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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-16 下層住民と魔人

 一瞬で下層に戻って来る。

 転移は便利だけど、使ってると普段頑張って地べたを走ってる自分達がアホに思えて来てツライな…。

 すでに下層住民の半分くらいの人間が大きな荷物を抱えたり、どこからともなく引っ張って来た馬車や、牛に荷物を乗せてこの街を後にする準備を終えていた。でも、まだ全然人が残ってるか……まあ、ここ離れてから10分くらいしか経ってないしな。


「わー! 外に出たー!」「外燃えてるよー!」「怖い…」「皆、お出かけするの?」


 子供等は転移を経験したのが初めてだったのか大はしゃぎだ。それにしても、街を包む炎を見ても驚くだけであんまり怯えた様子がないのは、単にテンション上がってるからなのか、子供特有の怖い物知らずだからなのか。

 子供達の声でようやく住人達が俺に気付き、泣きそう目で俺を見ている。

 その中から、他よりは多少は気を保っているババルのオッサンが前に出てくる。


「……ま、まだ、支度の終わっていない住人達が居る。もう少し待ってくれ…」

「気にするな。まだ、迎えに来た訳じゃない。それより、この子供達を頼む」

「このガキ達は…?」

「ババルのおじちゃん!」「おっちゃん!」「アネルさん!」「おじぃちゃん!」

「おじちゃん言うなっ!! 誰だお爺ちゃんって言ったの!! って、お前等なんでコイツと…?」

「この悪魔さんがね、私達の事助けてくれたの!」

「助けて……?」


 話を聞いていた住民達が怪訝そうな目で俺を見る。

 

「子供の戯言だ、気にするな」


 ですよね、と言う空気。

 助けたは助けたかも知れないが、俺はこの姿で正義の味方になるつもりも名乗るつもりもない。

 異形の姿の悪魔。残虐で冷酷な殺戮者。今の俺はそれで良い。


「悪魔さん、これからどうするの…?」

 

 トテトテと俺の足元に寄って来たヴェリスが、体に巻いた布を押さえながら俺の腰辺りに触れる。処刑部屋から助けたからか、怖がったのは最初だけで今では全然そう言う様子がなくなった。


「他の住人達の逃げる準備待ちだ。暫く大人しくしてろ」

「うん」


 さて、住民が集まるまで俺はどうするかな?

 下層に残ってる魔動兵の始末でもしておくか。と考えていたら、丁度いいタイミングで魔動兵達が俺を見つけて集まって来た。

 探す手間が省けた。

 皆が危なくないように少し離れて戦うか。


「ねえ、鎧着た人がいっぱい来たよ?」

「人じゃねえけどな…。アレの狙いは俺だ、危ないから皆の所行ってろ」

 

 それでも中々離れようとせず、頭の1つでも撫でて離れさせようとしたところで手が止まる。


『お前はその異形の手で子供を撫でるのか?』


 悪魔のような、殺し、傷つける事しか出来ないその手で?


『迷うな、お前は人の姿と引き換えに力を得ただろう?』


「チッ……うるせェ…」

「悪魔さん?」


 心配そうにヴェリスが見上げて来るのを、煩わしそうに引き剥がす。


『そうだ、衝動に抗うな! 壊し、燃やし、全てを消し潰せ!』


「うるせえ、黙れよ……!」


 何だこの声…うっぜえな。

 俺じゃない、ロイド君じゃない、この声……≪赤≫か? でも、いつもより随分聞きとりやすいじゃねえか…!? 俺の精神がコイツに引っ張られてるせいか?

 俺を破壊衝動に引きずり込もうとする声を意識の外に叩き出し、目の前に迫って来る魔動兵達に意識を向ける。

 尻尾で斬り、爪で引き裂き、炎で燃やす。

 倒して行くうちに違和感。

 確かにコイツ等は俺を狙って来ている。その筈なのに、何体かは俺の横を素通りしようとしている。

 何だ?

 その向かう先に居るのは―――子供達?

 子供を狙う理由は1つしかねえじゃねえか!! 白い家の脱走者だからだ!

 でも、どうして子供が下層に居る事が分かった? 魔動兵達が子供を見てそう判断したとは考えにくい。って事は、この場に魔動兵に指示を出してる奴が居る!!

 誰だっ!?

 視界は目の前の魔動兵に固定したまま、2つの感知能力で周囲を探る。

 俺達が下層に転移して来てから3分と経ってない。だとすれば、敵はこの周辺に居る。


――― 居た!


 通りの右側の建物の2階。魔素が微かだが歪んで視える。

 その時、別の通りから真っ直ぐ子供達に向かって魔動兵が突っ込んで行く。

 行かせねえよっ!

 【空間転移】で子供達の前に飛ぶ。

 目の前に居た魔動兵を、魔素の歪んでいる2階に向かって蹴り飛ばす。


「わぁあああああッ!!」


 鉄の鎧が壁を突き破って2階に吸い込まれて行き、中から野太い男の悲鳴。

 チッ、潰し損ねた。蹴りを手加減し過ぎたか…。

 空中を飛んで俺が開けた穴から中に入ると、ドアから若干メタボ気味の男が逃げだそうとしていた。その首の裏には不老の印。

 カッと頭の奥が熱くなり、男の後ろ首を掴んで床に引き倒す。が、強く叩き付け過ぎて凄まじい音と共に床が抜けて1階に落ちる。


「ぁ…グぇっ! な、何するんだ…!?」


 結構な痛さだっただろうけど、意識はちゃんとあるらしい。


「おい、魔動兵に子供襲わせたのはテメエか?」


 男の脂肪に包まれた首を、床で押さえてつけながらギリギリと締め付ける。


「が…っ、ま、待って…ガフッ、上層から子供が逃げたから…えぅッ…見つけ出し次第殺せって……!」


 食料と魔動兵にしようとしてたのを、今度は真実を外で漏らさないように殺そうってか…!? 通信と状況把握の手際の良さだけは認めてやるが、一々癇に障る…!!


「た、だずげで―――ッ!」

「断るっ!!」


 右手に力を込めて、男の首をグシャリと潰す。

 手に付いた男の血と肉を【バーニングブラッド】で焼いて飛ばしながら外に出る。


 くっそ…子供達が狙われてるとなると、街の中にいつまでも置いとく訳にはいかねえな…。

 どうする? 子供達だけでも先に街の外に出すか? でも、外で魔物に出会う可能性もあるか。ババルのオッサンとアネルの姉ちゃんも一緒に着いて行って貰うか。

 下手に街の人間を先に出すと、残った連中が「取り残された!」と不安になるかもしれないし…その点オッサン達は部外者だ。

 ただ、この先の展開を考えると、下層住民の大移動を行う事になるから護衛が必要になる。この街の冒険者だけじゃ多分手が足りない。オッサン達には街の外で暫く待って貰わないとだな。

 建物の外に出ると、魔動兵達がまた集まり出していた。

 上層に少なかった分、下層には腐るほど居るな…。

 近くに来ていた魔動兵を適当に尻尾で斬り散らしながら、住民達の所に戻る。


「何か、あったのか…?」


 恐る恐るオッサンが聞いて来る。多分、コッチの逆鱗がどの辺りにあるのか探り探りなのだろう。猛獣扱いだな…。


「いや、なんでもない。それより、お前とお前…」


 オッサンと後ろで子供達の面倒をみていたアネルの姉ちゃんを指さす。


「え…わ、私もかい…?」

「子供を連れて先に街の外に出ろ」

「え!? な、なんで俺達とガキ共だけ……他の連中はどうなる…!」

「口答えするな」


 声を低くして言うと、オッサン達だけでなく住民達も肩を震わせる。


「近くに来い」


 やる事はさっきと同じだ。オッサン達と子供達を囲むように炎を出す。

 冒険者2人は何をされるのかと脂汗をダラダラ流しているが、子供達は1度経験しているから余裕で、むしろアトラクションを楽しむぐらいの気軽さを見せている。


「住民達も集まり次第外に出すから、それまでは待っていろ」


 コクコクと頷いたのを確認してから転移阻害無効を引っかけてから【空間転移】で街の外に飛ばす。飛ばしたのは、街から100mくらい離れた草原だ。さっき俺が魔動兵をバラしまくった場所の近く。あの辺りには魔物も魔獣も居ないのを確認してあるので、安心して飛ばせた。


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