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おにいちゃん 2  作者: サシェ
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真相



 真相を聞けぬまま再び出張に出た。


 到着して鷹也が最初にしたのは、対象者の友人に連絡を取る事だった。依頼者には、対象者が生存していることを報告した。次は、万が一対象者が消えてしまってもいいという契約を得て、直接、会えるかという承諾を得る、というものだ。


 友人女性に連絡をとってもらい、事情を全て話し、一度面談してもらえるか交渉してもらうようお願いした。


 友人女性はすぐに連絡をくれた。

 どうやら彼女は、こちらの許可もなく話をつけていたらしい。

 対象者は鷹也に会ってもいい、とのことだった。

 まさか、尾行していたことがばれていたのだろうか。不安に思って聞いたが、そうではないらしかった。



 待ち合わせの喫茶店に、対象者は同伴者を連れて来ていた。例の一緒に暮らしているらしい男だった。

 彼も同席していいか、と問われ承諾する。年は鷹也よりずっと上で落ち着いた感じの男性ではあったが、表情は硬く少し緊張しているようでもあった。


 対象者に、依頼者の事を伝えると、彼女は静かに目を伏せた。


「両親に会うのはもう少し待ってもらってもいいですか。わがままを言っている事は分かっています。でも、会うのが怖いんです」


 無理もない。消息を断ってから数年が経ったのだ。心の準備が必要だろう。


「そのようにお伝えしましょう。もし、差し支えなければ、そちらの方のご紹介もしていただけますか」


 男はびくりと肩を揺らして、頭を深く下げた。


「申し訳ありません。私が彼女を追い詰めてしまったんです」


 男は申し訳ないと繰り返し、自分は今、離婚調停中で、妻とは別居しており対象者が家を出てからずっと二人で暮らしている。子供もいるが妻が引き取り、養育費も払っていく予定である、と言った。


 鷹也はため息をついた。事情がいろいろあるらしい。


「よく分かりました。会うのが無理なら声を聞くだけでもいいのではないでしょうか。ご両親の電話番号をお伝えしますので、よければご連絡してあげて下さい。お二人とも高齢に近い年齢になられておりますし、生きている事が分かっただけでもお二人はとても喜ばれていましたよ」

「はい…」


 対象者は涙ぐみ、男がそっと肩を撫でてやっていた。

 仕事がすんなり進み、再び東京へ戻ったが、すぐには翠に連絡を取ることはできなかった。


 翠からも連絡がない。


 携帯電話を見るたびに、怖気づいている自分がいた。仕事が忙しいと理由をつけて、LINEも電話もしなかった。

 自然消滅、という言葉が頭にあったが、翠とは血は繋がっていないが、兄弟なのだ。

 鷹也は後悔していた。翠に会わなければよかったとすら思い始めていた。


 出張先から戻って一週間が過ぎた頃、夜、お風呂から出るとLINEが入っていた。

 亘からは毎日のように連絡があったので、てっきり亘だと思って見ると、翠からだった。


 ぎくりとして携帯電話を取り落とす。息ができないほど緊張した。


 開くのが怖くて、削除してしまおうかと思った。探偵業をしているのに、真実を聞くのが怖いなんて。

 鷹也は暫く携帯を眺めていたが、まずは体を拭いて服を着るまでは携帯電話に触らなかった。


 一時間ほど放置してから、ようやく手に取った。


 息をついて、目をぎゅっと閉じる。

 覚悟を決めてLINEを開いた。


 電話してもいい? と、だけ書いてある。鷹也は顔を歪めた。


 声を聞く勇気がない。

 翠からの連絡なのに、怖くてたまらない。

 他の用事で気を紛らそうと立ち上がると、突然、携帯電話が鳴りだした。

 翠からだった。


 取るか取るまいかと悩んだ。

 取らなければならないことは分かっていた。

 勇気を出して着信を押すと、鷹也? と翠の声がした。


「おう、どうした?」


 鷹也は精いっぱい声を上げた。一瞬、翠の声が黙り込む。


『今、お話してもいいですか?』


 突然、敬語になってびっくりする、と同時に猛烈に腹が立った。


「おう、手短かに頼むな、急いでるんだよ」


 ぶっきらぼうに言ってしまうと、翠が息を呑んだのが分かった。


『ごめん、かけ直そうか』

「いいから、早くしろよ」


 口から思ってもいない言葉が出てくる。優しくしてやれよ、と思うのに、自分の理性が黙っていない。


『ずっと、連絡なくて、大丈夫なのかなって思ってたんだけど…』

「部活始めたんだろ?」


 話しを変えると、翠が一瞬、黙った。


『……うん』

「柔道部? なんで、いきなり始めたんだ?」

『友達が誘ってくれたんだ』

「そうか」

『うん…』


 言葉が続かない。鷹也は電話を切ってしまいたい衝動に駆られた。


「あー、それでなんか用?」

『用がないと、電話しちゃいけないの?』


 翠が声を荒げる。


『声が聞きたかったのに、鷹也は何も言ってくれないじゃないか』


 本心だろうか。疑心暗鬼にとらわれて、翠の言葉を信じることができない。


 鷹也は、落ち着こうと息をついた。


「ごめん、ごめん、最近、忙しくてさ。ああ、そうだ、日曜日こっちにいるからどこか行くか?」

『えっ、いいの?』


 すぐさま、翠が弾んだ声で言った。


「ああ」


 翠がうれしそうだと、現金だがこちらもうれしくなってくる。


『日曜日、部活は休みだから行けるよ。どこで待ち合わせようか』


 待ち合わせ。


 そうだ。自分から外で恋人らしく会おうと言ったのだった。

 鷹也は自分の額を押さえた。

 翠を振り回しているのは自分だ。情けなさに頭を抱えたくなる。


『鷹也? どうしたの? 大丈夫?』


 翠が心配そうな声がする。


 鷹也は、家まで迎えに行くよと時間を決めてから、電話を切った。


 翠がいないとダメなのは自分だった。


 それが身に沁みて分かった。






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