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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-26 生きる意志

 きっと、俺の罪は許される事はない。

 何をしたって償う事は出来ない。それは分かってる。

 でも、だからと言って刹那の痛みと苦しみの果てに死を選ぶのが正しいのだろうか?

 シスターが言っていた言葉がストンっと胸の中に落ちて来る。


――― 1番いけないのは、罪から逃げる事。罪が大きければ大きい程、それと向き合うのは恐ろしく、苦しく、辛い事でしょう。ですが、罪は決して自身を逃がしてはくれません。聖職者の言葉ではないですが、向き合い、戦うしかありません。


 俺の罪はどれ程の重さなのだろうか? きっと、想像を絶する程の物だろう。

 向き合うのは痛くて苦しい。でも、それでもコレは俺が自分で背負わなければいけない物だ。

 償いきれない罪だから、と諦める事は出来る。でも、それじゃダメなんだ! 自分の罪とこの世界から目を背けたって、何も変わらない。

 だから、俺はこの罪を背負って生きる! 生きて、この世界に償い続けるんだ! 例え、誰も許してくれなくても、それでも構わない!


 生きる。

 それを自分の中で決意した瞬間―――心の中に小さな火が灯る。その熱が全身を駆け巡り、声が聞こえた。


『オ前ハ生ヲ望ム者カ?』


 その質問、初めての時にも聞かれたな?

 あの時は生き残る為に必死で俺は頷いた。でも、今は少し違う。

 俺は、自分の為だけに生きたいんじゃない! 今まで出会った人達と、これから出会う人達に、そしてこの世界に償う為に―――俺は生きたい!


『強イ意思ダ。ヨウヤク、“世界ノ道標”ガ形トナッタカ』


 俺は、世界の未来をどうこう出来る存在じゃなくて良い。ただ、俺が居る事で少しだけでもこの世界を良い方向に動かせるなら、それはとても嬉しい事だ。


『ソレデ良イ。≪原初ノ赤≫ノ成長ヲ確認。【EXTRAスキル:魔人化(デモナイズ)】ヲ解放。魔人すきるヲ条件付キデ解放。身体能力、すきる効果ヲ大幅二上方補正』


 体が軽くなる。

 10m先には巨木の化物が親子に枝の触手を伸ばす。

 間に合わない? いや、間に合わせるさッ!! 


 俺の―――俺“達”の授かった≪赤≫の力は、その為の力だッ!!


「行けッ!」


 【空間転移】。

 目の前の景色が(まばた)きの間に切り替わり、眼前には巨大な木の触手。

 背後で親子が息を呑むのが分かった。

 伸びて来た触手を軽く手で打ち払う。ただし、俺の手は【レッドエレメント】で作り出した2000度近い熱量を纏っている。

 触れた触手が即座に炭化して地面に崩れ落ちる。


「もう、これ以上はやらせねえっ!!」

「…お、お兄ちゃん…?」

「貴方は、昨日の?」


 少しだけ振り返る。

 良かった…少し擦り傷があるけど、ちゃんと2人共無事だ。


「大丈夫。全部、俺が護るから!」


 安心させるように少しだけ笑うと、母親に大切そうに抱かれた女の子が釣られて「えへへっ」と一瞬状況を忘れて笑ってくれた。

 そうだ。俺は、こんな笑顔のある場所を護りたい。


「危ない!」


 母親の大きな声で、スリーピーウッドに向き直る。

 削岩機のような大きさの木のパイル。

 避ける事は出来る。でも、俺が避ければ後ろの親子が危ない。

 だから―――受け止めた。

 パイルの先端を掴んで止める。手の平に先っぽが食い込んでちょっと痛いな…。まあ、刺さるところまでは行ってないけど。


「邪魔だ、燃えてろ」


 掴んだパイルが炭化する間に、周囲から火が寄せ集まるように巨木を覆い尽くして燃え上がらせる。

 黒い炭になりながら倒れるのを確認してから、次の標的を探す。

 っと、リーベルさんがちょっとヤバいか? コイツ等、斬撃と打撃の効きが悪そうだもんなあ。

 手の平に炎を集めて熱量を圧縮。野球ボール大の火の球にして、【炎熱特性付与】を使用。火の球に“爆裂”を付与。


「リーベルさん、離れて!」


 大きく距離を取ったのを確認したら、振り被って―――投げるっ!!

 リーベルさんを追おうと、根っ子の足をウネウネと動かしていたスリーピーウッドに着弾。

 木の体が燃え出すよりも早く炎が破裂して、爆音と共に燃える木の破片を辺りに撒き散らした。

 これで2匹―――残り何匹だ。

 数を確認しようと辺りを見回すが、家が視界を遮っていたり、木々に混じっていたりで正確な数が分からない。【熱感知】で見ても、本物の木と見分け付かねえし…仕方なく【魔素感知】に切り替える。

 魔素の存在する場所ならば、その空間そのものを俺の目と耳にする超絶な探知スキル。お陰で敵の姿も丸見えだ。

 残り13匹。これ以上被害を出す前に、全部片す!

 っと、その前に。


「サファイア、おいで」


 手の平で作った火の球を空中に放り投げると、渦を巻きながら巨大な炎となって、その中から蝙蝠のような羽の生えた赤い皮膚のトカゲが出てくる。

 空中で1度大きく羽ばたいて減速し、静かに俺の前に着地。次の瞬間には、首を伸ばして「撫でて撫でて!」とおねだりするように俺のお腹の辺りにすり寄って来る。


「はいはい。仕事しような?」


 ツルリとした冷たい表皮を撫でてやると、嬉しそうに羽をパタつかせる。


「きゃあッ! ま、魔物!?」


 後ろでサファイアを見て、母親の方が無茶苦茶驚いていた。娘の方は、俺に甘えている姿を見てむしろ興味を引かれている。流石子供、怖い物がねえなあ。


「魔物じゃなくて魔獣だけどね」


 言っても、普通の人間にはどっちも恐ろしい物だから、大した違いはないか…。


「サファイア、ちょっと上空で旋回しててくれ」


 撫でられてご機嫌のサファイアは、元気よく鳴いて空へ飛び立った。


「お、おい…今の魔獣は…?」


 シスターを担いでやって来たリーベルさんが、どこか恐ろしげに聞いて来る。


「今のは俺の仲間だから気にしないで」

「な、仲間!? 魔獣を使役してるのか!?」

「使役……? えー…まあ、そんな感じです」


 本当はちょっと違うけど。まあ、いちいち説明するのもアレだし…時間もねえしな。


「あの魔獣は戦わないのか?」

「うーん、サファイア…あ、さっきの魔獣の事です。サファイアは炎を吹く攻撃をするんだけど、アイツは俺と違って火力の制御とかしねえから、町中で戦わせるのは危ないんです―――よっ、と!」


 村の周囲の木々に紛れていた1匹がコッソリと背後に回ろうとしていたので、炎を固めて棒状にする。そして特性付与“貫通”。

 俺の手から撃ち出された炎が巨木の胴体を貫通して、木の体に大穴を開ける。あれ? でも、まだ動いてるな? 胴体へし折るくらいしないとダメか。

 さて、そんじゃ行きますか。

 スーッと大きく息を吸って―――


「動ける村人は、中央の井戸に集合!!」


 大声で叫ぶ。

 すると、隠れていた村人達が顔を出して走って来る。

 よし、下手に散らばってるよりも、一塊になってくれてる方がコッチは護りやすい。それに、村人を追ってスリーピーウッドも集まって来る。うち何匹かは村人を枝に吊るしている。けど、まだ何とか逃れようと頑張っているところを見ると、シスターのように果実…種は植えられていない。

 まだ―――間に合う!!

 即座に【空間転移】で1番近い位置に居たスリーピーウッドの目の前に飛ぶ。村人の男性を拘束している枝の中程を炎で焼いて折り、地面に落下する前にキャッチする。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう!」


 が、折角の苗床を逃がさぬように、別の枝が伸びて来る。


「掴まって!」


 村人の体を掴んで再び【空間転移】で井戸の近くに戻る。


「リーベルさん、皆の事ヨロシク!」

「え? あ、お―――」


 男性を手放し、リーベルさんの返事を待たずに次の救出先に飛ぶ。

 次はそこそこ歳をくった老婆。すでに諦めたのか、口元に迫る果実を受け入れようとしてしまっている。


「目を閉じて!」


 俺の声に反応したのか、それとも突然の大声に驚いて目を瞑っただけなのかは分からないが、ともかく老婆が一時視界を閉じる。

 口元15cmまで来ていた果実を燃やして焼き落とす。

 スリーピーウッドの反応を待たずに、飛び上がって吊るされている老婆の体を横に抱くようにして、その体に絡まっている蔓のような枝に触れて炭化させる。

 解放された老婆を落とさないように気を付けながら、目の前にある木目に蹴りを叩き込む。

 蹴りの衝撃に耐えられずグシャッと木が割れ、木片が辺りに飛び散って残った本体は後方に吹き飛ぶ。

 一方俺は、このまま地面に着地すると腕の中の老婆に負荷をかけてしまうと判断し、【浮遊】を使い地面数センチで体を浮かして着地の衝撃を殺す。


「お婆さん、無事ですか?」

「おお、おお…今、川の幻が見えていたよ…」


 そりゃ間違いなく三途の川だ。肉体的にも精神的にも死ぬギリギリじゃねえか…。


 ホッとしながら【空間転移】で皆の元に老婆を運ぶ。

 捕まってるのは―――残り2人! でも、両方とも果実を食わされる寸前だ。どっちかを助けても、もう片方は間に合わない―――!?

 ……いや、違うな?

 間に合った!


「パンドラ! 片方は任せる!!」

「かしこまりました」


 木陰から飛び出して来た無表情なメイドが、村人を吊るしているスリーピーウッドの片方に向けて銃を構える。

 それを確認して、俺は反対の方に向かって転移する。

 転移した先は枝で吊るされている少し細めの女性の目の前。口内に半分程入ってしまっている果実を、口の中に指を突っ込むようにして吐き出させ、女性を吊るしている枝を焼いて体を下に落とす。【空間転移】で地面に先回りしてその体をキャッチ。

 よし、完了!

 女性を逃がさないように枝を無茶苦茶に振り回す巨木。俺は難なくその枝を掴んで炭化させ、更に無造作に放った蹴りで吹っ飛ばして大人しくさせる。


「無事ですか?」

「は、は、はいいぃ!!」


 転移して皆の所に戻ると、パンドラがスリーピーウッドの枝を凍らせて、落下した老人を地面で待ち構えていたゴールドが背でキャッチするところだった。


「これで、一応全員助け出せたか?」


 これで井戸の周りに集まったのは全部で27人…かな? 俺はこの村の人間の顔を全然知らないから足りない人間が居るのか確認のしようがないが、村人同士がお互いの無事を確かめあって安堵しているのを見ると、どうやらこれで全員らしい。


「マスター」「主様!」


 パンドラが、空中に浮かぶ仮面のエメラルドと、背中に老人を乗っけたゴールドを引き連れて合流。


「ナイスタイミングだ。助かった」


 さっき【魔素感知】で周囲を見た時に、コイツ等の姿を見かけたからサファイア飛ばして置いて正解だったな? 空を飛んでるサファイアの姿を見れば、俺の居る事を悟ってすぐに来てくれると思った。


「御褒めに預かり光栄です」

「主様、ご無事を心よりお喜び申し上げます」

「おう、お前等もな」


 老人を降ろしたゴールドが寄って来て「クゥーン」と寂しそうに鳴く。どうやら、俺と離れていたのが寂しかったらしい。こんなでかい図体して、何悲しそうな声出してんだよ…可愛い奴…。

 頭を両手でワシワシと撫でてやると、尻尾を振りながら甘えて来る。本当にコイツは狼と言うよりワンコだな…。

 ゴールドと戯れていると、パンドラのエプロンドレスから光る球が出て来て俺の顔に頬擦りするように引っ付く。


「白雪、お前も無事だったか?」


 聞くと、体を喜びの黄色で光らせる。

 白雪から濁流のように「心配した」という思念が流れ込んでくる。どうやら、今まで俺と思念の交換が出来なかった事で相当不安になっていたみたいだ。そういや、さっきまで全然白雪の声が聞こえなかったな? 俺の精神状態がガタガタだったせいかな…?

 まあ良いか。

 それより―――


「白雪、俺の装備出してくれ」


 妖精の持つ、知覚できない収納スペースに入っていた、俺のクラスシンボルと月の涙(ムーンティア)、そして燃えるような赤のパーカーと……俺の愛剣ヴァーミリオン。

 手早くパーカーを羽織って、首からクラスシンボルと神器の指輪を下げ、鞘の通されたベルトを腰に巻く。


 うん、やっぱ…この姿が1番落ち付くな。


 苦笑しながらヴァーミリオンを抜く。


「さってと、木材焼却の時間と行こうか!」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 子供を虐殺してた奴らを虐殺してなんの罪になるのか。 こるが罪になるなら死刑判決を下した裁判官はみんな罪人か? [一言] かなりイライラする。 ここまで面白かったのに。
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