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5-3 運送業

「改めまして、助けて頂いてありがとうございました」


 チン●鳥に襲われていた馬車の一家が揃って俺達…と言うか俺に頭を下げる。


「いや、ただ運良く通りかかったってだけなんで」


 相手に気を使わせないように、出来るだけ軽い口調を心がけて言葉を返す。


「ですが、通りかかったのがマスターでなければ助からなかったでしょう」


 ……人が気を使ってんのに、何で恩着せがましいセリフを言うんだコンニャロウ!?

 パンドラの場合、特に含みを持って言った訳ではなく、ただ事実を言ってるってだけなのが分かるだけに怒るに怒れない。

 でも一応、叱る意味でもツッコミは入れておこう。

 無言でパンドラの腰辺りをスパンっと叩く。


「何故今叩かれたのでしょうか?」

「コイツの言う事は気にしないで下さい」

「いえ、そのお嬢さんの言う通りです! まさか、クイーン級の魔物に出会って助かるとは…今回ばかりは親子共々魔物の餌になる事を覚悟しましたよ! はっはっはっは」


 いや、笑いごとじゃねえよ。マジで洒落じゃ済まないぐらい危なかったって…。


「もう、父さん! 私からもお礼を言わせて下さいませ。父を護って下さってありがとうございました」

「いや、だから気にしないで良いですって…本当に通りすがっただけなんで」

「マスター、先程は何故叩いたのですか?」

「しかし驚きましたよ! まさか、こんな小さな方がルーク級の冒険者で、クイーン級の魔物をたった1人で倒してしまうなんて! ああ、こんな事なら馬車の中に隠れていないで外で戦いを見ていれば良かったわ!」

「ちょっと! 母さん!」

「マスター、何故叩いたのですか?」


 ああ、もうウッサイなぁ!

 話が進みゃしねえよっ!?

 仕方なく、無理矢理話を進める事にする。


「それで、貴方達はこれからどうするんですか?」

「マスター、どうして私を叩いたのですか?」

「それはもう良い! 後で説明するからちょっと口閉じてろっ」

「はい」


 言われた通りに口を閉じて待機の姿勢になる。しかし、視線だけがどうにもまだ抗議を続けているように思えるのは、きっと気のせいだな……うん。


「あぁ、はい。私達は旅の行商をしていまして、馬車の中にはその品物が全て積んであったのです」


 ああ、商人だったのか。やけに馬車の中の荷物が多かった理由が分かった。


「馬車は馬も殺されてしまいましたし、車の方も車輪が割れてしまいましたのでもう使い物にはなりません。中の荷物も、大半はダメになってしまいましたが、まだ無事な物もありますので、それを何とか3人で担いで次の町まで歩きますよ」


 担いで歩くって言っても、次の町までどんぐらい距離あるんだ?

 それに、馬車の中の荷物も無事な物だけ見繕って数減らしても、結構な量になるだろう。

 ……うーん、こうして助けたのも何かの縁だし、最後まで面倒みるか。


「あの、宜しければ俺達の事雇いませんか?」

「は? ああ、いえ、嫌なわけではないんです! 冒険者の方が一緒に居てくれれば安心ですし……ですが、御2人を雇える程の余裕は……」


 チラッと横転した馬車を見る。

 移動に使う馬車を壊されただけでも大損害なのに、積んでいた荷物の半分以上がダメになって赤字も赤字、出血大サービスどころか、出血多量で死にそうなぐらいの赤字だ。

 こんな状態じゃ冒険者に払える余裕は無いか…。ルーク級ともなると、そこそこの金額を要求されるしねえ。


「金は良いですよ? どうせ、俺等も次の町目指してましたし、ついでですよ」

「え!? あ…いや、ですが、助けて頂いた上に、そこまで良くして貰う訳には…」


 コッチは別にそこまで金に困ってないから、本当にタダでも良いんだが…。それだとアッチも恐縮する上に、警戒もするか。いっそ、簡単な利害関係の方がお互い気兼ねなく付き合えるかも。


「でしたら、代わりに情報を貰えませんか? 俺達ある物を探して旅してて、それに関係する情報を持ってたら下さい。無いようなら、商人の顔使って情報収集して欲しいんですけど?」


 我ながら良い落とし所だろう。

 俺達が情報欲しいってのも本当の事だし、アッチの財布にもダメージを与える事は無いし。


「情報ですか? は、はぁ…確かに自慢ではありませんがそれなりに顔は広いので、色々な情報は私の元に入ってきますが」

「でしたら、お願いできますか?」

「は、はい! お探しの情報は、私の商人として培って来た全ての伝手を使って、必ずやお渡ししましょう!」


 契約代わりに握手を交わす。

 その後、すぐに商人一家に馬車の中の荷物の取捨選択をして貰い、その最中にお互い名乗っていない事を思い出して、「今さらですな!」と商人が笑いながら名乗った。


「旅の商いをしております。ターゼンと申します。こっちの太い方が妻のマーサ、そっちの小さい方が娘のマールです」

「ちょっとアナタ! 太い方って失礼なっ、これでも昔は村一番の美人だったんだよ!?」

「母さん、やめて。娘として恥ずかしい…」


 商人一家の名乗りが終わったので、受けて俺達も名乗る。


「渡り鳥のアークです」

「マスターのお世話をしています、パンドラです」


 パンドラがペコっと小さく会釈する。

 すると、「私の番?」と思念を俺に飛ばしながら、エプロンドレスから羽の生えた光る球が空中に飛び出す。


「ひゃっ!?」「ぬぉ!?」「キャッ!?」


 ターゼン一家が驚いた所で、蝶のような動きで俺の肩に光る球が下りてくる。


「ま、まさか…妖精ですか!?」

「ええ。コイツは白雪です、ほら挨拶」


 ツンツンっと突っつくと、パタパタとターゼンさん達の周りを飛んで光る粒子を振り撒く。


「ふぁ…綺麗ですねぇ!」「おぉ!」「長生きはするものだねぇ」


 2周したところで、恥ずかしくなったのか慌ててパーカーのフードに隠れる。


「で、この赤い毛の狼がゴールド。他にも魔獣が2体居るけど、そっちはおいおい紹介します」


 俺の脇に顔を突っ込んで甘えて来るゴールドを、頭を抱える様にして撫でてやると、機嫌が良いのかターゼンさん達に挨拶するように一鳴きする。


「ぉお!? このような強そうな魔獣を他にも使役しているのですか!?」

「こりゃ驚いた…。クイーン級の魔物を倒すだけでも驚きなのに、その上魔獣使いなのかい!? 私ぁ、もうアークさんがどれだけ凄いのか分からなくなって来たよ!」


 話をしながらもせっせと商人一家が手を動かしていたお陰で、無事な商品の寄り分けが終わり、横転した馬車の前には、物のギッシリ詰まった木箱やら保存食やら骨董品やら武器やら色んな物が並べられた。

 全部で300kgってとこかな…? 親子3人で歩いて運ぶとしたら、1人頭100kgだぜ? どんな苦行だよ……。

 ターゼンさん一家も「この量、どうするんだよ…?」的な空気でドンヨリしてるし。

 さあ、こっからが俺等の出番だ。

 こんな荷物、俺達には屁でもない! なんたって、コッチには運送業界の革命児が居ますからね!


「白雪、頼む」


 フードの中でモソモソしている妖精を指でノックして呼ぶと、「任せて!」と無駄に元気な思念を飛ばしながら白雪が再登場。

 並べられていた物を次々に自分の収納空間の中に放り込み、ターゼンさん達が口を開けたまま唖然としている間に、積み上げられていた品物は2分程で白雪のポケットの中に収まった。

 

「ご苦労さん」


 労いの言葉をかけつつ、俺の肩で一休みする白雪を撫でる。


「ぉお…妖精にこういう能力があるとは聞いた事がありましたが……まさか、これほどの物だったとは…」


 自分の能力を驚かれて、若干白雪がドヤッと胸を張る。……どの辺が胸かは分かんないけど…。


「じゃあ行きましょうか? ターゼンさん達は体が痛むようならゴールドの背に乗って下さい。怪我してるのに無理して悪化させたらそれこそですし」


 一家は遠慮したが、明らかに負傷しているターゼンさんは無理矢理ゴールドの背に乗っけてしまう。ついでに、足を痛そうにしているマーサさんも乗せる。ゴールドなら人間2人乗せて歩くなんて余裕だ。

 マールさんは「無事だから歩きます」と宣言したので、とりあえず俺とパンドラ同様に徒歩組になって貰う。まあ、無理そうならサファイア呼んで運んで貰えば良いしな?


「アークさん、パンドラさん、本当に重ね重ねなんとお礼を言えばいいのか…」

「良いッスよ別に。後でキッチリ情報収集してこの分は返してもらうんで」

「それはそうと、マスター?」


 いつも通りの無表情だが、どこか真剣な表情をしている……ような気がする。


「私は何故叩かれたのですか?」

「……それ、ずっと引き摺ってたのか…?」

「はい」



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