健全
キスぐらいじゃ済まない状況になりつつあることを、この少年は知らないのだ。
鷹也は理性を総動員させた。
「キスはしばらくやめよう」
「えっ? なんで?」
翠がショックを受けた顔をする。その顔がかわいいなあ、と思う自分が末期だと感じた。
積極的なのはうれしいが、翠の人生はこれからで、俺と付き合うことだけじゃないのは確かだ。
鷹也は冷静に自分を見つめなおした。
「翠が18歳になった時…」
「18歳までキスできないの?」
きわどい会話になっている。
鷹也はごくりと喉を鳴らした。
どうして、こんな話をしなくてはならないのか。
「ちょっと頭が痛くなってきた」
翠は心配そうに鷹也を見ていたが、息を吐いた。
「僕が困らせているんだね」
「いや、違う。そうじゃないんだ」
パジャマ姿でしょんぼりとされたら、抱きよせてキスしたくなるのは当然だった…が、鷹也はぐっと我慢をした。
「俺は、翠がすごく大事で、これからも大切にしたいと思っている」
「うん」
翠が真面目に頷く。
「人生はまだまだ長い。俺の言っている意味が分かっているな?」
「うん」
「その、だから少しずつ距離を保って、18歳になったら一緒に暮らそう」
「ん?」
翠が目をぱちくりさせた。
鷹也は自分でも何を言ったのか、唖然とした。
「何? どういうこと?」
翠の言葉に自分でも驚いたが、実は、数日前から考えていたことがあった。
翠のそばにいたら、いつ何が起きてもおかしくない。そうなる前に、一度、距離を置く。
つまり、自分が家を出て、しかるべき場所できちんと会うのがよいのではないかと思っていた。
「ずっと、考えていたんだけど、一度、家を出るよ」
口から出ると、なんとなくほっとした。
翠との関係を長く続けたかった鷹也は、それがベストではないかと思った。
見ると、翠は涙目になっている。
鷹也はハッとして翠を強く抱きよせた。ためらうように背中に腕を回され、ドキッとした。
「今のままじゃダメだ。外で恋人のように会おう。その方が健全だと思う」
「健全…」
自分の口から健全などと言う清らかな言葉が出るとは…。
鷹也は改めて、翠の存在が自分の人生を大きく占めていたことに気づいた。
このまま押し倒してしまいたいが、何度も言うが、彼は15歳。
体をそっと離して見つめ合う。
「分かった。鷹也がそう言うのなら、僕は言うことを聞くよ」
翠が優しく笑った。
何て、聞き分けのいい奴なんだ!
鷹也はしんみり思った。