表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/489

5-15 炎使いと腐った竜

「俺が野郎の注意を引くから、狙えそうなら魔法撃ってくれ」

「はい」

「アークさん、お気を付けて!」

「はいはい」


 2人を背後に立たせないように、少し右に回り込みながら走って距離を詰める。

 不気味な、中途半端な髑髏顔がグリンッと首を回して俺の動きを追って動く。口元が微かに開き、その奥から何かが放たれる。

 腐食の矢!?

 本当に速いな!?

 ……でも、2度目だと流石にビックリ度が低い。初速はそれ程ヤバい速度じゃないし、吐き出す瞬間さえ見えてれば対処は言う程難しくねえな。

 ドラゴンゾンビから3m離れた所で腐食の矢を【魔炎】で燃やして撃ち落とす。

 魔素と、何か体液? …のような物を混ぜたのがこの矢の正体だ。魔素が混ざっているなら燃やせるし、体液の方はその炎で蒸発させれば良い。

 矢の対処法は分かった。さほど驚異度の高い攻撃じゃないのは安心した。でも、それはあくまで“俺にとっては”だ。

 魔素を使う攻撃への対処法を持ってる俺以外には、この攻撃は下手すりゃ一撃で致命傷になる。この攻撃は出来る限り俺が処理して後ろには通さないようにしないとな。

 俺が近付くのを拒むように2度、3度と口から放たれる黄色い腐食の矢。

 一応避ける用意をしつつ、俺の体に届く前に焼いて落とす。

 視線だけで発動できる【魔炎】は、やっぱり俺の手持ちのスキルの中でも群を抜いてチートだと思う…。

 野郎が4度目の矢を飛ばそうとする頃には、俺は3m手前まで迫っている。

 にしても、近付くと無駄にデカイな…。昔テレビで見た、陸に打ち上げられて死んだクジラの死骸を思い出す。

 っつか、マジで臭いが半端じゃない…。鼻よりも目に染みるってどういう事だよ!? あの伝説のシュールストレミングってこんな感じの臭いなのかな?

 さっさと倒して帰ろうっ!!


 4発目の矢を放つ前に腐った口の中で燃やしつつ、踏み込んで剣を振る。

 ガキンッと何か固い物に当たった感触。ドラゴンゾンビの体ではない。その手前50cm程の空間でヴァーミリオンの刃が止まっている。

――― これが不可視の盾か!?

 そのまま力付くで押し込むようなバカな真似はしない。が、刀身の触れている盾を【魔素感知】で確認しておく。

 あれ? この見えない盾って…やっぱり“そう”だよな?


「マスター!」


 おっと。

 目の前の大きな体が、しんどそうに体を振って肉が腐って太さを失いつつある尻尾を俺に叩き付けようとしていた。

 聞いていた通り、肉体の動きは鈍いな。

 矢と腐食の煙さえ何とかなるなら、近くで張り付いてた方が安全かもな。って、そんな都合の良い奴はこの場に俺1人しかいねえよ…。

 自分にツッコミを入れつつ【魔素感知】を切って【空間転移】で一旦距離を取る。

 遅れて振るわれるドラゴンゾンビの尻尾。

 俺が居なくなった事で盛大に空振って、尻尾が地面を揺らす程の力で叩きつけられる。何か黒い物が飛び散った…って、これ? もしかして尻尾の肉か?

 え? 大丈夫この子? 攻撃すればする程肉が削げ落ちて行くとか、どんだけ脆弱君なの…? 流石ゾンビ、流石腐った系の敵。


「ご無事ですか?」


 少し離れたところからパンドラに問われたので、大丈夫と手を振って返す。

 2人が俺への追撃をさせない為に魔弾と魔法を放っているが、その全てが不可視の盾で防がれている。

 ドラゴンゾンビの狙い(タゲ)が2人に行く!? と一瞬焦ったが、2人の攻撃など目に入ってないようで、ドロリとした憤怒の感情を宿した目は俺だけを追っている。

 周りの亜人達は、一先ず俺達の攻防を見る事にしたらしく、手を出して来る様子はない。

 人間には協力しない精神で手を止めているのか、それともレベルが高過ぎて首を突っ込めないだけなのか……まあ、どっちでも良いや。攻め手が決まってない状態で、下手な事されても邪魔だしね?


「パンドラ、フィリス! 今から野郎の盾を剥ぐから、魔法撃つ準備しとけ!」

「はい」

「剥ぐって、どうやってですか!? あの不可視の盾は、我々全ての魔法と攻撃を受けても貫けないんですよ!?」


 貫けないって…さっき火球ブチ込んだ時にすでに貫通してるんですけど…。つっても、他の連中の魔法に紛れて投げたし、しかも貫通したのは煙の中だから俺以外には見えてないか…。


「まあ、見てなさいって―――!!」


 再びドラゴンゾンビに向かってダッシュで突っ込む。

 半開きの口から放たれる迎撃の腐食の矢。目の前で何度も見ていて分かったが、撃つ前に少しだけど溜めがあるな? この溜めさえ見えれば、回避も撃ち落としも問題なさそう。

 口から放たれて30cm進んだ所で盛大に燃やす。

 炎で一瞬視界を奪う!

 そんな一瞬で何が出来るか?

 【空間転移】で相手の反対側に飛ぶとか。

 ドラゴンゾンビが俺を見失う。

 その一瞬の無防備を逃さないっ!!


「どっ―――――」


 右手に炎を宿らせて、思いっきり目の前の腐った体を―――その手前にある不可視の盾を殴り飛ばす。


「―――せいっ!!!」


 俺の拳の触れた場所から炎が波のように盾全体に広がり、次の瞬間俺の炎と共に…今まで亜人達の攻撃を防ぎ、絶望を与え続けて来た絶対の盾は、弾け飛んだ―――!

 それに構わず俺の位置に気付いて攻撃の動作に入るドラゴンゾンビ。が、その横っ面をパンドラが放った雷の魔弾が襲う。頭を仰け反らせ、魔弾の衝撃で頬辺りの腐肉がゴッソリと削げ落ちる。


「【ソニックブレード】」


 フィリスの風の魔法。本来は突風で相手の行動を阻害するが、相手が巨体過ぎて効果が薄い。が、その後に飛んでくる斬撃はそうではない。

 巨体の足を、体を、頭を、翼を、風に乗って飛んでくる刃が切り裂いて腐肉を辺りに撒き散らす。

 俺も一撃叩き込んでおくか!!

 【レッドペイン】で射程と威力を上昇。そのまま、ドラゴンの物とは言えないような有様の尻尾を両断する。

 特に抵抗もなく、スパンっと尻尾が本体から離れ、ビチビチと腐肉を地面に溢しながら跳ね回る。


「蜥蜴の尻尾切り…なんてな!」


 サファイアが聞いたら怒るかも…。

 周りで静観を決め込んでいた亜人達が一斉に騒ぎだす。


「お、おい!? ダメージを与えたぞ!?」「ば、バカな!? 私達全員でもまともに攻撃を通す事が出来なかったんだぞ!?」「た、たった3人で…」「いや、異常なのはあの小さい人間だ」「ああっ、あの炎は一体何だ!?」


 まあ、騒ぎますよね…?

 自分等が必死こいて戦っても全く相手にされなかったような怪物を、こんなアッサリとシバキ倒されたら…。

 でも、まあ、このドラゴンゾンビに関しては俺との相性が良過ぎるってだけなんだけどね? コイツの使っていた不可視の盾、あれは魔素で形作られていた。だから矢と同じように【魔炎】で簡単に処理出来た。

 多分だけど、コイツには魔素を物体として形成する魔素操作…的な能力が備わっているんじゃないだろうか?

 魔素があれば自由に攻めて守れるってんなら、普通の奴なら手も足も出ない。けど、俺のように魔素を処理する能力(スキル)を持っていれば、コイツはそこまで怖い敵じゃねえ。

 とか考えてる間に、盾が張り直される。

 剥いでから2秒ってところか。

 パンドラなら魔弾5発は叩き込める。俺ならトドメまで持っていける時間だ。


 ………今まで散々苦戦しまくってた亜人達には悪いが、このドラゴンゾンビって、言う程強くないな…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ