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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-25 Re:START

 外から聞こえる大きな音で目を覚ます。

 陽が高い……もう昼頃じゃん。シスター起こしてくれれば良いのに…。怪我人だから気を使われたかな?

 …って、外うるせえな! 何か大きな物が動くズシンっと腹にくる振動が断続的に部屋を揺らし、埃がパラパラと天井から降って来る。


「なんのお祭りだ……?」


 体を起こすと、背中の痛みが無かった。

 昨日シスターのかけてくれた魔法が効いたな。改めて、ちゃんとお礼言っておこう。

 部屋を出ると、外の騒がしさに反して教会の中が静まり返っていた。


「シスター?」


 返事はない。


「リーベルさん?」


 やはり返事がない。

 外の祭りに行ってるのか?

 また大きな振動。

 そして―――悲鳴。


「きゃああああああああああッ!!!!!」


 今の悲鳴は外から? いや、それよりもあの声は、


「シスター!?」


 慌てて外に向かう。

 くそ、完全に感覚が死んでた! そうだよ、こっちの世界じゃ騒ぎが起きてるって事は、何か非常事態が起こってるって事に決まってるじゃねえかっ!!

 外に出るドアの前に立った時、何かヤバい感じがした。

 何かを感じた…と言う事ではなく、何となく…何となくこの場に居るとヤバい予感。

 ドアノブに伸ばしかけていた手を引っ込めて、廊下の端に飛ぶ。次の瞬間、厚い木のドアが弾け飛んで、何か棒状の物が屋内に突き込まれる。


「―――ッ!?」


 危ねぇ…!? なんだこの棒…丸太?

 紛れも無く木製の棒。戦端が釘のように尖って……これは、木製のパイル?

 その伸びている先をそっと覗いてみると、ドアの前に木が居た。“生えていた”ではない“居た”のである。

 太い何本もの根が蛸の触手のように動き、その上の5m近い巨大な幹を支えている。

 木の魔物―――じゃない…黒いモヤを纏ってない。って事は、何かの樹木が変異して生まれた魔獣か!?


「…くッ…」


 足が震える。体が強張って動かない。

 ヤバい、怖い! 

 ………クソッ!! アホかッ、俺は…!! 覚悟は決めていた筈なのに……昨日、シスターに自分の罪と生きて向き合えって言われて、色々考えちまったせいかな…?

 少しだけ……ほんの少しだけ、もう少し生きていたいって思っちまったからか…!


 木の怪物が、教会の中に居る俺の気配を敏感に察知して、もう1つ自分の体から木のパイルを作り出して振り被る。

 ダメだ、避けれな――――!?


「どけえええッ!!」


 木のパイルが、熊のような大男の振るった大剣で斬り落とされる。


「リーベルさん!?」

「良かった、無事か少年! 教会の外に出ろ、家屋ごと生き埋めにされるぞ!」


 言われて、動こうとしない足を1度引っ叩いて叱咤し、なんとか這うように教会の外に逃げる。


「コイツ等、いったいなんですか!?」

「スリーピーウッドだ! 精霊樹(トレント)の亜種だが、コイツ等は人間を捕まえて体内に種を植えて養分にしちまう単なる怪物だ!」


 喋りながらも、目の前のスリーピーウッドに絶え間なく大剣の斬撃を叩き込むが、相手は元が木だからか、ダメージを受けている様子がない。


「そうだ! シスター見ませんでしたか!? さっき悲鳴が…!」

「私もそれを聞いて来たところだ!」


 シスターを探しにこの場を離れようとした時、後ろの方でズシンッズシンッと何か大きな物が動く音。

 嫌な予感を感じつつ振り返ると―――


「シスターッ!!」


 リーベルさんが相対している物よりも、更に大型の8mはありそうな巨木が、頭から垂れた蔓のような枝でシスターを拘束して吊り上げていた。シスターは気絶しているのか、目を閉じてぐったりしている。けど、まだ動いてる、殺されてはいないようだ。


「なっ!? まずいぞっ、奴は種をシスターに植えようとしているっ!!!」

「えっ!?」


 見ると、細い枝の先に小さな果実のような物が実っていて、それをシスターの口元に持って行く。


「や、やめろ!」


 情けないが声が震える。

 声は辛うじて出せたけど、体が動かない。

 俺の事を無視して、シスターの口の中に果実を捻じ込む。苦しそうに呻くシスターを無視して、咀嚼もさせずに更に口の奥へと枝を突っ込む。


「あ―――」


 果実を―――種を食わされた……?

 用は済んだ、とばかりにシスターの体を解放する。

 力無くシスターの細い体が地面に落ち、木の怪物は次の苗床を探して移動を開始した。


「し、シスター…」


 足を縺れさせながら駆け寄ると、ユックリと目を開けるが焦点が定まってない。虚ろ、と言うか……まるで、人形のような意識のない目。

 種を植えられたせいか…!?

 俺……何も出来なかった……?


 視線を周りに向けると、村中がスリーピーウッドの狩り場となっていた。

 何体居るのかも数えるのも面倒臭い…“いっぱい”だ。

 村の至る所で村人が木の怪物に襲われて、吊り上げられている。

 そして今、村の中央で襲われているのは―――昨日の親娘!?

 女の子を必死に自分の後ろに隠して、目の前に迫る巨木と対峙する母親。勝ち目は無い。逃げ道も無い。助けも無い。

 俺が行っても、何も出来ない。

 ≪赤≫のスキルが全て使えない俺は、ただの子供だ。助けに行ったところで、何も出来ない。巨木の前に出て行っても何も出来ずに踏み潰されるか、木のパイルで体を貫かれるか、種を植えられて養分にされるか。


 ふと、≪黒≫の言っていた言葉を思い出す。


『≪赤≫の継承者、貴様の原点はどこだ?』


 俺の原点……なんで≪赤≫が俺を選んだのか、その理由。

 意味なんてない。俺はただ、死にたくなかっただけだ。

 死ぬのが怖くて、この世界に投げ出されるのが怖くて、だから俺の原点は―――…


――― 本当に?


 そうだよ。俺はただ、自分1人の命を護る為に……。


――― だったら


 体が動く。


――― どうして


 前に、あの親子に向かって。


――― 走っているの?


 分からない。分からないけど!


――― 自分の命が1番大事なのに、どうして貴方は今まで戦って来たの?


 そうする事が1番安全だったから…。


――― ううん、違う。だって、逃げれば良かったんだもの。それなのに、貴方は戦う事を選んだ。それはどうして?


 ………分からない。


――― 僕には分かりますよ? 貴方はいつだって、誰かの日常を護る為に戦って来た。自分が逃げれば、皆の日常が壊れる事を知っているから、どんなに辛くても貴方は戦う事を選んで来た。


 ……でも…でもさ、そのせいで俺はラーナエイトを……。


――― そうですね…。でも、僕は貴方を責めません。


 え?


――― だって、僕は知っているから。貴方がどれ程の痛みと悲しみの果てにあんな事をしたのか。だから、世界中の皆が責めたとしても、僕は貴方のした事を責めません。…だから、諦めずに一緒に償いましょう。


 ……ありがとう。


――― どういたしまして。それじゃ、最初の質問をもう一度。貴方の原点は?


 俺の原点は―――


「俺の信じる、皆の日常を護る事!」


――― 正解!


 ああ、そうだよ。俺はずっと見て来たじゃないか。

 この世界にある日常を。

 ただ平凡に、親が子供を愛し、育て、笑って、泣いて、いつでも皆が一緒に居る。そんな当たり前の日常を、ずっと見て来たじゃないか!

 確かに、ラーナエイトで見た上層の“日常”は俺にとっては目を背けたくなるほどの痛みだった。

 でも、それが何だって言うんだ? その1つの絶望を見たからって、この世界の全てを否定するのか?

 そうじゃないだろ?

 …そうだよ、俺の世界にだって人を人とも思わないような事がニュースで取り上げられてるじゃねえか。きっと、一般人の俺のところまでは情報の届かないような、ラーナエイトの連中に匹敵するような酷い事だってある…信じたくないけど。

 世界って言うは、きっと綺麗な事だけじゃない。輝くような美しい光も、人の目に触れないような汚い闇も入り混じった混沌こそが世界なんだろう。

 でも…だったら、コッチの世界も、俺達の世界も何も変わらないんじゃないか?

 俺の帰りたい日常も、コッチの皆が過ごしている日常も同じ物だ。

 だったら、俺は、その日常を護る……いや、違う! 護るんじゃない、俺が護りたいんだ!


 意識が、現実に浮上する。

 視線の先には動く巨木と、力無い親子。

 間に合わない―――!?

 ダメだ、これじゃダメなんだよ!

 人を虐殺して、街を焼いた俺が何かを護りたいなんて、そんなの単なる俺のエゴで自己満足だ。

 でも、それで良い! 俺は、自己満足の為に誰かを助けるんだ!

 それが、償いになるのかは分からない。でも、それでも俺は信じる!!

 だから―――俺に、今、戦える力をくれッ!!


『オ前ハ、生ヲ望ム者カ?』



 声が聞こえた―――…




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