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5-20 音より速く

 サイボーグとは言えパンドラは女性型に造られている。多分自身も性別はちゃんと女性として認識していると思う。だから、そんな相手にこんな事を口にするのは失礼だと思うのだが、言わずにはいられないので言う。


「パンドラ…やっぱりお前重くない?」

「軽量化ボディですので問題ありません」


 いや、問題あるだろ。

 そもそも軽量化ボディって、そらロボとしては軽いかもしれんが、一般的な女としてみたら相当アレやぞ。

 まあ、そりゃあ? 前に抱っこした時に比べたら、俺の身体能力がグングン上がってるのに加えて【フィジカルブースト】の能力強化率も上がってるから、大分楽になってるけどね。


「現在のマスターの肉体スペックならば、私2人分でも抱えるのは容易と判断します」

「2人は……まあ、無理じゃねえかもしんねーけど、やりたくはねーな…」


 1人で90kg近いのに2人で180kg…そこそこの大きさの熊に匹敵する重さだ…。


「それよりも宜しいのですか? ドラゴンがイライラしているように見えますが?」


 確かに、今すぐにでも襲って来そうなヤバそうなオーラを出している……ような気がする。


「気付いちゃいましたか?」

「はい。気付いちゃいました」


 これ以上あの爬虫類を待たせてもしょうがないし、始めるかね。


「んじゃ戦闘再開すっか?」

「はい、参りましょう」


 パンドラを抱く手に改めて力を込める。

 俺が足を踏み出したのに反応し、エグゼルドが口を開く。


――― また竜の吐息(ドラゴンブレス)か!?


 一瞬身構えたが、攻撃の溜めがない。

 口の中から種を吐き出すようにプッと黒い何かを放つ。

 速いっ!?

 が、ギリギリの所で【空間転移】で横に逃げる。

 瞬間遅れて黒い何かが横を通り過ぎ、背後で老木を貫通して大穴を開ける。


「何、今の…?」

「初速はおよそマッハ2です」

「音速超えてんじゃねえか!?」


 腐食の矢なんて目じゃねえな!?

 ブレス程広範囲高威力じゃないけど、回避が困難って意味ではこの攻撃も相当ヤバい。あの速度だと肉体の反応力じゃ対応は無理だ。転移を使わないと避けれない。


『どうした? 足を止めて良いのか!?』

「チッ! パンドラ、突っ込むぞ!」

「はい」


 エグゼルドの口から次々に黒い弾丸が放たれる。

 音速を超える黒い弾丸―――避け方に迷えばその瞬間に食らう!! 迷うな、自分の感覚を信じて避けろッ!!

 駆けながら転移をして、また走って転移をして。ちょっとずつ弾丸のタイミングを見計らいながら距離を詰める。

 無理に距離を切りに行く必要はない。パンドラの魔弾を当てられる距離で、相手のブレスを振り回し辛いならそれで良い。


「そろそろ仕掛けるぞ」

「はい」


 腕の中でパンドラがトリガーに指をかける。


「転移する前に大雑把な野郎の位置を言うから、それで何とか狙い付けてくれ」

「かしこまりました」


 鰐の様な裂けた口から黒い弾丸が飛んでくる―――。


「行くぞ! 右」


 エグゼルドの左側に転移するや否や、鱗の表面に“貫通”を付与した炎を撒く。同時にパンドラの手の中から魔弾が放たれて、狙い違わず俺の炎を潜って黒い鱗に当たる。

 ペロリと皮が捲れるように黒い鱗が地面に落ちる―――。


 よっしゃ!

 と喜びの声を出そうとして、すでに竜の首が俺達をロックオンして口を開いている事に気付く―――やっべぇ!?

 炎に付与していた効果を解いて転移で距離をとる。

 

「あっぶなかったぁ!」

「マスター…」


 若干抗議する目を向けられた。

 ええ、そうですよ。一瞬狙い通りに進んで敵から気が逸れましたよ。

 …しかし、反応力が半端じゃねえな。……知ってたけど。

 転移で視界から外れても即座に捉えられる。その場に留まれるのは1秒もねえな。まあ、パンドラの速射と精密射撃の能力があれば当てる事は問題ない。

 問題があるのは俺の方だ…。【炎熱特性付与】で“貫通”を付与して、パンドラが魔弾を当てるまでそれを維持。そこからエグゼルドの反撃を【空間転移】でかわすとなるとタイミングがかなりギリギリだ。


「パンドラ、もうちっとだけ反応速度上げられるか?」

「各センサーから繋がる回路をショートさせますが可能です」

「………却下で」

「はい」


 パンドラに無理をさせるのはダメだ。

 もっと良い方法ねえかな…?


「マスター、敵への攻撃速度を上げたいのでしたら1つ提案があります」

「何?」

「私は『マスターの発火させた炎を潜らせて魔弾を当てる』との指示でしたが、順番を逆にしては如何でしょうか?」


 うん? どう言う事?


「逆って?」

「私が先に魔弾を撃ち、その魔弾の射線にマスターに炎を発火して頂くのです。それならば、僅かですが私の発射(ドロー)を速くする事が出来ます」


 ああ、そう言う事ね。【魔炎】の発火速度なら、パンドラがトリガー引いてからでも十分間に合うしな。


「それ採用で」

「ありがとうございます」


 再び転移を繰り返して距離を詰め、鱗を剥ぐ作業を再開する。


「左」「はい」

「前」「はい」

「右後ろ」「はい」

「下」「はい」


 パンドラの提案は正解だったようで、安定して黒い鱗を落として行く。

 エグゼルドも俺達の狙いに気付いたようで、自分の体から剥がれた鱗を見て驚愕し、咆哮を上げた。


「気付かれたな?」

「はい。気付かれました」

『ふざけた真似をしおるッ!!!』


 今まで立ち止まって黒い弾丸を撃つだけの固定砲台だったのに、気付いた途端に動きながらの攻撃に切り替えて来やがった。

 けど、冷静さを欠いてくれたのは好都合―――!!


「左前」「はい」


 黒い弾丸を転移で回避し、パンドラの撃った魔弾に炎を乗っける。

 が、パキンッ小さな音をたてて魔弾が鱗の手前の空間に弾かれた。


――― 魔素の盾か!?


 さっきまでは使って来なかったのに……。今はコッチの攻撃にそれだけ警戒してるって事か。


「マスター、如何しますか?」

「構わず撃て」

「はい」


 2度遠ざかるようにフェイントの転移を混ぜる。


「正面!」「はい」


 転移。

 飛んだ先は―――エグゼルドの目の前。

 付与無しの【魔炎】を不可視の盾に叩き込む。エグゼルドの体の魔素は支配力が高過ぎて燃やせないが、体から離れた盾の魔素ならば俺の炎は有効だ。それはさっき試したから確実。

 俺が炎で盾をこじ開け、その隙間にパンドラが魔弾を撃つ。エグゼルドに当たる直前で“貫通”を付与した炎を魔弾の射線上に撒く。

 ヒットと同時に衝撃で黒い鱗がキラキラと光りながら空中を舞う。


『グヌゥ!? またしても―――』


 コイツが冷静な頭のままだったなら、ここで口から弾丸を吐いて俺達を引き剥がしにかかっただろうが、焦った思考ではそれが出来ず、闇雲に前足を振る選択をした。

 その攻撃だって、まともに食らえば下手すりゃ即死ダメージだ。ましてや、今の俺はヴァーミリオンを鞘に入れてるから【火炎装衣】の防御もないしな?

 でも―――


「パンドラ、もう一発!」

「はい」


 でも―――黒い弾丸に比べれば格段に攻撃が遅い!!

 前足が俺達に到達するより速く、腹の鱗を更に剥ぎ落す。


『ガッアアアアアアア!!!!? おのれ、おのれええええええ!! 我の体から、竜種の証たる竜の鱗(ドラゴンスケイル)をおおおおおおおッ!!!?』


 こんなもんかな?

 流石にこれ以上やるのは俺もパンドラも危険度が高過ぎる。

 剥ぎ落せたのは全体の鱗の5%ってところかな? けど、その5%の部分なら俺の攻撃を通す事が出来る!!


 転移で大きく下がり、フィリスの元に戻ってパンドラを降ろす。


「マスター?」

「ありがとな。こっから先は俺の仕事だ」

「了解しました。どうかご武運を」

「おう」


 ふとフィリスの視線に気付く。

 なんだか…その潤んだ瞳で………なんつーの? 恋する乙女? 的な? そんな感じの目で俺を見ているんだが…。


「大丈夫か?」

「え? あっ、は、はいっ!!」


 あんまり大丈夫じゃなさそうだ。


「あの蜥蜴始末して来るから、ちょっと離れてろよ?」

「あ、の…アークさん! 貴方は≪赤≫の継承者なのですか?」


 答えに迷う。けど、まあ良いか…。エグゼルドとの会話で、気付いてる奴は気付いてるだろうし。


「ああ。だから、あいつは俺が倒す」


 奴が言っていた通り、昔にあのドラゴンを倒したのが先代の≪赤≫の継承者なら、今目の前に居るコイツは先代のやり残しって事になる。

 だったら、その後始末は今の≪赤≫の継承者である俺“達”の仕事だ!

 フィリスが感極まったように涙を流し始めてどうして良いのか分からなかったが、今は決着を付ける事が先決だとスル―させて貰う。

 決して逃げた訳ではない。うん。


『おのれ≪赤≫よっ!! どこまでも我を侮辱するっ!!』

「心配すんな。テメエをこけにするのはコレが最後だ―――」


 巨大なドラゴンに向かって走り出す。


「さあ、ケリを付けようぜっ!!」



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