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5-4 グラムシェルド

 歩きだした途端に、ターゼンさんが世話になった冒険者達を弔ってやりたいと言いだし、チン●鳥に殺されたらしい3人の冒険者を穴を掘って、花を添えて…流石に遺体を運ぶ余裕もないので、あの場の弔いで勘弁して欲しい。


 その後も道中はなんやかんやで騒がしかった。

 魔物との戦いは当然として、商人一家の護衛としてエメラルドとサファイアを出したら悲鳴をあげられ、親2人がゴールドから転げ落ちるわ、マールさんがサファイアに手を舐められて気絶するわ…。

 でも、まあ、道中で数日過ごす間に、マールさんは大きさの割に甘えん坊なサファイアと随分仲良くなって、今では「可愛い可愛い!」言いながら体を撫でている。一方その両親の方は、変な見た目に最初はビクついていたエメラルドと仲良くなっていた。紳士的な対応が好印象らしい。

 折をみてターゼンさんに俺の探し物について聞いてみた。

 勿論、体から精神を引き離す方法についてだ。もう1つ、蘇生の方法ってのもあるが、正直コッチの優先順位は前よりもずっと下がっている。

 まずは、ロイド君にこの体を返す方法が先決。俺自身の事は、余裕があったらやる…と言う程度の意識だ。

 で、ターゼンさんの答えだが……「心当たりはない」だった。

 まあ、そんな簡単に手に入る情報とは思ってなかったから、落胆する気持ちも湧いて来ないけど。

 しかし、「必ずやその情報はこのターゼンが掴んでみせましょう!」と凄いやる気を出してくれていたので、今後の情報収集の方には期待したい。


 そんなこんなしている間に歩は進み、俺達は次の町グラムシェルドに到着した。

 でっけー町だなぁ…。

 ルディエに匹敵する広さと、ソグラスのような賑やかさを併せ持つ、色々な意味で“大きな”町だ。

 なんでも、この町から東にはもう小さな村がいくつかあるだけで、その先にはもうグレイス共和国の国境しかないらしい。国境を越えて来た隣の国の人達は、大抵このグラムシェルドに来る事になるから、自然と町がこの大きさになったとかなんとか。


「ようやく着きましたなぁ!」


 ターゼンさんが嬉し涙を浮かべながら町の入り口を見る。


「良かった…! クイーン級の魔物と出会った時は、親子3人もうダメかと思いましたよ」


 涙が伝染したように、奥さんと娘さんも声も出さずに泣く。


「とりあえず、中入りましょうか?」


 このまま町の前で突っ立ててもしょうがないので、商人一家が泣き止むのを待って町に向かう。

 立派な門だなぁ……。ちゃんと門番も居るし、国境近くの町だと色々チェックが厳しいのかも?

 ……なんか、初めてルディエに行った時にアタフタしまくって門番に怪しまれた事を思い出した。あん時は明弘さんが助けてくれたんだっけ……。まあ、今の俺は冒険者のクラスシンボル持ってるから、ちゃんと身分証明できるから良いけど。パンドラもこう言う時の為に冒険者にしたんだし、備えあればなんとやらだ。

 俺達が列に並ぶと、先に並んでいた人達と門番が揃ってギョッとする。


「なぁ…なんか俺等むっちゃ見られてない?」

「はい。毎秒3人以上がコチラを注視しています」

「なんでだ…?」

「わかりません」


 …まさかとは思うが、俺がラーナエイトを消し飛ばした犯人だから―――ってのは、流石にねえか? 魔人の姿とロイド君の子供みたいな見た目じゃ、どうやっても繋がらないし。

 俺が頭を捻っていると、見兼ねたようにマールさんがサファイアを撫でつつ、


「あの? もしかして、サファイアちゃん達の事を怖がっているのではないですか?」

「ああ、そう言う事?」

「そう言う事のようです」


 パンドラと顔を見合わせて納得する。


「主様、非情に情けない話ですが、どうやら我等が居るとご迷惑をお掛けしてしまうようです」

「いや、別にお前達のせいじゃねーから気にしなくて良いと思うぞ?」

「いいえ。我等にその意思が有ろうと無かろうと、主様にご迷惑をお掛けするなど、従者として恥ずべき事!!」


 相当悔しいのか、仮面がプルプルと自分への怒りで震えている。

 ゴールドとサファイアも、己の不甲斐無さを悔やむように項垂れる。それを見たマールさんが、一生懸命サファイアの体を撫でて慰めたが、ダメージが大き過ぎて効果が薄い。


「これ以上ご迷惑をお掛けする訳には行きませんので、失礼ながらこの場でお暇を頂戴いたします!」

「んな大袈裟な…」


 俺がツッコミを入れる間に、エメラルドはターゼン夫妻に向き直って別れの挨拶を始めた。


「ではターゼン殿、我等はこれにて失礼します」

「おお、そうですか? エメラルドさん、今までありがとうございました」

「ええ本当に。まさか、魔獣の方とこうして親しくお話出来るとは、私夢にも思ってもみませんでしたよ」

「ははは、そう言って頂けるとは光栄です」


 一方サファイアは、マールさんに別れを惜しむように鳴き声をあげていた。


「サファイアちゃん、今までありがとう」


 サファイアの長い首をギュッと抱きしめると、今まで以上に寂しそうな鳴き声を出しながら羽を小さく揺らす。

 ……サファイアとマールさん…そんな今生の別れみたいな雰囲気出さんでも…。呼び出せばいつでも会えるんですけど…?

 別れを惜しんでくれる相手が居ないもんだから、ゴールドが俺の所に甘えて来るし…。俺にお別れしてもしょうがねえだろうが…。


「主様、それでは御身の前より失礼いたします」


 3体の魔獣が、並んで乱れのない動作で頭を下げる。

 前までこんな事してなかったのに…コッソリ練習したのか?


「おぅ、また何かあったら呼ぶ事になると思うから、その時は宜しく頼む」

「はっ! お任せ下さい」


 エメラルド達の体が炎となって辺りに四散すると、周りで俺達の様子を見たり聞いたりしていた連中がどよめく。

 まあ、魔獣の姿見ただけもあの反応だったもんな? その魔獣が突然消えたら、どれだけの驚きだったのかは想像に容易い。

 その後も、列の前の連中からチラチラと見られて居心地が悪い。門番達も、列を捌きながらもたまに俺とパンドラを見てるし…。

 

 さっさと列進んでくれー…と思いながら過ごしていると、ようやく俺達の番が回って来る。


「次の者」

「へーい」「はい」


 俺とパンドラが前に出る。


「さっきの魔獣の……。コホン、ではお前達の身分を明らかに出来る物は持って居るか?」


 俺は首から下げていたルークの駒を、パンドラはビショップの駒をポケットから出して門番に手渡す。


「冒険者ギルド、ルークの白のアークです」

「同じく、ビショップの白のパンドラです」


 俺達から手渡されたクラスシンボルが赤くなった事を確認し、駒の下に掘られた俺達の名前を見る。


「ふむ、本物だな。………アーク…この子供が……?」

「何か?」

「む? いや! なんでもない、通って良し」


 返された駒を再び首から下げると、背中で何かがモゾモゾしているのに気付く。おっと、そうだった。


「すいません、仲間がもう1人居るんですけど、一緒に通って良いですか?」

「仲間? …先程の魔獣か?」

「いや、そうじゃなくて」


 後ろを向いてフードを軽く叩く。


「白雪、後で不審者扱いされたくないならちょっと顔見せろ」


 言うと、光る球が体を半分ほど出してまた引っ込む。


「っ!? い、今のは―――?」「まさか、妖精か…?」

「って事なんですけど、大丈夫ですか?」

「あ…いや…ええっと……ゴホンッ、ルーク級の連れだと言うのなら許可しよう」

「どうも。パンドラ行こう」

「はい」

「ターゼンさん、中入ったすぐの所に居ますんで」


 言い残してグラムシェルドに足を踏み入れる―――。



*  *  *



 先に通した冒険者2人を追うように、商人の一家が門を通過していく。

 列はまだまだ残っているが、少しだけ休息を挟む為に作業を中断する。


「なあ? さっきの冒険者見たか…?」

「ああ、あの魔獣を連れていた者達だろう? あれは驚いたな…」

「あの氷のようなメイドが例のアレだろ?」

「ああ…<アイスメイデン>だな。まさに氷の如き冷たさを感じる娘だった…」

「<アイスメイデン>を連れていたと言う事は、あの小さい方が例の…?」

「間違いないだろう」

「……焔色の装束を纏う銀色の髪の剣士……あれが―――」

「そうだ、あの子供が―――」


「「<全てを焼き尽くす者(インフィニティ・ブレイズ)>」」



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