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拝啓、他人様の体を借りていますが異世界で元気にやってます  作者: 川崎AG
四通目 永遠と終焉と始まりの街
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4-7 魔動兵

 明けて翌日。

 昨日はつい気弱になってパンドラに甘えてしまったが、一晩寝たらいい加減気持ちが切り替わった。………切り替わったは良いんだが、思い出すとすっげぇ恥ずかしい……。

 パンドラには何か礼をしたいところだが…何か欲しがるような事もねえし、休みとかやっても気にせず俺の世話は焼いてきそうなんだよなあ…。

 ………この件は保留で。どっかで返す機会があったら纏めて一括払いさせて貰おう。


「マスター、今日はどうしましょうか?」

「そうだな。エメラルドが帰って来るまでは動けねえし、ギルドで何か今日中に終わる依頼でも受けるか?」

「はい」


 いつも通りの無表情で頷く。

 昨日の件は全然気にしてないか。有り難いけど…、俺の方が気にし過ぎなのかな?


「それと並行して、もう少しこの街の情報が欲しい」

「上層の、ですか?」

「この街の根っこの部分を握ってるのは上層だから、まあ、そう言う事になるか?」

「かしこまりました」


 朝飯を軽く済ませて宿を後にする。

 一先ずギルドに向かい、昨日出来なかった魔石の換金さっさと終わらせて、張り出された依頼に目を通す。

 えーと、「薬草の採取」「優先討伐対象魔獣:スリーピーウッド」「素材回収:竜の角」「ミューゼルまでの護衛」「優先討伐対象魔物:アーマージャイアント」、手頃なのがねえなあ…諦めて情報収集に徹するか…? と、隅っこに張られていた羊皮紙に目が行く。


「魔動兵の見回り?」


 依頼内容は街中(下層のみ)に配置されている魔動兵がちゃんと機能するのか確認して回る。

 言うところの点検仕事か。でも、依頼料やっす!? ポーン級の魔石の換金額以下だぞ!? 子供の小遣いかよ…。

 そりゃあ、この値段じゃ誰も仕事受けねえだろ…。どーりで隅に追い遣られてると思った。

 でも、魔動兵か…。あれも結構謎なんだよなあ。

 昨日パンドラがそれとなく調べたようだが、鎧の中身は空っぽで、アレが動くとしたらどういった原理で動くのかが不明だって言ってたっけ。

 魔法の中にはゴーレムや魔獣を呼ぶ物もあるが、それは持続的に魔力を消耗するので長時間は使えない。永続的に出しっぱなしにしていられるのは、俺の【眷族召喚】のようなスキルによる物だけ。って事は、誰かがスキルで大量にあの鎧共を呼び出した……? いや、待て。ババルのオッサン達が300だか400居るって言ってただろ。そこまで大量に呼べるもんか? 自慢じゃないが、人外に片足突っ込んでる俺でも3匹しか呼べないんだぞ? じゃあ、複数人で分割して呼ぶ……いや、これもねえだろ。普通の人間がスキルを1つ得るのにどれだけ苦労するか考えれば、同じスキルを持った人間が揃うなんて現実的じゃない。

 とすれば…魔動兵は誰かが呼び出した存在じゃないって事になる。

 そして、最初の疑問だ。だとすれば、あの鎧はなんで動いてやがるんだって話……。正直、全然正体については検討もつかないけど……うーん…。

 最悪の展開として、この街で騒ぎを起こす事になれば魔動兵との戦闘は避けられない。先んじて弱点とまでは行かなくても、何かしら攻略の取っ掛かりになりそうな情報を得ておきたいとは思う。

 この依頼なら、大手を振って魔動兵に近付いて調べる事が出来るし、渡りに船とはこの事か。


「パンドラ、この依頼受けよう」

「はい」


 ボードから依頼の書かれた羊皮紙を取って受付で受注っと。で、詳しい説明を受ける。

 どうやら上層に居る領主からの依頼らしい。領主の癖に金の払いが悪いな…と心の中で思っていたら、それが顔に出ていたらしく、受付の姉ちゃんがちょっと嫌な顔をしていた。

 まあ、金の話は置いといて依頼の話。

 下層に配置されている魔動兵は全部で58体。うち30体はそれぞれの門の近くで纏めてあるので確認作業は不要。残りの街中に配置された28体が俺等の依頼の対象だ。

 特に難しい作業はなく、触れて動き出せば問題なし、と言う程度の事らしい。注意事項として、動きだした時に武器を抜いていたり、魔法を詠唱したりしていると敵対行動と見なして襲って来るとの事。そう言った対象が近くに居なければ元の待機状態に戻るので、それで確認作業は終わり。

 意外と簡単だな。もっとこう…電極刺して通電確認みたいな、ちょっと専門的な作業が来るかもと思ったんだが……色んな意味でそんなん来る訳ねぇ…。

 魔動兵の配置図を貸して貰い、早速出発。


「いやー、これで下層で騒ぎ起こしても平気だなー」


 配置図を頭の中に叩き込んで覚える。数式やら年号を覚えるのは苦手だが、この手の地図とか図柄を覚えるのは結構得意だ。


「マスター、1体目です」


 ギルドを出てすぐの所で1体目を発見。うん、地図の通りだな。

 説明された通りに、3m以上ある大木のような鎧の太腿辺りに触れる。すると、鎧の内部で関節部が軋むような音を立て、中身の無い筈の鎧が動きだす。


「おおー、本当に動いた! すげー!」

「鎧内部での魔術式の展開を確認」


 素直に動いた事に感心している俺の横で、様々なセンサーを使って魔動兵の情報を取るパンドラ。いやー頼りになるなあ本当、俺がアホやってても隣でちゃんと情報集めてくれるんだから大助かりだ。

 10秒ほどバケツみたいな兜が辺りを見回し、異常なしと判断して再び置物に戻る。


「術式の解析(デコード)に失敗」

「どうだった?」


 次の魔動兵に向かって歩きながら、1体目で取れた情報を聴く。


「鎧の内側で何かの魔法が展開されたようです。ですが、どういった用途の術式なのかは解析できませんでした」

「“魔動”兵ってだけあって、やっぱり魔法使って動かしてるのか」

「………」


 …? なんで、答えがないんだ?


「どうかしたのか?」

「いえ。魔法が発動されたのは間違いありませんが、誰が発動したのか(・・・・・・・・)と」


 誰が? 

 ………あ、まただ。あの自分でも良く分からない心の中に吹き込んでくる不安な感じ。


「それは、スクロール的な奴じゃね?」

「いえ、スクロールでも発動者は必要ですので、勝手に魔法が発動されるような事はありません」


 時限式…は的外れか。

 敵の反応を検知し、魔法が発動して鎧が動きだす。これが魔動兵の正解だとするなら、“敵を認識する”と“魔法を発動する”を出来る意識が必要になる。


 ………これってつまり、魔動兵は生きてるんじゃねえのか?


 いや、生きてるってのは言い過ぎだとしても、それに近いような存在。例えば―――、


「どうかなさいましたか?」


 そう、パンドラのようなロボなら? センサーで敵を発見し、AIで魔法発動をさせる事も出来るんじゃねえか?

 いや、違うな……これも多分的外れだ。パンドラが鎧の中は空だって言ってた。機械で制御するなら、それなりの機材が必要だし、そもそもそんな科学的な物がこの世界に有る訳ない―――再び横を歩くメイドを見る―――とは言い切れないか。

 でも、多分機械は関係ない……と思う、勘だけど。

 ここで初めて、俺は昨日の夜の宿に向かっていた時に聞こえた…ような気がするあの声が、魔動兵から聞こえてたんじゃないか、と思い至った。

 魔動兵に生き物のような意識があるのなら、それが俺に何か伝えようとしてたんじゃないのか? 何で俺、とも思うが、あの時隣に居たパンドラは声を聞いたような様子はなかった。つまり、俺にだけ聞こえたって事だ。

 この街に入ってから、妙にシックスセンス的な物が発揮されている気がするし、それで魔動兵の言葉を受信しちまったのかも。


「マスター、2体目です」


 頭の中で1人でグルグルしている間に次の着いたようだ。…って、あれ? ここって、昨日俺が声が聞こえた場所?


「どうかなさいましたか?」

「……いや、なんでもない。さっさとやっちまおう」

「はい」


 1体目と同じように触れると、同じように動きだす。

 どことなくロボット的な、プログラムに従っているような動きだが……。

 自分でもバカバカしいとは思ったが、どうしてもやらずには居られず、思い切って口を開く。


「お前、俺になんか言いたい事があるのか?」

「マスター?」


 横でパンドラが、俺を心配するように顔を見て来る。別に頭おかしくなった訳じゃねえよ。


『――――』


「…え…?」


 声が返って来た。

 そして、魔動兵が待機状態に戻って停止する。


「マスター、大丈夫ですか?」

「あ、ああ…大丈夫」


 なんだ今の?

 どう言う意味だ?

 頭の中で、魔動兵から聞こえて来た言葉が何度も何度も反響して飛び回っている。

 コイツ、今確かに言ったよな?




『タスケテ』




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