5-22 魔人vs魔竜
地面に吸い込まれるように落ちていくドラゴンのシルエット。
着地する前にもう一押しさせて貰う!
【空間転移】で落下地点に飛ぶ。
さっきまで見下ろしていた地面まで一瞬で移動。上を見上げれば“加重”の付与された炎に呑まれたエグゼルドが落ちて来る。今のアイツは、約300tの重りを抱えたのと同じ状態だ。生物として最強のドラゴンの翼を持ってしても、抱え切れる重さじゃない。
【レッドペイン】で射程を伸ばし、腹の下辺りの鱗の無くなった部位を狙ってヴァーミリオンを突き出す。
「ぉっらああああッ!!!!」
エグゼルドが首ごと頭を捻って下に居る俺を見る―――が、体が重過ぎて反応が鈍い。
空に向かって伸びた赤い閃光が、狙い通りに鱗の防御の無くなり魔素の体が露出した部分に突き刺さる。
けど、威力が足りなくて刺さりが甘い―――のは想定内だっつーの!!
相手の落下速度と加重量が剣の刺さりを後押しして、俺が何かするまでも無く深々と肉の中に突きこまれて行く。
『ガッ!?』
腹の中に突っ込んだ剣を捩じって傷口を広げる。
『グガアアアアっ!!!!』
痛みに叫びながらも、俺に向かって口から弾丸を連続して吐き出す。
俺の3m横に一発目が着弾し、二発目が隣の木を薙ぎ倒し、3発目が足元で爆ぜる。
落下中で狙いが付いてない!?
野郎が落ちて来るまであと30mってところか、そろそろこの場から逃げねえとマズイけど、もう一押し!!
ヴァーミリオンを伝わって、俺から発した熱量がドラゴンの体の中に注ぎ込まれる。
――― よし、これで仕込みは終わった
【レッドペイン】を解いてその場から転移で離れるとほぼ同時に、クジラのような巨大な体が地面に激突し、衝撃で地面が爆ぜて轟音と共に土煙が辺りを包む。
『こっぞううううがあああああっ!!!!!』
体の半分を地面に埋めながら、体に付いた火を土に擦って消す。
『小賢しい真似をっ!!!』
小賢しいくらいなんだボケ! テメエのチート染みた肉体相手にしてんだから小賢しいぐらい黙って呑み込めやっ!!
とか心の中で文句を言うと、それが聞こえたかのようにブレスが飛んでくる。
「おっと―――」
この姿なら逃げ回る必要はない。
転移―――出る場所は、エグゼルドの頭の下!
下から下顎を掴んで俺の方を向かないように固定し、空いた手でヴァーミリオンを腹の鱗の隙間に突き刺す!!
『ギィあああああッ!?!!!!?』
ブレスが止まり、変わりに口から吐き出される耳障りな悲鳴。
ヴァーミリオンが剣先からもう一度熱を流し込む。
『離れろぉおおおっ!!!』
高速で振られた前足をしゃがんでかわし、剣を体から抜きながらバックステップで逃げる。
『おのれ…おのれええっ!!! 我の体を傷つけるなどっ!!!』
さて、そろそろ締めと行くかね!
ちゃっちゃと終わらせないと、魔人の姿を後どのくらい維持出来るかも分からないし。
「俺の故郷の神話には、火の神様を生んで腹と陰唇を焼いて死んだ創世の神様が居てな」
『…なんの話をしておるッ!?』
エグゼルドの反応を無視して続ける。
「創世の一柱を殺してしまうようなダメージとはどんな物かと、炎使いとしてはちょっと興味があった訳だ」
『貴様っ、時間稼ぎでもしたいのかっ!!?』
「だから、ちょっと―――」
指先をエグゼルドに向ける。
「感想聞かせてくれ」
――― 発火
巨体が突然その場に横に倒れ、黒い鱗の隙間から炎が噴き出す。
「ギィィイイイッ、がああああああああっるああああああ!!!??」
転がって苦しがるが炎は一向に消えない。いや、それどころかドンドン火力が上がって行く。
体から噴き出す炎は何か? 勿論俺が放った物なのだが、何を燃やしている炎なのかは多分奴自身にも分かってないだろう。
俺の【魔炎】は魔素を燃やすスキル。だが、奴の体を構成している魔素は支配力が高過ぎて発火させられない。
だから、体の中にあるもう1つの物を狙った。
つまり、素体になっているゾンビの体。ゾンビと言えど、ミイラじゃねえんだから血は体の中に残ってる。まあ、腐食の矢を撃つのに体液混ぜてたしそこに確信はあった。で、血が有るのなら【バーニングブラッド】が相手に有効な事に気付く。
魔素への支配力はあっても、血の方にはそれが届いていない。だから、熱量を体内に送る事で、相手の体内の血まで俺の意識を通し、あとは発火を待つばかりって感じで仕掛けて置いた。
その結果が、今目の前で地面を転げ回ってるドラゴンだ。
体内でガンガン火が燃えてるのに、本当に死なねえなコイツ…!? もしかして、魔素の体だからじゃなくて、竜種ってのは元々肉体機能を潰すような攻撃されても中々死なない物なのか?
『ガッぁあ!? ぎさまっ!!!? ≪赤≫があああッ!!!』
「騒ぐなよ、それまだ終わってねえんだから」
『なぁ……にっ!?』
「言ったろ? 火の神様を生んだ―――ってなっ!!」
燃焼力を爆発的に上げる。
ゾンビの体に残っていた血を残さず燃やし尽くし、炎が鱗の隙間から溢れ出る。
炎同士が鱗の表面で結びつき、寄り集まり、より大きな炎となって体内から一滴の熱量も残さずに絞り出そうと膨れ上がる。
その光景はまるで―――炎の胎児が体内から這い出るように見えた。
「終わりだ―――“火之迦具土”!!」
体内を削り落とすように暴れ回っていた炎が、チカッと赤い閃光を辺りに振り撒いて消える。
消える、と言ってもただ消えた訳じゃない。並みの熱防御では防げない熱量を破裂させて消えた。
『が……あぁぁ…』
体中を包んで居た鱗の半分くらいが地面に飛び散り、頭や胴体から黒い魔素と一緒に素体にしていた腐った肉体が零れ落ちる。
結構なダメージ与えたな。まあ、体の外で爆発したように見えるけど、実際に起爆したのは体内だしな…。
さぁ、トドメだ―――!!
身動きが取れない程ボロボロになっている竜の体に近付く。
「………でかい…」
改めて動かない体を見ると、本当に無駄に大きい。
これ、燃やすにしたって大変だぞ…?
『まぁだだああああっ!!! まだ、終わっておらぬっ!!!』
無防備に近付いた俺に、鱗が落ちて無残な姿になった首が向く。
その口の奥には今まで以上に大きな黒い光―――。
最後っ屁かまそうってか!? そんなもんぶっ放されたら、森がどうなるか分かったもんじゃねえっ!!
巨体に触れる。
――― この大きさ、転移で飛ばせるか?
迷うな、行け!!
【空間転移】を発動―――ガリッと脳味噌を直接引っかかれたような鋭い痛み!?
「ィっぎっ!?」
上空300mに巨体を放り出す。
ああ、くっそ、頭が痛えええぇ!?
こんなクソでかい物抱えての転移は流石に無茶過ぎた! 本当はもっと上まで行くつもりだったのに、この高さが限界だ。
『死ねっ!! 忌まわしき≪赤≫よっ!!!!』
「絶対お断りだね!!」
襲いかかる黒い光の放射―――転移を…ダメだ、頭の痛みで集中できねえ!?
黒い光に呑み込まれるっ!!
回避を―――いや、規模がでか過ぎて間に合わねえ!!
だったら、ブレスで削り殺される前に―――焼き殺すっ!!
並みの火力じゃ殺し切れない、使うのはラーナエイトを消滅させた―――
「“プロミネンス”!」
太陽の火!!
『消えろおおおおおおおおッ!!!!!』
「ああああああッ!!!!」
遥か天上で黒と白の光が輝いた―――。