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5-5 アステリア王国ギルド本部

 宿代を節約する為に、知り合いの家で世話になると言うターゼンさん一家と1度別れ(荷物は置き場所に困ると言うので、とりあえずそのまま白雪が預かった)、俺達は手持ちの魔石を換金する為に冒険者ギルドに向かう。


「こんなに賑やかな町は久しぶりだなぁ」


 ササル村は元より、ラーナエイトやカスラナもどちらかと言えば静かな所だったし、こんなに賑やかだったのはソグラス以来だな。


「はい。露店の商品も今まで通過して来た町よりも品質の高い物が多いようです」

「国境の近くだから、隣の国の良い物が流れて来てんのかな?」

「それだけではないかと。ラーナエイトが無くなった事で、近場の商人が行き場を無くしてこの町に集中しているからではないか、と推測します」

「…………そうか」


 こんな所にも、俺のやった事の影響が出てるか…?

 いや、暗くなるな俺!

 落ちかけた気持ちを、1度深呼吸して持ち直す。

 後悔して足を止めても、そんなもんは時間の無駄だ。だったら、その痛みの分前を向いて、世界に恩返しなり罪滅ぼしなりしよう。


「マスター、どうかしましたか?」

「いや、なんでも…。それより、確かこの町ってこの国のギルド本部があるんだよな?」

「はい。ターゼン氏の話では、右手の通りの先に見えているあの大きな屋根がアステリア王国ギルド本部だそうです」


 パンドラの指さした先を見ると、家屋の上にニョキッと大きな赤い屋根が飛び出していた。

 ……確かにでかいな。ルディエのギルドだって1階建てだったのに、あれ3階建てだよな? 流石本部と銘打つだけあるわ。

 中央通りに出ると、なんだか人垣が出来て皆がワーワー騒いでいた。

 なんかのイベントか?

 お祭り好きの日本人の血が騒ぐな! ちょっと覗いてみようか?


「マスター、御先にギルド本部に向かわれた方が宜しいのでは?」

「…ですよね」


 俺が一歩騒ぎの方に足を踏み出したら、目ざとくそれを見て即座に窘めて来る辺り、パンドラもメイド業が板について来たかもしれない…。

 人垣の向こう側で炎が巻き起こり、同時に広場を囲んでいる人間達が歓声をあげる。

 今の炎は…魔法か? 誰か戦ってる? でも、人が怖がるどころか喜んでるって事は、ヒーローショー的なイベント戦闘なのかな?


「マスター」

「分かったよ! 行くよ、行きますって!」


 言っても信用されず、結局ギルド本部に辿り着くまでパンドラに手を引かれる事になった。メイドに手を引かれて歩く姿は、きっと傍目には物凄く間抜けに見えた事だろう。…まあ、ロイド君の見た目の幼さのお陰で多少は奇異の目が緩和されてたのがせめてもの救いだったが…。

 

「マスター、着きました」

「知ってる」


 パンドラの手を離して両開きのドアを開けてギルド本部に入る。

 おー…エントランスも広いなぁ。照明用の魔導器も多いし、夜間営業でも明るそうだ。

 それに、そこら辺で駄弁っている冒険者達もレベルが高そうだ。…とは言っても、パンドラ以上は居ない…と思う、多分! 魔素量で、ある程度レベルを測れる魔物と違って、人間の強さは自分の感覚と勘でしか測れんからなぁ…。

 俺が受付に向かいながら周囲を観察していると、エントランスに待機していた冒険者達もチラチラと俺達を見て何かコソコソと話している。良く聞こえないがアイスメ…ン? とか、インフィニティなんとか? やら、まあ、なんかそんな感じの良く分からん話だ。

 周りの様子を窺っている間に受付に辿り着き、目の前には綺麗なお姉さん。

 そうだよね、やっぱり受付は綺麗どころがやるべきだよね!? オッサンやオバサンがやるもんじゃないよね!?


「ようこそアステリア王国冒険者ギルド本部へ。今日はどのような用件でしょうか?」

「魔石の換金お願いします」


 白雪に出てくるように思念を送ってみるが、まあ、人前で引っ張り出すつもりはないので返事を待つ。

 無言のままで居るので、出るのを嫌がっていつものようにフードの中に魔石袋だけ出すのかと思ったら、以外にもパタパタと軽快に羽を羽ばたかせて机の上に着地する。


「っ!? よ、妖精!?」


 受付のお姉さんの顔が驚愕で歪む。驚いても美人さが失われていないのは凄いな…。職業根性で崩さなかったのか、それとも素なのか…。うん、どっちでも良いな!

 そんなお姉さんを無視して、白雪のポケットから魔石袋が転がり出る。


「ありがとさん」


 俺の肩に戻って来た白雪に礼を言うと、黄色く光りながら嬉しそうに羽を揺らす。


「んじゃ、換金宜しくお願いします」


 俺とパンドラのクラスシンボルを提出。

 お姉さんは、パンドラのビショップの駒はすんなり受け取ったのに、俺のルークの駒は恐る恐る手に取る。

 何、その違い………?

 まさか…とは思うけど…俺の事を“気付いている”のか? いや、考え過ぎかなぁ?

 俺が思考を回している間に、お姉さんは慣れた手付きで魔石を次々に鑑定していき…最後に残ったのは俺の魔石袋に入っていた魔晶石。


「間違いなく、魔晶石…ですね? 御2人共おめでとうございます。まずは換金ポイントが溜まりましたのでパンドラ様のランクがビショップの白からナイトの白へ昇級となります」

「はい」

「ちょい待ち。飛び級って、そんなに魔石入って無かっただろ?」

「ええ。ですが、これまでのアーク様のクイーン級討伐の際のサポートの力が高く評価されたようです。他のギルド支部から本部に評価証が届いています」


 ああ、そういう事も評価対象になるのか。

 そういや、カスラナで出会ったパンダはどう考えても雑魚だったのにルーク級だったもんな? アイツが自力で昇級したとは考えられないから、誰か強い人とかパーティーにくっ付いて寄生で評価稼いでたって事かも。


「次にアーク様ですが、ルークの白からルークの黒へ昇級となります」

「へーい」


 受付が、換金額を纏めて袋に詰めて寄越し、次にパンドラの新しい白いナイトの駒を取りだす。

 古い方のビショップの駒はこの場で廃棄となり、新しい駒に個人認証の魔法をかけて、底に名前を刻んで―――終了。


「どうぞ。これからのご活躍をお祈りします」

「ありがとうございます」


 特に嬉しさの表現もなく、無表情にナイトの駒を受け取ってポケットの中にしまう。途端に、周りの冒険者達が「まるで氷だ!」「間違いない<アイスメイデン>だ!」等と訳の分からない事で騒いでいる。


「アーク様ですが…その、暫くお待ちいただけますでしょうか?」

「はぁ?」


 あっ、やべっ、思わず不満たらたらな低い声を出してしまった。

 あんまり待たされんの好きじゃねえんだよなぁ。歯医者の待合室とか、市役所とか、床屋とか。


「すいません! ですが、その…事情がありまして」

「……分かりました。どのくらい待てば良いですか?」


 ここでこの受付のお姉さんに文句言ってもしょうがない。ギルドにはギルドの事情があるんだろうし。

 ……それに、もしかしたらだが…ギルドは俺の事を気付いてる可能性がある。だとしたら、討伐出来る人員を集める為の時間稼ぎって事も有り得る。

 けど、それならそれで、俺はあえて逃げずにそれを正面から受けて立とうと思う。場合によっては完全に人の世界の敵対者になってしまうが、それが俺のやった事の罪の重さだと言うのなら、俺はそれを受け入れなければならない。

 ……だが、まあ、命を寄越せと言われたら断固として抵抗させて貰う。【魔人化(デモナイズ)】すれば、パンドラを連れて逃げるだけなら十分に可能だと思うし。

 でも、その場合はターゼンさん達はどうしよう…。あの人達、俺と一緒に居る所見られてるし、仲間認定されて酷い目に遭わされるかも……しょうがない…連れて逃げるか。4人だったら【空間転移】に巻き込めるし。


「時間はお取りしませんので、少しの間ここでお待ち下さい!」


 言い終わるや否や、スカートなのに短距離走者のようなスピードで階段の上に消えて行った。


「行っちゃったよ……」

「待つのですか?」

「それしか選択肢ねーべや」


 仕方なく言われた通りにその場で待つ。


「そういや、パンドラ昇級おめでとう」

「はい、ありがとうございます。マスターも昇級おめでとうございます」

「んー…。俺に関しては本当に昇級したのかも疑わしいけどな?」

「どう言う意味でしょうか?」


 今のうちに、もしかしたらギルドが―――冒険者が敵になる事も説明しておかないとマズイか。

 聞かれるとヤバい話なので、受付の端の方によって顔を寄せて声を小さくして話し始める。


「もしかしたら、ギルドは俺がラーナエイト消滅の犯人だって気付いてるかもしれない」

「そうなのですか?」

「つっても確証はないけどな? この場で戦闘になるかもしれないから、一応覚悟だけはしといてくれ」

「はい」

「あ、でも、もし戦闘になっても戦わずに逃げるぞ」

「はい」


 俺達2人で戦えば、そこらの人間がどれだけ束になっても負ける事はない。けど、だからと言って無理に戦う理由も無い。俺達が戦うとすればそれは逃げ道を作る為だが、そんな事をするくらいならさっさと【空間転移】で飛んでしまった方が早いし被害も無くて済む。


「マスター」


 思考の海を泳いでいた俺の意識が、パーカーの袖を引っ張って現実に引き戻された。


「何?」

「あれを」


 言われてパンドラの見ていた壁の方を見ると、そこには1枚の羊皮紙。


――― 討伐依頼。

 討伐対象:炎の厄災(フレア・ディザスター)

 ラーナエイトを消滅させた魔獣。

 悪魔のような姿をした異形の人型。

 人語を理解する。

 街を消滅させるほどの炎の魔法を使う。

 近接戦闘では尻尾のような剣を振るう。

 転移能力、または魔法を保有。

 推定驚異度:クイーン級の黒~キング級。



 その下にもズラッと、“俺”の特徴が事細かに並べられていた。

 この世界に写真が無かった事が救いだな…。


「……はは、俺も賞金首かぁ」

「ですが、今まで見たどの賞金首よりも金額が上です」

「ゴメン、そのフォロー全然嬉しくない……」



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