5-21 人vs竜
黒い弾丸を転移で避けながら一気に突っ込んで距離を詰める。
さっきまでは、パンドラを抱いていたからあんまり無茶な攻め方は出来なかったが、俺1人でやるなら多少のダメージ覚悟のギリギリの安全マージンで攻める事が出来る。
『鬱陶しいッ!!!』
蜥蜴のような巨大な腕の届く距離に入るや否や、前足が襲いかかってくる―――けど、マッハ2(パンドラ計測)の黒い弾丸を見続けたお陰か、速度に目が慣れたな?
流石に「止まって見える!」って事はねーけど、動きは良く見えてる。振り被る時に若干肩(?)を引き、握り拳のように爪を畳む、反対の前足を地面に喰い込ませて踏ん張り…そして俺に向かって前足を振る。
パワーが段違いに凄いのは変わってないけど、これだけシッカリ動きを追えるようになったなら近接攻撃は怖くない!
ヴァーミリオンの抜き付けで振られた前足を上に斬り払い、更に一歩踏み込む。
視界に鱗の剥げ落ちた部位を捉える。
狙いはあそこだ―――っ!
隙間は小さい、腕一本通すのがやっとってところだ。剣を振っても内側の“肉”には当てられない、だから狙うのは刺突!!
「貫くッ!!」
回避と踏み込みから動きを止める事無く、動作を流れに乗せて刺突の構えに繋ぐ。ダメージで少し動きが悪くなっている事を差し引いても、間違いなく100点満点の動きと速度だった。
普通なら絶対回避できないと太鼓判を押せる攻撃。だが―――相手は普通じゃない。
『遅い!』
翼がブワッと大きく広がり、その羽ばたきで巨体を後ろに引っ張る
――― バックステップ!?
俺の突き出したヴァーミリオンが何も居なくなった空間を貫いた。
「チッ…」
速ぇ! 攻撃を崩した状態だったのに反応された…!?
そうだよ。動きが良く見えるようになったからって、俺とアイツのスピード差が埋まった訳じゃない。
今までは野郎の精神に余裕と慢心があったから何とか当てられたけど、本気になって回避と防御をされたらダメージを与えるどころか、攻撃を当てる事さえ困難だ。
…………仕方ねえ、勝負掛けるか!
時間かけると、折角剥いだ鱗を再生されるって可能性もあるし、一気に潰す!
『何やら覚悟した目だな?』
「ああ。テメエ相手に出し惜しみしてる場合じゃねえからな」
っと、その前に。
「こっから先は俺とコイツの一対一だ! 巻き添え食らって死にたくねえなら、全員里まで戻ってろっ!!」
一瞬ザワついた後、気配が離れて行く。
「パンドラ、フィリス、お前達もだ!」
動く気配の無かった2人も、俺の声に押されて里に向かって移動を始める。
『クァーハッハッハ、良いのか? これで、誰もお前を助けてはくれんぞ?』
「必要ねえ。言っただろ、こっから先は俺とテメエのサシの勝負だ」
ヴァーミリオンを手元で回す。
息を吸って、吐いて…ヨシ! 行くぞ!!
「【魔人化】!!!」
体が赤い光に包まれて、人の体を悪魔のような異形の姿へと作り変える。
背中から炎を翼のように噴き出させながら、腰から生えている尻尾を振って調子を確かめる。
大丈夫だ、問題ない。
けど、体力と精神の消耗が激しいのはどうしようもねえ。出来るだけ短時間で決着を付ける!
『ほう。その姿は見覚えがあるな? 忌々しいあの女もその姿で戦っていた!!』
あの女? 先代の≪赤≫の継承者の事を言ってるなら、先代って女だったんか?
まあ、その話はさて置き、だ。
「そりゃご愁傷様、お前はもう一度この姿にボコり倒される事になるぜ!」
『ぬかせえええッ!!!!』
吐き出される黒い弾丸、同時に高速化された動きで空中に飛び上がり、弾丸のあとを追うように空中で尻尾を振り被る。
動きは見えてるぜ!!
奴の尻尾の動きは勿論、さっきまで見えなかった弾の軌跡を視覚で追う事だ出来る。
やっぱり、魔人モードはスペックが桁違いだな!?
目の前まで迫っていた弾丸をヴァーミリオンで斬り落とし、間を置かずに襲って来る尻尾に意識を移す。来るのを予め知っていたので驚きも何もない。
ヴァーミリオンを縦に構えて防御の姿勢、その上から尻尾が叩きつけられ―――なかった。
当たる寸前で転移をして、攻撃を外させたのだ。
尻尾を全力で振っていたエグゼルドは、空中で回転を止められずに一回転する。
その背後に転移で現れた俺は、鱗の剥げた位置にヴァーミリオンを深々と突き刺す!!
『うっ…ぐぉおおおおおおお!!!?』
羽を傾けて何とか姿勢制御しようとする巨体に更にヴァーミリオンを捻じ込む。
「大人しくしやがれっ!!」
刃のほとんどが体内に突っ込まれた状態で、刀身に溜めた熱量を解放!
竜の鱗にはアッサリと防御されたけど、体内に直接ブチ込めばガードのしようがねえだろうがっ!!
『がっ!!! ウゴァアアアアアっっっ!!!!!』
生身の肉体だったら死んでいてもおかしくないのにっ! 魔素で作った仮の肉体なのが幸いしてんなチキショー!!
体内に突然現れた熱量に焼かれながら、上空に駆けながら激しく暴れ回る。
くっそ、馬鹿力がっ!! このままトドメまで持って行こうと思ったけど、クッソ―――引き剥がされる!?
高度200mくらいまで来たところで、予感していた通りに力技で引っぺがされた。
【浮遊】で体勢を整えて―――黒い鱗に覆われた尻尾に体を巻き取られた!?
『人間風情がっ―――』
体を縦回転させ、
『調子にのるなああああああッ!!!!』
地面に向けて俺の体を地面に向けて放つ。
凄まじい風圧を受けながら体が地面に吸い寄せられるように落下する―――けど、地面に着く前に体勢を整える余裕はある。いや、有ったが今この瞬間にその余裕が無くなった!!
何故なら、落下している俺に向かって、エグゼルドが竜の息吹を放ったから!!
慌てて転移をして避けるが、ブレスの放射を一瞬食らった……。けど、思った程ダメージがねえな?
【炎熱化】のお陰かな? 肉体を物質ではなく熱の塊に変換する異能。あれ? でもさっき野郎の尻尾に掴まれたな? もしかして、あのクソッタレな鱗のせいか? あの鱗って、炎熱耐性だけじゃなく防御スキルを弱体化させる能力もあるのか?
考えるのは後だ! どの道鱗の上からじゃ炎は通じないのは変わらないんだし。
『フン、消し飛んだか』
「んな訳ねーだろうが!」
『!?』
転移で背後を取り、無駄に太い尻尾を掴む。
「お返しだ!」
尻尾を掴んで俺の何倍もある巨体を振り回して地面に向かってぶん投げる!
『フン、この程度で我が落ちるとでも―――』
「思ってねーよっ!!」
羽を広げて落下する力に抗うエグゼルド。
一瞬の空中での停止。
そこを狙う!!
極大の炎を瞬時に作り出して、その巨体に叩き込む。
『このような温い炎効かぬわっ!!!』
「炎は効かなくても、付与効果は受けて貰う!!」
【炎熱特性付与】でエグゼルドを覆う炎に“加重”を付与!
『なっ!? グゥッ!!?』
竜の飛行能力を上回る重量を炎で加算して、無理矢理地面に落とす。
「何が人間風情だボケ。死に損ないの爬虫類が人類舐めんなや!!」