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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-8 呪いの声達

 助けて? 何から? 何をだ?

 待ってみても、その一言だけで言葉が続く気配はない。


「パンドラ、今何か聞こえたか?」

「いえ、何も」


 やっぱり、聞こえたのは俺だけか…。俺の頭がおかしくなって幻聴が聞こえてるってんじゃないのなら、魔動兵には助けを求める程度の意識があるって事になる。

 でも、今の声…俺に言ったってか、苦しくて思わず出てしまった声って感じだったな? 「タスケテ」とは言ったけど、本当に助けを求めた訳じゃない、とか?


「マスター、1度宿に戻りお休みになった方が宜しいのでは?」

「いや、大丈夫。次の魔動兵の所に行こう」

「……はい」


 パンドラがチラチラと俺の事を心配そうに見ているが、声の件を話すのは他の魔動兵を回って見てからだ。


 ギルドで貸して貰った配置図を頼りに街中を周り、残りの魔動兵の起動確認をして行く。

 触る。動く。周りを見回し、元に戻る。

 ルーチンワーク化して来た作業を淡々と2人(プラス働かない妖精1匹)で消化するが、例の声が聞こえる魔動兵は居ない。26体居れば、1体くらいまともに話せる奴が居るんじゃないかと思ったんだが、考えが甘かったな…。


「マスター、今の魔動兵が最後です」

「ああ…」


 うーん…困ったな。パンドラや、戻って来たエメラルドに情報共有するにしたって、こんなあやふやな事じゃ、伝えようがない。

 いや、待った。確か、門の方に魔動兵が纏めて置かれてるって言ってたな。普通に近付いたら怪しまれるけど、この依頼を盾にして「念の為に確認した」とか何とか適当に言い訳すれば大丈夫だろ。


「パンドラ、もう少し付き合ってくれ」

「はい」


 配置図で場所を確認し、まずはここから近い東門の方に向かう。


「マスター、何か気になっているのですか?」

「うーん…うまく説明出来んけど、なんつーの? 突然聞こえる筈の無い声が聞こえるようになった、とか言ったら信じるか?」

「はい」


 え? そんなあっさり?

 俺なら、そいつの頭の心配をする方が先だと思うが…。


「言った俺がなんだが、少しは疑おうぜ…」

「マスターの言葉を疑う理由がありません」


 何でコイツと言い、エメラルド達と言い、俺に対して盲信的と言うか何と言うか…。嬉しい半面、息苦しさも感じるんだよなあ…。


「何か?」

「いや…なんでもね」

「そうですか。それで、何か聞こえたのですか?」

「……ああ。魔動兵が何か言ってるみたいなんだが、よー分からんくてな。もう少し何か聞けないかと思ってるんだが、中々気軽にお話ししてくれねーんだわ」

「なるほど。つまりマスターは、今度は魔動兵と拳で語り合う、と言う事ですね?」

「いや、なんでだよ!? どんな流れの果てにその答えに行きついた…」

「話の出来ない相手は拳で分からせる、と記憶(データベース)に」


 なんで微妙にそこだけ脳筋思考…?

 やっぱりパンドラのデータベースは変な方向に偏ってる気がする…と言うか絶対変だろ。やっぱり製作者に会ったら一発引っ叩かせて貰うしかねえな。


「違うのですか?」

「ちげーよ。大体、拳で語るったって、あんな鉄の塊とやりたくねーわ!」

「マスターなら出来るのでは?」

「出来る出来ねえじゃねえよ、やりたくねえって言ってんだよ!」


 手持ちのスキルをガン積みにしたって、鉄の塊との殴り合いなんて拳が砕ける未来しか見えない。


「では、どうするのですか?」

「どうするっても、魔動兵相手じゃなあ……下手な事して敵判定食らったら、騒ぎが起こって街から逃げださねえとだし。コッチから何かするわけにゃいかねえだろ」

「あくまで相手の反応待ち、と言う事ですか?」

「そーだな」


 消極的と思われるかもしれないが、まだこの街に来た本来の目的を何1つ果たせてないのだから、今の状況で外に叩きだされる訳にはいかない。魔動兵の事は気になると言えば気になっているが、優先度で言えばどう考えたってコッチが下だ。


「マスター、到着しました」


 っと、話してる間に着いちまった。

 門の前の通りに並んだ家屋に囲まれるように存在する小さな広場。そこに、鉄の兵士がズラリと並んでいた。15体の鎧が整列している様は、学校の朝礼を思い出して妙な懐かしさを覚える。

 さてと、コイツ等は話してくれると良いん―――…


 耳の奥で声が響いた。


『痛い、痛いよお!!』『もう嫌だ!』『助けて、誰か助けてっ!!』『苦しい…何でボクがこんな目に…!!』『辛い、もう耐えられない!!』『誰か―――』



『殺して』



「ッつ……!?」


 膝を突いて、口元を押さえる。

 頭の中に響き渡った声に、思わず胃の中の物を吐きそうになった。


「マスター!」


 慌ててパンドラが跪いて俺の体を支える。


「……いい、大丈夫だ……」


 俺を支える手を軽く握って離させる。


「ですが…」

「本当に大丈夫、ちょっと気分が悪くなっただけだ…」


 ……さっきの魔動兵の声だよな…? 今はもう聞こえない、けど…何だったんだ? 苦しむ声、恨む声、怒る声、そして……死を願う声。

 あんな声が聞こえるって……魔動兵って本当になんなんだ?

 地獄の底から響いて来るような言葉の波が、頭の中で寄せては返す。


「マスター、宿への帰還を進言します」

「………大丈……いや、やっぱ戻るわ…」


 少しだけ吐き気が治まって来たので立ち上がるが、心なしか足元がフラフラする…。いや、フラついてるのは俺の精神の方か。

 こんな状態でうろついても、俺だけじゃなくパンドラにも危険があるかもしれないし、情報収集しても頭に入って来そうもないし…。素直に宿に戻って、エメラルドが帰って来るまで休んで頭を冷やしておこう。


「はい。お連れします」



*  *  *



 パンドラに連れられて宿に戻ったが、イマイチ頭のスイッチが上手く切り替わらずベッドに寝転がってボンヤリする。

 俺がゴロゴロしている間にもパンドラはテキパキと働き、ギルドに出向いて依頼の報告をして報酬を受け取ってきたり、昼飯の用意をして来てくれたり、昨夜の晩飯の時に話に出た塩を確保してきたり……働き者過ぎて、こんなボンクラな俺に仕えさせていて良いんだろうか? と本気で考えてしまう。

 そんな俺の気持ちを察したのか、パタパタと飛んで来た白雪が慰めるように俺の周りをクルクルと回る。


 日が暮れて空気が冷たくなって来た頃、開けていた窓から音も無く赤い仮面が部屋に入って来た。


「主様、ただいま戻りました」

「おう、お帰りエメラルド」


 昨日見送った状態と同じく、パンドラと並んでベッドに腰掛けて迎え入れる。


「早速ですが、報告させて頂きます」

「ああ。で、どうだった? 侵入出来そうか?」

「私や白雪殿のような小ささなら、比較的侵入は容易です。ですが、主様やパンドラ殿の侵入は厳しい物になるかもしれません」


 ……予想はしてたけど、スッと行くって訳にはいかねえよなぁ。


「ですが…」


 おっと、続きがあった。


「主様1人であるならば、侵入は可能かと」

「おっ、マジで!?」

「はい。失礼ながら、主様の見かけは上層に運ばれている子供の中に紛れても、さほど目立つ物ではありませんので」


 …ああ、そう言う事。

 散々ガキに見られて来たけど、初めてロイド君の見た目が良い方向に役立つのか。喜んで良いのか、哀しめば良いのか…。

 でも、言う程簡単な話じゃねえな。子供に紛れるって事は、当然武器を持って行く事は出来ないから丸腰になる。それでも、一応戦えはするけどヴァーミリオンを手放したら俺の戦闘力は5割減だ。もしその状態で騒ぎが起こったら、昼間のパンドラとの話じゃないが素手で鉄の鎧の群れを相手にしなければならなくなる。

 ノーリスクでの侵入ってのはやっぱり無理か…。




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