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5-12 戦いの朝

 明けて翌日。

 借り物のベッドで寝ていると、いつも通りに目覚まし代わりの重さが乗っかって来る。


「体温、脈拍計測開始」


 もう慣れて「朝か…」と思うだけで、特に何も思う事はない。

 最初はまあ、体ピッタリくっ付けられるから照れたりもしたけど、最近はもう本当に目覚ましとして認識してしまっている。


「異常なし。健康を確認したので、マスターを起こします」

「もう起きてる…」


 目を開けると、視界一杯にパンドラの無表情な顔。

 

「おはようございます、マスター」

「おはようさん」


 喋るたびに吐息がかかるのは…まだちょっと慣れないけど…。


「………」

「……いや、もう起きたから」

「はい」


 返事の割に退く気配がない。

 たまにあるんだよなぁ…俺の上から退こうとしない日が…。


「もう暫くこのままで宜しいでしょうか?」

「…ダメ」

「………」「………」


 無言でベッドの上で見つめ合う俺とパンドラ。

 マリンブルーの瞳の奥でカメラのレンズのような物が小さく動いているのが、この距離だと良く見えるなー、って違う!

 仕方なく、ちょっと強めの口調で退くように言おうとした瞬間、ガチャっとノックも無しにドアが開く。

 フィリスだった。まあ、気にせず部屋の中に入って来たのはしょうがない。だって、俺達が世話になっているのは彼女の家なのだから…。


「いつまで寝ているのですか? もう皆討伐に向けて準備を―――」


 無遠慮に入って来たフィリスと、ベッドの上でパンドラと抱き合っている(ように見える)俺と目が合う。

 瞬間、真っ白なフィリスの顔と耳が真っ赤に染まり「マズイ物を見てしまった!?」な顔をする。


「す、すすすスイマセン! ま、まさかこのような時間にまぐわっていたとは思わず!」

「まぐわうって言うな! いかがわしいな!?」

「まぐわう、つまりSE―――」

「言わんでいい!? っつか、もう俺から下りろ!」

「…はい」


 若干不服そうな顔をしつつ、ユックリと俺から体を離す。


「そ、その…邪魔をしてしまったようで…すいません」

「フィリス、とりあえずそのピンク色になった頭を通常モードに直してくれ。あと、俺とパンドラの間で、お前が今考えてるような事はねーから」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。パンドラからも言ってくれ」

「はい。私はただ、マスターの大事な物が脈打つのを感じたり、マスターの熱さに触れて居たりしただけです」


 ………なんだろう? お前、わざと誤解されるような言い回しを選んでない?


「や、やはり御2人はそう言う……あっ、いえ、私も里の中では口の堅い女で通っていますので、ご心配は要りません」


 誤解が解けてない時点で心配しっぱなしだけどね…。

 っつか、なんでパンドラは微妙にドヤ顔してんだ。

 ああ…もう良いや…。どうせこの騒ぎの間だけの付き合いだし、変に誤解されてても困る事はねーだろ。

 と言う訳で、諦めました!


「で、他の皆は支度出来たん?」

「え? ああ、はい! すでにいつでも打って出られるように、エルフの戦士達も亜人の救援者達も準備をしています。ドラゴンゾンビと、その周辺の瘴気の濃度の確認が終わり次第仕掛けるそうです」

「どんぐらい時間ある?」

「半刻程でしょうか?」


 30分あれば、飯食えるな。


「パンドラ、朝飯の準備頼むわ」

「かしこまりました」


 ベッドから立ち上がり、机の上に置かれた中途半端に畳んであるパーカーに手を突っ込む。


「白雪、朝だぞ」


 中から羽の生えた光る球を引っ張り出す。寝惚けているのか、変に羽ばたいて俺の手から落ちそうになる。

 白雪の寝床は決まった場所がない。

 俺かパンドラのベッドに潜り込んでいる事もあれば、今日のように俺の脱いだパーカーを布団代わりにして寝ている事もある。


「フィリス、悪いけど白雪の朝飯に花摘んで来て貰えないか? 俺等が外出歩くと、あんまり良い顔されねーんだよ」

「わかりました。少しお待ち下さい」


 さて、飯食いながらドラゴンゾンビの情報をもう一度聞いておくか。


 ドラゴンゾンビ。

 名前の示す通り、ドラゴンのゾンビ化した魔物。

 そもそもドラゴンは生物としての頂点だってのは、どのファンタジーな世界でもお決まりで、例に漏れずこの世界の最強の存在もドラゴンである。

 炎熱を始めとした大抵の属性攻撃をほぼ無効にしてしまい、物理攻撃も全然効かない究極の装甲である竜の鱗(ドラゴンスケイル)を全身に纏い、吐き出す火炎の息は1000の命を屠ると言う。

 ダンプカーのような巨体で空を自由に舞い、その巨大さに見合う圧倒的な力で敵を捻じ伏せる。

 力だけでなく知性もとても高く、人や亜人ではどう足掻いても手に出来ない程の知識と知恵を蓄えている。

 完全にして、最強の強者。それがドラゴン。

 で、その化物がゾンビ化するとどうなるか?

 こっから先はフィリスに聞いた話だが、腐った肉体が這うように森の中を動いているらしい。まあ、動いていると言っても、ナメクジのような歩みで逃げる事自体は難しくないみたいだけど。

 ただ、全身から瘴気を噴き出し、それに触れた物を問答無用で腐食させるらしい。物であろうが人であろうが問答無用で腐らせて朽ちさせる。これのせいで、ドラゴンゾンビが居るだけでどんどん森がダメージを受けていて、エルフ達はそれで慌てているみたい。

 で、実際に戦ってみた時の話だが、今までのアタックでダメージが通った事は一度も無いらしい。全て、不可視のシールドに阻まれて防がれた、とフィリスが泣きそうな顔で言ってた。

 竜の鱗の能力がゾンビになって生きているのかどうかは分からないが、そのシールドの防御力は無視できない、か。

 攻撃の方は、矢のように圧縮させた瘴気を文字通り音より早く撃ち出して来るとの事。音より早いって…マッハいくつだよ?

 ドラゴンとしての能力がどこまで残っているのかは不明だが、ゾンビ化して手に入れた能力だけでも十分脅威だな。

 倒すとなったら、こっちも全力出さないと勝負にならないかも…。


 いざとなったら、亜人達にビビられる事も覚悟して【魔人化(デモナイズ)】使うしかねえな。



*  *  *



「そう言えばフィリス? 俺等って、エルフの1番偉い人に挨拶してないけど大丈夫か?」


 軽い朝食をササっと平らげて、ちょっとだけノンビリしている時に、ふと思ったので率直に聞いてみた。


「それは問題ありません。そもそも族長の方がお会いする事を拒んでいますので」

「やっぱ、エルフの長となると周り以上に人に対してのヘイトが高いか…」


 予想はしてたけど、ちょっとだけ気分が重くなりそう…。


「いえ、そうではなくてですね? 族長は里の者以外には姿を見せないんですよ。今里に来ている亜人の方達も族長には会っていないですし」

「そうなの? なんか訳有り?」

「あー…はい。少々訳有りです」


 俺から視線を外して床を見る。

 聞いて欲しくない事情って事か。まあ、コッチもエルフの事情にズカズカ土足で踏み込むつもりもねえしな。


「そうか、大変だな」


 と淡白な答えでこの話を切る。

 その時、ズンッと付き上げるような振動―――

 フィリスがハッとして窓に飛び付き、膝から崩れ落ちた。


「そんな……まさか…」


 青褪めた表情を見て、何が起こったのかを察した。


――― ドラゴンゾンビが来た!



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