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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-14 Re:永遠の終わり

 人間爆弾で爆散した1人。そしてその爆発で撒き散った骨と炎で死んだ3人。

 いや、死んだんじゃない…俺が殺意を持って殺したんだ…。

 ルディエでも人は殺した。でも、あの時は町を護る為に仕方なくだ。

 今回は違う。

 今の俺なら、殺さずに無力化する方法はいくらでもあった。それなのに、俺はあえて殺す方法を自分の意思で選んだ。

 だが、別に後悔していない。

 人の姿と一緒に、人の心も無くなったかな…?


 ……まあ、もうどうでも良いや…。


 尻尾を後ろに向けて大きく振る。

 パンっと空気が裂ける音。そして、背後に居た魔動兵達が縦に真っ二つになる。


「お前達は逃げろ」


 更に剣のような尻尾を振るって道を作る。


「マスターはどうなさるのですか?」

「俺はまだあの街に用事がある」


 エメラルドと、頭に白雪を乗せたゴールドは俺に言われた通りに、すぐに離脱しようとしているが、パンドラがまったく動こうとしない。


「では、その用事が終わり次第後を追って来る、と言う事でしょうか?」


 パンドラは多分気付いている。

 俺が、この“後”を考えていない事に…。

 自分がこれから何をしようとしているのか、俺だって分かってる。だからこそ、この後なんてきっと俺には無い。


「………良いからさっさと行け」

「マスター…」


 パンドラがどんな顔しているのか怖くて見れない。

 多分いつも通りの無表情だろうけど……それでも、もしも寂しさを感じさせる表情をしていたら、心が鈍ってしまいそうだ。


「……パンドラ、後の事は頼む」


 後の事ってのは、別に具体的に何をって話じゃない。まあ、この先起こる面倒の色々だ…。

 いつものように二つ返事で頷いてくれると思ったら…。


「承服しかねます」

「パンドラ…?」

「ご自分の後始末はご自分でなさって下さい」


 言うとペコっと頭を下げて、俺の作った魔動兵の隙間を歩いて行く。その後を、慌ててエメラルド達が追う。

 ちゃんと戻って来い…って事かな。それこそコッチが「承服しかねる」だが。

 おっと…そろそろ、この場を片付けるか。

 残っていた男の1人に視線を向ける。


「ヒィっ!? や、やめて…助けて下さい…!!」

「却下」


 男の体が炎に包まれる。悲鳴を上げる間もなく体が炭化して地面に転がる。

 ……やっぱり何も感じねえな…。

 残っているのは魔動兵だけ。命令を出した人間が居なくなれば止まるかも、と思ったけど無駄そうだな。

 子供達の精神を解放する意味でも、魔動兵を見逃すつもりはないが、抵抗されないならそれに越した事はない。

 まあ、魔動兵が向かって来るって言うなら―――


――― 尻尾が音より早く魔動兵の体を切り裂く。


 問答無用で叩き潰すだけだ。

 体が異形化して能力が全部底上げされ、様々な力が新たに付与されたが、その中でもこの尻尾の剣は使い勝手が良い。伸縮自在で、硬度は並みの金属では太刀打ち出来ないレベルだし、しなりを利用して振れば軽々音速を超える。

 尻尾を振る事に最初は違和感があったが、すぐに慣れた。ようは3本目の手だと思えば良いんだコレ。

 色んな方向から突っ込んでくる魔動兵を草でも刈る様にスパスパ斬って行く。

 

 3……2……コイツでラスト。

 最後の1体を縦に両断して、この場に動く者は俺1人。

 さて、そんじゃあ街に行くか。

 【空間転移】で1度下層に飛ぶ……っと、このまま転移すると、街を囲む炎に付与した転移誘導で俺も炎の中に飛ばされるんだった。自分の体に炎を纏わせ特性“転移阻害無効”を付与。

 ……転移無効は付与出来ないのに、何で阻害無効は付与できるんだ? まあ、どうでも良いか。



*  *  *



 下層に飛ぶと人が通りで集まっていた。

 皆着の身着のままで、中には寝巻の人間も居る。寝ようと思っていたら、外で炎が噴き上がって大騒ぎって感じか。そして、逃げ道がないこの状況でどうすれば良いのか皆で話していたのか。


「あ…」「ひぅ……!?」「た、助けて!!」「殺さないで…」「やだ、やだ! 死にたくない!!」


 何をそんなにビビって……って、俺か。

 そりゃあ、そうか。街が炎に包まれたこんな極限状態で、異形が突然現れたらこの反応も当然だ。

 ……分かってたけど、本当に俺は人に恐れられる姿になったんだな……。


「お、おお、お前は一体なんだっ!?」


 と、カタカタと震える手で武器を手にした髭の冒険者。

 ババルのオッサン…その後ろにはアネルの姉ちゃんも……まだこの街に居たんだ。

 俺が一体何か、か…。

 今の俺は、阿久津良太でもロイドでもアークでもない。いや、そもそも人間ですらない。

 じゃあ何だ?

 決まってる。今の俺は、ただの―――


「厄災」


 皆の顔が青褪めて、中にはその場で泣き崩れる者や、「子供だけは、子供だけは!」と懇願する者、色々居る。

 別に俺は下層住人を殺すつもりはない。俺が用があるのは、子供の命を食らい続けて来た上層のゴミ共だけだ。それを伝えようとした時、周りから魔動兵が集まって来る。

 俺が上層に侵入した人間だって識別出来てるのか? それとも街中に突然現れた異形に対して敵対行動を取っているだけか? まあ、どっちでも良い。魔動兵は全部砕いておかねえとな。

 【空間転移】で魔動兵の前に飛び、バケツのような頭を掴んで力任せに地面に叩きつける。

 敷かれていたレンガが砕け散り、露出した地面が抉れて兜が段ボールのようにペシャンコになった。

 今の状態なら力任せにやっても行動不能に出来るな。

 背後から迫っていた2体を尻尾で横に一閃して上下に両断する。

 前から突っ込んで来た魔動兵に触れる。


「ごめんな」


 【炎熱化】の熱量で鎧を丸ごと溶かす。

 1体ずつ相手にしてたら切りがねえな。もっと大規模な炎を使って良いんなら3秒で終わるんだが…。

 仕方ない、下層の魔動兵をどうにかするのは後回しにしよう。

 フヨフヨとホバー走行して、羊の群れのように身を寄せ合う下層住人達の元に戻る。


「た、助けて下さい! なんでもしますから!!」


 誰かが涙声で言った途端に、皆も口々に「全財産差し上げます!」だの「私は良いです、どうか娘だけは見逃して下さい!」だの……完全に殺される気になってる…。まあ、目の前で、この街の守護者である魔動兵を虫のように潰したからなあ…。


「心配するな、お前達を殺すつもりはない」


 すると、「え? そうなの? 助かるの?」と安堵する人間達と「嘘だ! 希望を見せてから殺して絶望を味合わせるんだ!」と絶望が濃くなる人間に分かれる。


「ただし、この街は捨てて貰う」

「なっ!?」「そんな!?」「私達、どこに行けばいいのよ!?」「生まれ育ったこの街を離れるなんて…」


 まあ、そう言う反応になるよな。でも、コッチはそれに付き合うつもりはない。


「残りたいなら残れ。ただし、残った場合は確実に死ぬぞ」


 俺が住民達に出せる選択肢は2つだけだ。街を捨てて生き延びるか、街に残って死ぬか。悪いが3番目の選択肢はない。そして、後者を選んだ場合は悪いが街ごと焼く事になる。


「暫くしたらまた来る。それまでに逃げる者は支度しておけ」


 住民達はコクコクと頷く。


「それと、この街の住人ならば、首の後ろに刻印を持つ不老の者の存在は知っているな? 逃げる者の中に刻印持ちが混じっていた場合、お前達も奴等の逃亡を助ける味方と見なし、全員殺す」


 脅しではない。俺は本気だ。

 今は理性が働いているから関係無い人間は極力逃がそうとしているが、体の奥底から湧き出てくる破壊衝動は今すぐにでもこの場に居る全員も殺してしまえと言っている。

 多分、実際に殺そうと思ったら、今の俺は迷い無く実行してしまう。


「死にたくないなら、刻印を持った者は絶対に逃がすな」


 話を理解したのか確認する為に全員の顔を見渡す。が、俺のそんな何気ない行為でも恐怖を感じるらしく、皆が涙や汗を流しながら頷く。


「では、急ぎ支度しておけ」


 言い残して【空間転移】で次の目的地を目指す。

 次は、あのクソ忌々しい白い家だ―――!



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