節度
森本鷹也はベッドに腰かけて頭を抱えていた。
母が池本和夫と再婚をして、自分に義理の弟ができた。まだ高校一年生の義弟は15歳で、10歳年が離れている。
再婚相手の家に住まわせてもらって、狭いながらも部屋を与えられて、半年が経とうとしている。
すぐに家を出るつもりでいたのだが、信じられないことに義弟と恋人と呼べる関係になってしまった。
この部屋にいれば、いつでも翠が会いに来る。
お互いに『好き』という気持ちを解放して、何度もキスもした。今では、翠がかわいくて仕方ない。
鷹也は頭をかきまわした。
ダメだ。いけない。相手はまだ、15歳。しかも、再婚相手の息子。
鷹也は女性を好きになったことはなく、生粋のゲイである。
まさか、高校一年生に一目ぼれするとは夢にも思わず、高校生の弟ができることも面倒くさいと思っていた。
だのに、惚れてしまった。
かまって欲しい、愛されたいという甘えを見せながら、つたないキスで自分を振り向かせようと必死になってくる。
ああ、もう、考えれば考えるほど、犯罪者の気持ちになってきた。
鷹也は大きなため息をついた。
その時、コンコンとドアをノックする音がした。
どきっと、高校生の男子みたいに心臓が跳ね上がる。
「開いてるぞ」
そっけなく言うと、そろそろとドアが開いてパジャマ姿の翠が顔をのぞかせた。髪を急いで乾かしたのか、頬が赤い。
「入っていい?」
「おう」
何でもない風を装いながらも、翠の顔を直視できない。
翠はにこっと笑うと、部屋へ入って来た。当たり前のように隣に座る。ぴったりと寄り添われると、風呂上がりのいい匂いがした。
鷹也は息が止まりそうなほどドキドキしながらも、寄り添ってくる翠の肩を撫でた。
「宿題はしたのか?」
「終わった」
翠は目をキラキラさせて自分を見ている。
何を求めているのか知るのが怖い。
鷹也は、いつものように目を泳がせた。
「あー、翠、いつも言っているんだけどさ」
「分かってるよ」
翠は口を尖らせた。
「節度ある関係を保とうだっけ」
そんな言い方したかな、と思ったが、そうそう、と頷いた。
「俺は、25歳。お前は、まだ、15歳」
「その話は何度も聞いた。でも、キスぐらいはいいよね」
「あー…」
鷹也はくらくらした。