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おにいちゃん 2  作者: サシェ
9/14

内緒



 亘は付き合っていた男が女と付き合っていた事を知り、ショックを受けていた。

 愚痴と泣きごとを聞いているうち、夜が明けてしまった。

 翠に連絡もできず、亘が帰ってから仕事へ行った。




 寝不足のまま事務所へ行くと、養父の池内和男がいつものように掃除をしていた。


「おはようございます」

「あっ、おはよう、鷹也くん」


 にっこりといつも通りの笑顔だ。しかし、今日の笑顔はさらににこにこしている。


「何か、いい事あったんですか?」

「うん、まあね」


 和男はそう言うと、思い出したように目を見開いて、


「そうだ、お疲れ様。大変だったろう」


 とねぎらいの言葉をくれた。


「いえ、対象者はすぐに見つかったので、それほど大変じゃありませんでした」

「ああ、そう。それはよかった」


 和男はそれだけ言うと、再び、掃除に取り掛かった。


「あの、池内さん」

「ん?」


 翠の様子が聞きたくてたまらなかった。


「翠は元気ですか?」

「ああ、うん。そうなんだ、彼女ができたみたいでね」

「はあっ?」


 鷹也は、冷水を浴びたように体が冷たくなった。


「あ、あの、今、なんて言いました?」

「部活に入ってから、急に男らしくなってさ、どうしたんだって聞いてみたら、内緒って言うし、隠す所を見ると、部活と同時に彼女でもできたかなって思ってね。いやー、翠も男になったんだなって思うと、うれしくて」


 鷹也はショックのあまりぽかんと口を開けて、男らしい翠に喜ぶ父親を見ると、さらに追い打ちをかけられた気がした。


「ああ、そ、それは、よかった…ですね」


 最後の方の声は尻すぼみでほとんど聞こえなかったろう。鷹也は茫然として机についた。


 翠に彼女? 俺は? 俺の存在はどこに行った? 

 一週間いない間に、男らしくなった?


 わけが分からない。


 頭を抱えているうちに所長に呼び出され、報告書をまとめろと言われた。

 なんとか書類を書き終えたが、その日、一日、魂が抜けたような顔をしていた。


 昨日の亘、いや、それ以上の衝撃ではないだろうか。


 翠に会わなければ。真相を確かめなくてはいけない。


 翠の口から真実を聞かなければ、それは真実ではない、と自分に言い聞かせた。



 その日の午後は依頼者がやって来た。鷹也が報告をすると、老夫婦は娘が生きていることを喜び、どうして家を出たのかが知りたい。できれば話を聞いて来て欲しい、とさらに依頼をしてきた。


「早い方がいいな」


 所長がそう言って、鷹也はそのまま、出張が決まってしまった。


 翠の事が頭から離れない。しかし、仕事が優先だ。

 鷹也は断ることもできず、家に戻ってすぐに出張ることになった。


 だが、むしょうに翠の声が聞きたくてたまらなくなった。

 マンションの鍵をかける前に、鷹也はもう一度部屋に入ると、スマホを取り出した。


 無我夢中で電話をかける。学校とか時間とか考えている余裕はなかった。


 翠、頼むから出てくれ。


 鷹也は願った。なんだか、泣きそうになってくる。


 25歳にもなって情けない。相手は15歳。自分は何をしているのか。


 犯罪者という言葉がのしかかってくる。



 翠…。



 しかし、スマホは留守番電話に切り替わった。鷹也は肩を落として電話を切った。

 気持ち悪い、と思われているかもしれない。

 唾を呑みこもうとしたが、うまくできなかった。喉が引きつっている。


 翠の心が見えない。


 不安に押しつぶされそうになりながら、鷹也は駅へと向かった。

 もう一度、出張が決まったことは和男の方から翠に伝えてもらうよう頼んで、自分からは連絡をしなかった。 返事が来ないかもしれないと思うと、怖くてできなかった。





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