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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-29 一歩目

「アークさん、もう大丈夫ですか?」

「あ……はい、なんかスイマセン…」


 助けた筈なのに、結局シスターに慰められ涙を拭かれ……なんかもう本当に男として情けなくてスンマセン…。

 終いには、白雪まで俺を心配して俺の肩で慰めて来るし。どうしようもねえな、俺…。

 だって、なんか自分でも嬉しさと後悔とか、色々な物が込み上げて来て我慢できなくなったんだもの…。

 とりあえず、まだ無理をさせないようにシスターをベッドに戻す。


「とにかく、シスターが無事そうで良かったです」


 涙の跡が残らないように、入念に目元を袖で拭う。


「はい、私も木の魔獣に捕まった時には虹の女神様に最後の祈りを捧げてしまいました」


 そのお祈りが、ガチの最後にならなくて良かった…。


「きっと、祈りを聞き届けて救いの御手を差し伸べて下さったのでしょう。虹の女神よ、感謝致します」


 両手を胸の前で組んで、目を閉じる。祈っている…らしい。

 邪魔をしないように、白雪にシーッと口を当てて部屋を出ようとする。


「アークさん?」

「はい?」


 振り向くと、祈る姿勢のまま顔だけが俺を見ていた。


「貴方が助けて下さったのですね?」


 そうです。と言おうとして、言葉が喉で止まる。

 俺は、そう言う事(・・・・・)の為にやったんじゃないしな。


「いえ、神の御加護って奴ですよ?」

「そうなのですか?」

「ええ。じゃあ、ちゃんと休んで下さいね。白雪、行こう」


 首を傾げているシスターを部屋に残して、入り口で待機していたエメラルドとサファイアに「終わった」と告げて外に出る。

 教会の外には多くの人が集まっていて、シスターの安否を確認しに来ていた。

 これだけ小さな村だ。村人全員が家族みたいなもんだろうから、そら凄い心配もするか。

 なんか、こういう光景ドラマで見た事あるな? 手術室の前で、家族知人が待ってる奴。


「し、シスターは!?」


 村長だろうか? それなりに貫録のある顔つきの老婆が俺に問う。


「ああ、多分もう大丈夫。目も覚ましてるし、あとはユックリ休ませてあげて」

「ほ、本当ですか!?」


 俺が頷くと、集まっていた村人たちは歓声をあげて喜び、中には泣き崩れる人も居た。近寄って来た人達が、次々と俺の手を取って何度も何度もお礼を言って行く。そして、最後に来たのが、リーベルさんだった。

 村人達のように俺の手を取る事もなく、何も言わずに目の前に立って俺の事をジッと見ている。……なんか、体格的に熊に睨まれてるみたいで落ち付かんな…。と思っていたら、ようやく口を開いてくれた。


「少年、君は一体何者だ? あのスリーピーウッドを草でも刈るように容易く屠り、それに後ろの魔獣も……恐らく、ここら辺の魔物では比較にならない程の強力な力を持っているようだし。極めつけはその肩に居る光る球、初めて見るが噂に聞く幼体の妖精ではないか?」


 まあ、隠してもしょうがねえか? 村人皆に白雪の姿見られてるし。


「ああ。名前は白雪、旅の途中で仲間になったんです」


 挨拶を促して軽く(つつ)くと、やはり大人の人間と向き合うのは苦手らしくピューッと逃げるようにフードの中に隠れてしまう。


「シャイなだけだから、気にしないで下さい」


 白雪の失礼な態度に怒ってないかと心配しながら、リーベルさんの顔色を窺うと、怒るどころか脂汗を浮かべて震えていた。


「あの………大丈夫ですか?」

「…ああ、本物の亜人は初めて見たよ。……それにしても、強大な魔獣を使役し、亜人を共に連れ、自身も恐ろしい強さ…本当に少年は一体……? いや、炎…? もしかして、少年は―――いえ、貴方が国の西側でクイーン級の魔物を狩って回っていると言う炎術師の方ですか!?」

「狩って回った覚えはないけど……西側に現れたクイーン級を倒した“炎使い”なら俺の事だと思います」

「やはり! 1度、()の炎術師の方とお会いしたいと思っていたのです!」


 さり気無く炎使いと訂正したけど、無駄だったか…。

 諦めにも似た感情が浮かんで来て、いっそもう炎術師で通そうかな? と考えて居ると、リーベルさんから予想もしなかった言葉が出された。


「私も女の身で冒険者をしておりますが、まさかこのような小さい方がそんな凄腕の戦者だとは気付かず、多々失礼致しました」


 熊のような巨体が小さく頭を下げる。

 ……いや、コッチはそれどころじゃねえのよ? えーと、うーん? 今、確かに女の身でって言いましたよね? 聞き間違いじゃないよね? って事はつまり、


「リーベルさん、女だったのっ!?」

「気付かなかったの!? この豊満な胸が見えるでしょ!?」

「どこがだよ!? 脂肪絞りつくして男より男らしい胸板になってんじゃねえか!? 全世界のオッパイに謝らんかいオルァ!!」


 熊のような巨体。大剣を振り回す筋肉質な太い腕。精悍な顔つき。いや、これで女と見破るって……どんな無理ゲーだ! あっ、でも辛うじて声は確かにちょっとだけ女っぽいかも…いや、だからなんだよ? そんなもん見た目のインパクトに流されて気にしねえよ!?

 その後、どこら辺に女の要素が在ったのかって話になり、「男の裸を見慣れてない」とか「家事は得意」とかそんな事を並べたてられた。そんなもんより、まず外見に1つで良いから女性らしさを出してくれよ!?

 2人でギャーギャー言い合って居たらパンドラが来て……仲裁はしてくれなかったので、仕方なく自主的に止めた。

 リーベルさんは1度シスターの様子を見て来ると教会の中にノシノシと入って行き―――ダメだ、やっぱりあの背中から女らしさの欠片も感じられねえ…。


「なぁパンドラ、今の人が女だって分かったか?」

「はい」

「えっ!? マジで!?」

「はい。男性と女性はそもそも骨格と肉の付き方が違いますので、それらから判断すれば識別は比較的容易かと」


 あれー? 俺の目がポンコツなのかな…?


「まあ、それはともかく…。そっちはどうだった?」

「はい。魔獣の死骸とその周囲を確認し果実と思しき反応を全部で36検知。その全てを指示通りに魔弾で焼却、または粉砕して処理しました」

「分かった、ありがとう」

「はい」


 褒めて欲しそうなゴールドの頭を撫でながら、改めて仲間達の顔を見る。


「ゴタゴタしてて遅くなったけど、お前達皆無事で良かった」

「はい。マスターもご無事で何よりです。元々さほど心配はしていませんでしたが」


 ………なんて仲間甲斐の無い発言をするんだろう、このロボメイドは…。


「はっはっは、主様、今のはパンドラ殿の照れ隠しでございます」

「そーなの?」

「回答を拒否します」


 まあ、そう言う事らしい。


「主様、先程より顔色が優れないようですが?」

「ああ…うん…」


 自分でも自覚はある。さっきから時々体がフラッとしそうになるし、意識を集中させておく事が出来ない。

 別に病気とか、一仕事終えて気が抜けたからとか、そう言う理由ではない。

 俺のこの消耗の原因は【魔人化】だ。実際にあの姿になっていたのは3分足らずだが、それでも肉体と精神がこんなに疲労してる。それだけリスキーな力って事か…。


「マスター、今日はもうお休みになって下さい」

「いや…でも―――」

「主様。パンドラ殿に御従い下さいませ」


 横でゴールド達まで「従わないなら無理矢理にでもベッドに運ぶ」と言う目をしている。

 こりゃダメだな……素直に休むしか道が無さそうだ。


「分かった。んじゃ、優雅に昼寝でもさせて貰うよ」

「はい。そうして下さい」



*  *  *



 ベッドの上で目を覚ますと、外の景色が夜だった。

 随分長い時間眠っていたらしい。自分の予想以上に疲れてたのか。自己管理能力が甘いなあ俺は……借り物の体だって事を、もう一度しっかり自覚しねえとな。

 静かな夜だった。

 降り注ぐような星と月の明かりだけが村を照らし、村を囲む木々が風に撫でられて葉音を村中に響かせる。

 ………本当にユグリ村を思い出す。

 異世界に来て初めての夜も、こんな風に静かで暗かったっけ。今でこそスッカリ慣れたけど、最初は全然眠れなくって夜が来るのが凄い怖かったな。

 窓から差し込む月明かりを頼りにベッドから立ち上がり、音を立てないように気を付けながら外に出る。

 風が気持ちいい。

 そういや、パンドラ達ってどうしたんだ? この村宿屋なんてねえから、どっかの家に厄介になってるのかな? それとも教会のどっかに居たのか? 俺が寝てる間に白雪もどっか行ってるし…。

 まあ、明日になれば分かるか―――…



「少しは、マシな目になったな?」



 いつの間にか目の前に白い仮面の女が立って居た。

 ≪黒≫の継承者!?


「来るの早いな?」


 冷静さと失わないように、軽い口調で返す。

 確かに、日付は変わってるかもしれないけど、その途端に来るとは流石に予想してなかったな…。


「3日後に来ると伝えておいたが?」


 まあ、そりゃそうなんだけどさ。

 普通なら、夕方とかその日の夜に来るとか思うじゃん?


「場所を移そうか? こんな夜更けに村の中で騒ぎを起こす訳にも行かんしな?」


 先にたって歩き出した≪黒≫の女の後を追って歩き出す。

 小さく細い背中だ。でも、背中からでも伝わって来る強者の圧力―――戦えば敗北は必至。それでも、俺はこの女の与える死に抗わなければならない。

 生きて償い続けると自分自身でその道を歩く覚悟を決めた。


 なんとかして、切り抜ける!



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