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2-2

「……もしや目的はそれを取り戻す事か? だとしたら無駄だ。君のそれは血と体に刻まれた呪い。それが解ける事は絶対に無い」

「黙りやがれっ!!」


 激高し、そのままの勢いで黒君に足を振り上げるが、その手前で風の壁に阻まれ敵わない。


「やっ!」


 更に横合いから満に攻められ、黒君から注意がそれた。自由になった黒君が満の援護に回る。


風掟(ふうてい)裂呪(れつじゅ)


 その場で腕を振るった軌跡の先で、鬼柳の肩が刃物で切られたような鋭利な傷口をぱくりと開く。


「ぐっ!」

(とど)めっ!」


 傷口を押え、よろけて後退した鬼柳に満が渾身の力を込め拳を振り上げ――


 ぞず、と布を貫通する音がして袖の部分を矢が突き刺し、側の木に縫い付けられた。勢いも力もある拳はそれだけでは止まらなかったが、確実に勢いは殺された。素早く体勢を立て直し、鬼柳は満の腹に蹴りを入れて飛び退いた。


「おい御影(みかげ)! 女だからって半端な真似してんじゃねーよ! 足ぐらいやっとけ!」

「俺はお前と違って犯罪者になる気はないんだ。本格的に裁判沙汰になるような真似はしたくない」

「!」


 鬼柳の声に応えた男の声にはっとして、遠麻はそちらを振り向く。満も一瞬そちらに目をやったがすぐに鬼柳へと戻した。

 黒君の方が新たに現れた男を見ていたからだ。黒君は万能だが、満は接近戦しかできない。特性からして、分担はそうなる。


「ハッ! んな下らねー事気にしてんじゃねーよ!」

「……お前、もう黙れ。馬鹿だから」


 弓を持った男は鬼柳とは反対のタイプだ。細い黒髪と、背は高いものの全体的に体は薄い印象で、荒事よりも知略の方を得意とする黒幕タイプ、に、見える。あくまでも印象だが。眼鏡の奥の怜悧な瞳は鬼柳始めその場の全員を見下している感があった。


「物は手に入ったんだろ。さっさと退くぞ。こんな奴等相手に無駄な力を使うな。馬鹿だろお前」

「逃がすと思ってるのか?」


 正面に立ってそう言った黒君に御影は平然と薄く笑みを浮かべて。


「逃げるさ。どうやらそっちはお前とその女以外戦闘向きじゃないみたいだからな」


 言うなりぱん、と御影は胸の前で手を合わせ。


「地に宿りし精霊タイタンよ。我が呼び掛けに応えよ」

「うぉうらァっ! いっくぜ――ッ!!」


 たんっ、と御影が地面に手を着いたのと鬼柳が地面を拳で叩いたのは全く同時。そして。


 がごっ!


「うわっ!」

「きゃわっ!」


 鬼柳と御影の立つ位置を端と端の頂点にして円が描かれ、その内側の地面が激しく揺れ、隆起する。


「ハハっ! じゃーな!」

「貴様っ! 覚えていろっ!」

「馬鹿危ねえっ」


 軽快に笑って去って行く鬼柳を怒鳴り、自分の身を疎かにした白姫を抱えて遠麻は身を伏せた。揺れは数分続いて、その間はとても追うとか何とか行動が起こせるような状態ではなかった。

 収まった後には流石にもう追い付けないだろうと、諦める。


「黒君、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。有難う」


 一番手傷を負ったはずの黒君の元へ行ってそう問いかけると、いつものように穏やかに微笑んでそう返された。やせ我慢とかそういう感じは一切ない。


「でも凄い音してたよ? 本当に大丈夫?」


 遠麻と同じ感想を持ったのだろう、満はそんなはずはないだろうと不審そうに見て、目で触れていいかを確認を取る。

 黒君か頷いて許可を得て、そうと服の上から触れてみて。


「……何ともない……?」

「ああ、何ともないよ。少し散らされたけど、もう構成し直したから」

「我等は『力』だと言っているだろうが!」


 憤然と遠麻を見上げて白姫は腰に手を当て言い放つ。


「何があろうとお前が我等を庇う必要はない! 我等がお前を守るために在るのだ! お前はただ力を回収し、世の正常の流れに戻す事だけを考えていろ!」

「……な」

「しかし具現化した札を盗られてしまうとは不覚だった」


 庇ったはずの相手から怒鳴られ唖然とした遠麻を余所に、白姫は悔しそうに呟いた。


「まあ、仕方ない。そう大きな力でもないしあれは諦めよう」

「諦めるの!?」


 あっさりそう言った黒君に声を上げたのは満だった。遠麻も同感だったが出遅れた。


「いいのか?」

「問題なのは力が具現化して暴走する事だから。彼に龍気は使えないし、持っていて侵食される事もないだろう」

「そ、そうなのか」


 何という事もなさそうにそう言われた。札に封じられた龍気はただ在るだけのものだ。適性のある和泉や遠麻ならとにかく、鬼柳や御影には意味のない物。


「勿論次に(まみ)えた時には、制裁を加えた後に取り返してやるがなっ!」

「俺は会いたくないな」


 息の荒い白姫には悪いが、遠麻としては人生単位で関わり合いになりたくないタイプだった。両方とも。


(テメーにゃ使えねえと思って、二度とちょっかい掛けて来なけりゃいいんだが)





「よォ、白祈」

「……」


 翌日放課後。校門に待ち構えて声を掛けて来た鬼柳に、遠麻は顔を覆って息を付いた。


「俺、名乗ったか?」

「面倒くせー事する時ゃ制服着てちゃいけねーよ」


 別に面倒くさい事になるとは思っていなかったのだ。しかし一つ学ばせて貰った。肝に銘じておこう。


「だからって翌日に来るか? つーか調べて来れるか?」


 自分で言った通り自らの身を明かすつもりはないようで、鬼柳は私服だった。シャツとジーンズ、それと彼が身に付けるには少々意外な、かっちりとしたデザインのロングコート。


「……似合わねえ……」

「黙れ」


 自分でもそう思っているのか、露骨に不快そうに低い声でそう言った。判っているのなら着なければいいだろうにと思うが、言っても機嫌を降下させるだけで面倒臭いので指摘はしない事にする。


「で、何だよ」

「テメーにこいつの使い方を聞こうと思ってな。これをやったのはテメェだし、煩ェのがいない方が話が早くていい」

「煩いの、とは我等の事か?」


 人の悪い、楽しそうな少女の声が後ろからして鬼柳は慌てて振り返った。自分が何も気付かず後ろを取られたのが信じられないと表情に出ている。

 しかし振り向いた先には退屈そうに耳の後ろを掻く白い犬が一匹だけ。覚えのある少女の姿はどこにもない。


「生憎だが、俺達は常に遠麻と共に在る。無駄だよ」


 今度は頭上から黒君の声。振り仰げば塀に座って自分を見つめる黒猫がいる。

 普通ならばその結論にもう少しためらいを持つ所だが、勿論彼はその手の常識に関して普通ではないので。


「黒、か?」

「そう。人の目に触れるので普段はこちらで過ごしている」

「んじゃこっちの犬があのガキか」

「ふん」


 面白くもなさそうに鼻で笑い、さっと足元に意識避けの陣を発動させると白姫は人の形を取った。


「へぇ。テメー等も何かの血を引いてんのか?」

「まあ、そんなものだ」


 鬼柳に対する警戒からか面倒くさかったからか、白姫は自らの存在の説明はせずに誤魔化した。


「そうかい。ま、んな事ァどうでもいい。――白祈」

「……何だ」

「うんともすんとも言わねェこいつはどうすりゃ使える」


 元々白姫や黒君の出自には興味がないのかあっさり流して話を戻す。


「使えねーよ。それ龍気の具現化だからな。属性が違うと使えないんだと」

「昨日も言った通り、それは君には用のない物だ。返してくれないか」


 そう言った遠麻と黒君に、ふんと鬼柳は鼻で笑う。


「下らねェ誤魔化し止めようぜ。確かに俺ァこのままじゃ使えねえ。だが白祈、テメェならこれを俺が使えるように出来んだろ?」

『っ!』


 ニヤと笑って言った鬼柳に、白姫と黒君は素直に顔を強張らせる。


「当たりか」


 満足げな次の一言でカマを掛けられたと知るがもう遅い。白姫や黒君は正直なのだ。駆け引きにはとにかく弱い。


「俺がそれをしてやる理由はないよな」

「それとも昨日のように力尽くで来るか? 貴様一人で」

「君の力は判っている。俺が二度膝を着く事はないよ」


 鬼柳ならば強引な手でも来るだろうと、黒君も人の形へと変幻して遠麻を庇う位置に立つ。しかし。


「あー、ちょい待て。俺も本当はそっちの方が好みなんだけどよ、形振り構ってらんねートコもあんだ。だから、こんなのはどーだ」

「……?」

「有谷満は預かった。無事に返して欲しけりゃ協力しろ」

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