばして、攻撃の体勢を取っていた反対の前足も切り落とす。

 体から離れた足は、魔物の体同様に黒い魔素となって辺りに四散した。


「終わりだっ!」


 口を串刺しにしているヴァーミリオンを逆手に持ち替えて、竜の背を走るようにして体を両断する。


『お…の、れ……またしても……!! ≪赤≫よっ! 何故、我が前に立ち塞がるのだ……ッ!!』


 竜の体を形作って居た魔素と、素体になっていたゾンビの体が爆散して辺りに弾け飛び、落下を始めるより早く紅の炎にあてられて燃え尽きる。


「そりゃ、テメエが人様に迷惑かけるからだろ」


 粗方エグゼルドの残滓を焼き尽くしたところで、空中にフヨフヨと浮いていた紅の炎をヴァーミリオンに食わせて引っ込める。ブレスの防御にほとんどの熱を吐き出した後だから、いつもより美味しそうに食べてやがる。

 そこでふと気付く、何か焼き残しのような物が地面に落下している。

 なんだ?

 痛む体を押して追いかけてキャッチするとビー玉のような……なんじゃこりゃ? 感知能力で視る限り、魔石や魔晶石と同じ類の物のような気がする。

 もしかして、これがエグゼルドの核か!?

 先代はこれの処理を見逃したから、今になってゾンビになって復活したとか、そんな感じの話だろうか?

 まあ、何にしてもコイツの処理は皆の判断に委ねよう。

 俺としてはこの場で粉々にしてしまっても良いが、亜人達も魔竜…と言うかドラゴンゾンビが完全に滅びた確証が無いと安心できないだろうし。


「……戻るか」


 疲れた……っつか、エグゼルドを転移させた時の頭の痛みが中々取れない。誰かが絶え間なく脳味噌に爪を立てて引っ掻いてるみたいで、凄ぇ不快で気持ち悪くて……頭がフラフラする…。

 今の状態で転移を上手く使える自信がないので、高度を落として行くしかねえな。

 あっ、そう言えばこの姿のまま里に下りちまって大丈夫か? ビビられられるかもしれないけど……まあいっか…この先の付き合いがあるかも分からんし。ラーナエイトの件も、人間と関係の薄い亜人相手なら問題ないだろ。


 エルフの里を目指して下降していくと、木々の隙間から上を見上げて集まっている亜人達を発見。

 なるほど、あの里って上から見ると単なる森の一部にしか見えねえな。隠れ里って感じ…って、本当に人の目から隠れてんのか。


 俺の姿を見た亜人が、皆一様に口を開けて唖然としているんだが…あの反応はどう言う意味なんだろうか? ちょっと分からないですね…。


「マスター」


 里の真ん中…フィリス兄と戦った辺りに着地(実際は浮いてるけど)すると、パンドラと白雪が駆けて来る。


「おぅ、ただいま」

「勝ったのですね?」

「まあ、なんとかな」


 俺の体中の傷を見て少しだけパンドラが遠い目をする。

 そんな反応をお構いなしに、パタパタと無防備に飛んで来て俺に頬擦りしようとしてくる白雪。

 ちょっ、危ねえよ!? 【炎熱化】切ってからじゃねえと、触れた途端に燃えるんだからな!?

 慌ててスキルをオフにすると、光る球が黄色く光りながらスリスリしてくる。


「はいはい、心配かけてゴメンな」


 異形の爪で傷付けないように気を付けながら撫でてやる。


「あの…!」

「ん?」


 フィリスが、恐る恐る声を出す。

 予想以上に怖がられてる………いや、あの顔って怖がってる? なんか、あの顔は、あれだ「有名人に出会った一般人」みたいな、そんな感じだ。


「…まさか、アークさん…? ですか?」

「ああ。って、この姿じゃ分かんねえか。解除(レリース)


 赤い光に包まれて、異形の体がいつものロイド君の肉体へ作り直される。

 俺達の様子を見ていた亜人達が「ぉおーっ!!」っと歓声をあげる。そこまで反応する事か? いや、する事なのか。そりゃ、人間があんな異形になってたらなぁ。

 ……っと、体から力が抜ける―――!?

 倒れかかった俺の体を、パンドラが抱きしめるように支えて来る。


「……悪い」

「マスターの体の消耗度が限界を超えています。ただちに休息を取って下さい」


 そうね。正直、【魔人化】解いた途端に眠くて眠くて堪らん…。

 でも、その前に…。


「これ、お前等のリーダー格の人に渡しといて」


 パンドラに支えられながら、フィリスにエグゼルドの体から出て来たビー玉を渡す。


「これは?」

「多分あの竜の核だ。壊すなり燃やすなり、お前等の気の済むようにしてくれ」


 フィリスが目を見開く。信じられない…ってところか?


「で、では…本当に魔竜エグゼルドを討伐なさったのですか!?」

「ああ…」


 ダメだ…眠い……もう限界です。


「やはり貴方が≪赤≫の御方!?」


 なんだそりゃ? とツッコミを入れながら、パンドラの腕の中に崩れるように眠りの海に落ちる。



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