プロローグ
僕は、ずるい。
池内翠は、お風呂場で自分の顔を鏡で見ながら、そう思った。
鷹也が来てから数カ月。ずっと、独り占めしている。
父と玲子さんには、仲の良いきょうだいのように見せかけて、実は、こっそりとキスしたり抱きあったりした。でも、それ以上の進展は何もない。
鏡に映る生白い顔を見ていると、泣きそうになってくる。
鷹也とずっといたい。
ずっとずっと、そばに居たいのに。もしも、この関係が親に知られたら。もし、鷹也が僕に飽きたら。
いろんな、もしもを考えていると、やるせない気持ちでいっぱいになってくる。
鷹也は、翠が未成年であることにこだわっていて、一線を越えることだけは絶対にしなかった。
翠は湯船に浸かると、ぶくぶくと頭まで沈んだ。
高校一年生、自分は子どもだ。体つきも他の男子生徒よりも細いし、身長もまだ伸び盛りだ。顔も幼い上に、頭の中身まで幼いことを翠は気にしていた。
湯船から顔を出して、大きく息を吸い込む。それから顔を覆った。
どうしたら、鷹也はもっと自分を好きになってくれるだろう。
どうして、自分は鷹也が好きなんだろう。
ふと、考える。
今まで男の人を好きだと思ったことは一度もない。けれど、女子を好きになったこともなかった。
一人になると、頭の中は鷹也のことでいっぱいになってしまう。
翠は大きく息を吐きだすと、浴槽から出た。鷹也が部屋にいたらいいな、と思いつつ、脱衣所にあるタオルを手に取った。
会いたい一心で、急いでパジャマに着替えた。