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2-3

『!』


 三人が絶句したのを見て、鬼柳も嫌そうに後ろ頭を掻く。


「そーゆー事だ。どーするよ」

「……お前探偵でもやってんのかよ」


 遠麻一人だけでも驚きだったというのに、満の素性まで。しかも満に関しては名前も何も判っていなかったはずだ。にも拘らず一日足らずで調べ上げ、しかも拘束したという。


「もう悪ふざけじゃ済まねーぞ。犯罪だ」

「警察か? 無駄だ。動かねェ。俺の悪ふざけは見逃されんだよ」

「何……?」

「俺は『鬼柳』だ。養子だがな。十八番目の。だが順番は関係ねェ。鬼柳の中じゃ俺は特別だ。判るだろ?」


 力が優遇されるのだと、ニィと笑ってそう言われた。


「鬼柳……って、『鬼柳』――!?」


 幾つもの業種でトップレベルの業績を誇る大会社を傘下に持つ、鬼柳グループの名前は何となく生活しているだけでも耳に入って来る。

 古くから政界・財界にも深い繋がりを持つというが――


「……いや、ないだろ。お前はないだろ。もう一人ならとにかく」

「御影か? まァそーだな。あいつァ俺を鬼柳の上に据えた上で、テメーもその側に居座ろうっつーつもりだからな」


 くく、と楽しそうに鬼柳は笑う。――前言撤回だ。


「見た目程にゃ馬鹿じゃねえってか?」

「そうでもねぇよ。ま、今のが嘘かどうかどうかはテメーで警察駆け込みゃ判る。納得したらここに来い。テメー一人でだ」


 白姫と黒君を睨んで牽制すると、遠麻に住所の書かれたメモを手渡す。


「……」

「心配すんな。別に危害加えようってんじゃねえよ。ただちッと力貸せっつってるだけだ」

「何でんな力なんか欲しいんだ。お前十分強ェだろうが」


 既に常人では問題にならない程の力を鬼柳は持っている。ここから多少力を加えた所で、危険度は何も変わるまい。だからこそ不思議だった。


「呪いは解けない。何をしてもだ」

「呪……そういやそんな事言ってたっけか」


 それが目的なのかと鬼柳を見ると、少しばかり迷う間があって。


「あー……」


 がしがしと頭を掻き、音でしかない呻き声を出す。


「呪いって何だ?」

「まァテメーにゃ言っといた方がやりやすいだろうな。それも含めてここに来たら話してやる。あァ、あんま時間かけんなよ。俺ァ気ィ長くねえんだ。トロトロしてっと女がどうなるか保証しねーぞ。じゃあな」

「あ、おいっ!」


 遠麻の呼び掛けにはもう答えずに、鬼柳はそのまま去って行った。


「どうする」

「ああ……まあ、行こうと思う。放っとけねーだろ」


 このまま満を放置するのは寝覚めが悪い。まさかとは思うが保証しない、とも言っていたし。それに――


「正直あんま無茶する感じしねえしな。いや、誘拐は十分無茶だが……」


 大人しく言う事を聞いていた方が良い気がするのだ。協力は多分出来ないが。


「話せば判るだろ。……多分」

「……そうかな」

「そうは思えないが」


 渋い表情の白姫と黒君に苦笑いをする。遠麻も大丈夫だなどと確信を持っては言えないが。


「あいつの言ってる呪いって何なんだ? つーかあるのか呪いって」

「どんな呪いかは判らない。掛けた者が決める事だから」


 そう前置きした黒君を引き継ぎ白姫が答える。


「鬼や人狼といった異種の力を取り込み、力を得ようとする時代があったのだ。特に女を捕えて自らの子を孕ませる事が多かった。思い通りにさせてなるかと、多くの子供は呪いと共に産み落とされた。今尚生きている血筋があったとは驚きだが」

「……そうか」


 まるでお伽噺のような話だが、実際呪いを受け困っているらしい人間を見てしまうと、そうかとしか言えない。


「でも解けないんだろ?」

「解けん。血と肉に刻まれた呪いはもうその者の一部。無理に解けば肉の崩壊に繋がる」


 律がそう言うのだから間違いはないのだ。しかし鬼柳がそれに納得するかどうか。


(してもらうしかねえんだけどよ)





「いい加減離せコラ陰険眼鏡! 痴漢! 変態! 覚えてなさいよ!」

「おーおーまだまだ元気じゃねえか。よっく疲れねえなァ。ま、それぐらい元気でいてくれた方がこっちとしても気楽でありがてえけどよ」

「――鬼柳」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ満に、戻って来た鬼柳が感心した様な呆れた様な声を上げ、空いている椅子にどっかと座った。

 ここは鬼柳の別邸のうちの一つだった。手入れだけはされているものの、実際に使われる事は殆どない。そういう無駄な別荘が鬼柳には幾つもある。


「ちゃんとやって来たんだろうな」

「あァ、多分一人で来んじゃねーの。じゃなくても俺が潰してやるよ」


 パンッ、と手の平と拳を打ち合わせ、楽しそうに笑う鬼柳に御影は舌打ちをする。満の前で言う気はないが、彼女を縛るのに使っている鎖を具現化させ続けているせいで、御影には呪力にそう余裕はない。


「判ってるんだろうな。お前の呪力が尽きたら」

「あァ、その辺も問題ねェだろ。甘ェしあいつ等」

「そういう事を言ってるんじゃない! ……大体人としてどうでも男としてどうかとかはまた別だろう」

「テメーみてえに人として駄目でも男として甘ェのもいるけどな」


 言いながら満へと目を移す。手首と足首を戒める鎖には、布を噛ませて直接肌を傷付けないようにされていた。座らされているのも部屋の調度品として申し分ないソファで、体もそう痛くはないだろう。


「女の体に傷残す訳にいかないだろ」

「テメーはよォ……」


 頭痛を押えるように頭に手を当てる。何を言ってもどうにもなりはしないし、実際問題御影のそれで何か不都合が起きた訳でもない。


「それで、お前の肩は」

「何ともねェ、心配すんな。傷跡もねーよ。お前の大切なお姫さんもなァ」

「黙れ」


 ニヤニヤと質の良くない笑みを浮かべる鬼柳に、御影は顔をしかめて不快そうに一言で切った。それでも服をずらして昨日黒君に裂かれた部分を見せ、そこに何の痕も残っていないのを見せると、御影はほっとしたように頷いた。

 深手と言っていい傷がここまで早く綺麗に治癒されるのも、鬼の血筋故である。


「……あんた達一体何が目的よ」

「まーまーそう焦りなさんな。白祈が来たら一緒に説明してやらァ」


 面倒くせえし、とか真剣味のない台詞を返して来た鬼柳に満の方が顔を強張らせた。


「白祈くん!? 何で!?」

「何でも何も、元から用があんなァ白祈だ」

「だから、何で!?」


 遠麻の力は凄かった。それは満も判っている。知ったばかりでまだ使い方を知らないから何も出来ないが、遠麻には全ての属性を使えるだろう才がある。時代を代表する様な使い手になるだろう。律が選んだのだから当然だ。

 だが間違いなく、鬼柳も十分強いのだ。


「……まさか最強になりたいとか言っちゃう?」

「最強、最強ねェ。ハハッ、そりゃあいい。狙ってみっか、世界最強」


 まんざら悪くもなさそうにそう言ったが、つまり目的はそうではないという事だ。


「鬼柳」

「判ってるっつの。んじゃ俺ァ白祈が来るまでちっと休むかな」

「そうしろ」


 一人で来いとは言ったが、白姫と黒君が本当に付いてこないかどうか判らない。

 鬼柳達から見れば犬や猫になる能力者、という捉え方だ。他のものになれないとは限らないと思って当然だし、実際彼等は何にでもなれるので、そこの警戒は間違っていない。

 そして他の小さい生物に化けられた場合、自分達にはまず判らないだろうという事を判っている。


(だがまァ、再戦ってのも悪くねェ)


 子供の頃から血の気も多く手も早かった鬼柳は、喧嘩する事も多かった。しかし喧嘩らしい喧嘩になった事は一度も無い。当然だが。


(イイ感覚だったなありゃあ)


 だからこそ正直少し――楽しかったのだ、鬼柳は。

 そう言えばと満に目を向ける。彼女も悪くなかった。


「何よ」


 きっと見上げてくる瞳に恐れはない。これが良いのだ。


「有谷」

「……だから何よ」

「これ終わったら仕切り直して戦り合わねーか」

「言われなくてもボッコボコだから」


 噛み付かんばかりに歯を剥いてそう言うと、鬼柳は軽快に笑って立ち上がる。言った通り休むつもりだった――が。


『!?』


 その場の全員が、ぞっと背中に走る本能の悪寒に身を震わせ辺りを見回す。周囲の空気が一段濃くなった気がして、呼吸が苦しい。


「んだ、これァ……っ!?」


 鬼柳達にとっては初めての体験。この場でこれを正確に理解したのは満だけだ。


「膨張現象! 龍気の! これ外しなさいよっ! 来るッ!!」

「来るって何がだッ!」

「あんた達何も知らないで邪魔してきたの!?」

「いいから答えろ、これは何だ」

「あくっ」


 つかつかと足早に歩み寄り、容赦なく満の襟を掴んで吊ると、御影は苛立たしげに問う。息苦しさに顔をしかめながらはっきりと。


「だから力が溢れてるの! それが少量だと近くのものに取り憑くだけだけど、それがでっかい塊になると」


 ごがらっ!


「……ああなるってか?」

「そうよ」


 壁を破壊し入って来たのは、頼りなく流動する、様々な物の形を取った龍気そのものだった。大きさもそうだが、何よりも数が多い。

 形は人から始まり犬や猫、鳥、果ては無機物の壁らしき物や電柱らしき物にまで移り変わる。


「何だあれは。笑いを誘ってるのか? 笑えばいいのか?」


 とりあえず相手は満ではなくなって手を離すと、御影は弓に矢を番えた。言葉はともかく態度はふざけていない。


「な訳ないでしょ! 形を固定する時に一番近くにいた、あった物の形を取るの! そんな事よりこれ解いて!」

「……どうするんだ」

「解いて」


 事態がまずい事は御影にも判るが、満を開放するのに少しばかり躊躇する。しかしそれもほんの数秒。自分の体調と初遭遇の事態とを相談し、鎖の縛めを解く。


「よしっ」


 解放され、同じ体勢で凝ってしまった体をコキコキと軽くほぐして――


「ハッ!」


 そして力を込めて、一番手近に迫って来ていた龍気の塊を拳で粉砕。


「力で散らす!」


 言って力強くガッツポーズ。


「オイオイオイっ! そんだけかよッ!? んなモン俺でも出来らァッ!」


 期待した分がっくりきたが、満の言葉に従い鬼柳と御影も呪力を込めて龍気を散らす。


「……中々強かじゃないか」


 舌打ちをして睨んだ御影に満はにっと笑って見せた。解放さえされてしまえば何とでもする、というかとにかく何かは出来る。


「しかし散らしてどうにかなるのか? 結局また集まって形を取るだろう」

「そうだけど時間は稼げるよ」


 遠麻が見付かる前ならこの形のまま押えこむのが質量的にベストだっただろうが――


「白祈くん呼んでるんでしょ」

「おお、そーか! んじゃこれ全部俺の力に出来るって訳だな!」

「それはさせないけど!」

「お前等ちゃんと手を動かせ。白祈が来る前に殲滅するぞ。あいつに倒れられたら困る」

『おう!』

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