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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-17 破壊衝動

 さて、なんだかんだやってるうちに大分住人が集まって来たな。

 熱を圧縮した火球で魔動兵の胴体に穴を開けながら、下層全体を2つの感知能力で見回す。今東側の通りを歩いているので最後かな? 一応残ってる住人は居ないっぽいな。全員逃げる覚悟を決めてくれたらしい。


「おい、後1人来たら街の外に出る。南門の方へ向かえ」


 魔動兵を尻尾で斬りながら言うと、ビビりながらも全員が移動の準備を始める。

 全員を手っ取り早く転移出来れば良いのだが、俺が飛ばせるのは精々3m範囲だ。何度も転移する事になるなら、炎の壁に穴開けて外に歩いて行かせた方が結果的には早い。

 移動した住民達より先んじて転移で南門に到着。門の周辺だけ炎を消して通行を自由にする。

 これで、後は放って置いても皆外に出て行くだろ。

 背中から炎を噴きだしながら上昇する。


 10分もすれば、下層の住人の脱出が完了する。


 …………少しだけ炎に染められた空を漂って思考に時間を割く。

 印を持った人間は殺す。これはもう俺の中の確定事項だ。人の命を、物理的に消費して生きる奴等の生き方を俺は絶対に認めない。そして、この街の領主には直接会っておかないとな。

 元々俺はこの街の不老の人間の知識を頼って来た訳だが、そんな物は今となってはどうでも良い。領主に会うのは、コイツが人を不老にする元締めらしいからだ。確実に殺しておかなければならない。後は、資料や何かしらのデータが残らないように灰も残さず消し飛ばす。

 下層の住人がそう言った資料を持って逃げるとも考えたが、上層と下層の親交の無さを考えれば、下層にそんな重要な物は置いておかないだろうと言う結論に至った。

 ……まあ、そんな奴が居たら、見つけ出して確実に始末するけど。


 っと、下層住人達の脱出が終わったか。

 炎の壁を貼り直して……これでよし。


――― 手緩い殺戮ごっこは終わりだ


 手の平に炎を圧縮。

 俺を追っかけて下に集まった魔動兵達に向けて炎の球を落とす。


 爆発―――


 何者に対しても平等に叩き込まれる押し潰すような圧力と、暴力的なまでの熱波。

 下層の5分の1程を一撃で瓦礫に変える爆発。

 上層の方向に飛行しながら、歩いている魔動兵に向かって炎を投げる。

 夕方までは、たしかにいつもの日常があった下層の街に立て続けに火柱と黒煙があがる。


 上層の入り口である石造りのアーチを、火炎弾で積み木の城のように簡単に崩す。

 その残骸を通り過ぎた所で着地。とは言っても、【浮遊】は発動しっ放しになっているので、体は地面から30cm程浮かせてある。


 そこら辺に居るけど、姿を見せないな。

 さっき危機感煽る為に死体放置しといたのが少しは利いたかな?


 まあ、隠れてても―――


 落ちていた石ころを拾って炎を纏わせる。

 ピンっと指先で弾くと、ライフルの弾丸のように家屋の壁を貫通して、隠れて俺を見ていた印持ちの男の頭を吹き飛ばす。


「殺す」

 

 俺はお前等のかくれんぼに付き合うつもりはないんだよ。

 手の平で炎を転がして、小さな火の球をいくつも作り出す。

 ビー玉のようなそれを、1つずつ弾いて周りの城のような無駄な大きさの屋敷に投げ込む。

 家屋の壁を突き破って屋内に侵入した火の球は、周囲の魔素と空気を喰らって巨大な炎に膨れ上がる。この時点で大半の家は燃え出し、異変に気付いた屋敷の住人達が逃げ出そうと慌て出す。

 だが、残念……もう逃げられねえよ。

 通りの左右で燃え上がる屋敷を通り過ぎ、フヨフヨと無防備に浮遊して移動しながら目に付いた場所に火の球を撃ちこむ。


「弾けろ」


 俺が炎を撒いた家々が、爆撃されたかのように爆音と共に燃え上がる残骸を周囲に撒き散らして跡形も無く砕け散る。

 連続して爆発音が上層に響き渡り、2分足らずでアーチ付近の区画から建物が1つ残らず消えた。

 建物を爆散させるのは良いが、1件づつやると時間がかかるな。


 体の奥から沸々と破壊衝動が湧きあがって来る。もっと、もっと壊せと心の中を黒い染みが塗り潰して行く。


 【空間転移】で上空50mくらいまで飛ぶ。

 手の平で転がしていた炎を圧縮してバスケットボール程の大きさの球する。

 振りかぶって…下に投げる!

 チカッと光った赤い色が波紋のように上層に広がり、それを追って広がる衝撃と熱波。

 衝撃が家屋を根こそぎ地面から引き剥がし、熱波が灰も残さず全てを焼き尽くす。


「はっはははは…!」


 分からない、自分でも分からないが、破壊する事が楽しくて気持ち良くて仕方ない。

 もっと壊して、もっと殺して、もっと力を振るいたい!

 自分が塵に帰るまで、もっともっともっともっともっと


『この世界を壊したいッ!!』


 この衝動の赴くまま、どこまでも壊し続けるんだ! “我等”の邪魔をするこの世界を壊し尽くすまで―――!!!


――― ダメだっ!


「っ!?」


 ハッとなって我に帰る。

 …………なんだ…? 今、ちょっと意識飛んでた……?

 気のせいか?

 暴れ過ぎて、変な脳汁でも出たのかな…。

 まあ、良いか。


 高度をユックリ下げて行くと、ラーナエイトの上層……いや、かつて上層だった瓦礫の山の中に、屋敷が1つだけポツンと建っている。

 驚きはない。

 あの屋敷だけ、魔法防御でガチガチに固められて居るのは気付いていた。そして、あそこの主人が誰なのかも想像がついている。だからこそ、あえてあの家を焼かないように手加減したんだからな。

 入り口のドアの前に着地する。

 おもむろに足をあげ、その見るからにクソ高そうな貴族趣味全開の装飾過多なドアを蹴破る。


「おじゃましまーす」


 廊下の先に居た警備の人間が俺の蹴ったドアの破片で腹と足を貫かれていた。多分、もうすぐ死ぬな。どうでも良いのでスルーする。


「すいませーん。領主様は御在宅でしょうか?」


 勝手に上がり込み、適当に目に付いたドアを開けて行く。

 やたらと広い廊下にドカドカと足音を気にする事もなく剣を持った男が出て来た。


「お前が領主か?」

「違う。俺は、領主様に雇われた者だ」

「あっそう…。で、領主様に会いたいんだが、どこにいる?」

「答えると思っているのか?」

「いや」


 コッチも別に本気で聞いた訳じゃない。

 ただ、初見で俺の姿に微塵も怯える様子がないコイツがちょっと珍しいな、と思ったから言ってみただけだ。


「貴様、一体何者だ? 俺も世界中を旅して色んな敵と戦ってきたが、お前のような奴は見た事がない……。まさか、伝説に謳われる悪魔か?」

「どうでも良いだろ」


 男の首の後ろには、例の印が刻まれている。【魔素感知】で見れば周囲の魔素を歪めている。俺にとってはその事実1つだけ確認出来れば、後はどうでも良い。


「退く気があるならさっさと退け、退く気が無いならかかって来い」

「ふんっ。随分自分の力に自信があるらしいな? 先程から外が騒がしいのも貴様が何かしたからか?」


 外がどうなってるのか知らないのか…。こう言う場合は、幸運なのか不幸なのか…ちょっと判断に困る。


「別に? ちょっと外を綺麗にしただけだ」

「まあ良いさ。俺はお前のような奴と戦うのをずっと待っていたんだ」


 言うと、男は腰のロングソードを抜く。

 一目でまともな剣じゃないと分かる。神器ではないが、ブレイブソードのような何かしらの力を持った魔法具か。


「俺はヴィヴィシアの闘技会で優勝してな……と言っても、200年以上前の話だが。そこで領主様に雇われ、こうして永遠の時を生きる権利を与えられた。その時間を、己の力の研鑽に費やして来たが、この街の中では魔動兵ぐらいしか相手が居なくてな。長い間、ずっと退屈していたんだ」

「どうでも良いけど、その話長い? だったら端折って欲しいんだが」


 俺の言葉が言い終わるより早く、剣閃が俺の首目掛けて真っ直ぐに走る。

 速い。

 確かに速いが、それはあくまで“人として”だ。

 多分、そこらの冒険者相手にこれをやったら、十中八九首が落ちる。が、俺にはその速さは通用しない。今の異形化している状態じゃ無くても反応は出来たと思う。

 異形化状態なら、反応する必要さえない【炎熱化】で物理攻撃は受けなくても勝手に透過する。

 が、男の持つ剣の煌めきにゾワリとした嫌な気配を感じ、咄嗟に尻尾の先でそれを防ぐ。

 尻尾の先に焼けるような鋭い痛みを感じ、尻尾の先10cmが俺の体を離れて宙を舞っていた。


――― 斬られた!?


 一瞬の驚きと焦燥。

 咄嗟にバックステップで廊下の曲がり角まで下がる。


「ほう、まさか今の速さに反応するとはな。貴様、見かけ倒しではないらしい」

「お前こそ、ただの自慢話が好きな阿呆ではないらしいな」


 いや、正直コイツ自身は大した事ない。問題なのは、あの剣の方だ。


「その剣、ただの剣ではないな?」

「分かるか? これこそ、かつて地帝竜の首を落としたと言われる魔剣ゼクシアだよ」


 全然知らねえ。地帝竜って何だ? 魔剣ゼクシア? なんだそりゃ?

 どう言う物なのかは分からないが、少なくてもあの剣は俺の体を傷つける事が出来る、と言うのは間違いないらしい。


「次は外さん!」


 男が魔剣を手に踏み込んで来る。

 ここの廊下がもうちょい狭かったら、剣をまともに振れなかっただろうに。まあ、そんな狭さだったら俺も自由に動けないけどな。

 魔剣が振るわれる。生身で受ければダメージは必至、避けるスペースはない。

 ここで俺の選択肢は2つある。1つは転移して1度逃げる。逃げると言っても、あの剣の間合いから離れるってだけで、屋敷の外まで逃げる気はない。

 もう1つは―――


「その首、頂きだっ!!」


 鮮血が舞った。


「ぇ……?」


 男が、血を噴きだす自分の両腕を呆然と見ながら、その血を馬鹿みたいに体に浴びている。

 そんな男を無視して、空中を飛んでいた両腕とその手にしっかと握られた魔剣が床にドチャッと生々しい音を立てて落ちる。


「残念。俺の首を刎ねるより、俺がお前の手を落とす方が早かったな?」


 俺の剣の尻尾は万能だ。

 鞭のようなしなりを利用すれば、攻撃を避けて相手の特定の部位を狙うのも容易い。


「そ、そんな……俺が、どれだけの、時間を、かけて、剣の腕を……極めて―――」


 出血多量で男が倒れる。


「そーかい。子供の命を喰らいながら、無駄な時間をご苦労さん」



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