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1-4

「ほう。我等が判るか。本当に誰も何も知らないかと諦めていたが、安心したぞ」

「古い文献でしか残っておりませんが、多少は。――貴方がたが現れたという事は、大きな崩れが起きようとしているという事ですな……」

「そうだ」


 座り直し、厳しい表情でそう言った老紳士に、白姫は同じく真剣な表情で頷く。


「今回俺達は彼を協力者に決めた。しかし彼にはまだ技術がない。彼に力の使い方を教えてくれないか」

「――ってかちょっと待て!」


 本人を無視して話を進めようとする黒君に遠麻は抗議の声を上げて制止を掛けた。


「何で俺に拘るんだよ!? ここにはそーゆー奴等が集まってんだろ!? そっちから探せばいいだろうが!」

「だがここにもお前に勝る力の持ち主はいないぞ」

「!?」


 きっぱりと言い切った白姫に遠麻と満は息を飲む。


「いや、でも」


 『部長』とか『先生』とか、そう呼ばれて日本を代表するような、自分より余程適任そうな人材がいるというのに。

 部長は年齢的に厳しいかもしれないが、先生の方はまだまだいけるだろう。


「そ――そんなにスゴいいんですか?」

「ああ。感じる呪力は今まで私が感じた事がない程に強い。人の枠から外れている様にすら感じる」


 感じ取れない満には実感などできようはずもなく、訊ねた部長にそうはっきり頷かれてまじまじと遠麻を見つめた。しかし。


「それは言い過ぎだな。確かに優秀ではあるが、いつの時代も十数人はいたレベルだ。――全体的に弱体化したのにどうやら間違いはないようだ」


 それでもいつの時代にも十数人しかいないレベルで優秀らしい。


「恥ずかしながらその通りです。もうお判りかもしれませんが、最早公的に霊的なものが信じられる時代は終わってしまった。私達もこうして素性を偽り活動しています」


 本物がなくなった訳ではない。しかしそれを視る、感じる力を持つ人間が減り、また科学の発達により手軽に強力な力を得る事が出来るようになり、更に衰退を加速させた。


「白祈君と言ったか」

「……はい」

「私は部長の近衛(このえ)乾二郎(かんじろう)。こっちが主任の瀬川(せがわ)和泉(いずみ)だ。――瀬川」

「はい」

「彼を頼む」

「私……で、宜しいのですか?」


 言われる内容ぐらい予想はついていただろう。しかし和泉は戸惑ったように近衛にそう聞き返した。


「何故かね。君は優秀だ」

「律が望んだ執行者です。私のような若輩よりも、相応しい人がいるのではないでしょうか」

「ならば丁度いい。君も成長しなさい」

「……承知しました」


 意志を曲げようとしない近衛に、それ以上は逆らう事なく和泉も折れた。それから改めて遠麻に向き直る。


「瀬川和泉です。龍脈に属し五行は水。宜しくお願いします」

「ちょ――。ちょっと待ってくれ。ってか俺は協力するとか言ってねえから。ここに来たのだってむしろこいつら押し付けるためだから。……っても話を聞く限り無理そうだけどな……」


 本当かどうか判らないが、白姫にしても黒君にしても嘘を付けるようにはあまり見えないので、おそらく本当に、自分の力は強い――のだろう。自分では判らないが。


「……何故です?」


 さも予想外の事を聞いたとばかりに和泉はきょとんとして不思議そうに訊き返す。


「遠麻は何も知らないからだ。我等が現れた意味も、選ばれた重要性もな」

「そう……そうですね。君のような力の持ち主が今まで誰にも見付からなかったのは驚きだけれど、普通に暮らしているなら知っている訳がありませんね」


 白姫の言葉に和泉は思い出したかのように納得して頷いた。


「ではまず、その辺りから話しましょう。彼等の視点から話を聞くよりは、多少理解しやすく話せると思います」

「……ああ」


 どうやら聞かずに帰るのも無理そうだし、何より和泉の脅すような言い方に自分の嫌な予感も相まって、巻き込まれつつあると思いながらも遠麻は仕方なく頷いた。


「では部長、失礼します」

「ああ」

「失礼しまーす」


 どうにも礼を欠いた感のある満が最後に退出した後、扉を閉めた廊下で和泉にぴっと手を上げて。


「それじゃあ先生、あたし後片付け確認して来ます」

「ええ、お願いします。多分今回から違う形の処置になると思うけれど……とりあえずは同じでいいでしょう」

「はい。じゃあね白祈くん、また後で!」


 元気良く手を掴まれ上下に振られ、遠麻が何をする間もなく満は去っていった。……激しい子だ。


「聞いたかもしれませんが、彼女は有谷満。属性は気功。君と歳も近いようだし、当面は彼女と私で君のバックアップをする事にします」


(だから何もやるとか言ってねえんだけど……)


「あの、俺」

「君が乗り気でないのは先程聞いたから判っています――が、とりあえず私の話を聞いてからにして下さい」

「行こう、遠麻」

「あぁ――……って、何だ遠麻って」


 ナチュラルに頷きかけて、慌てて遠麻は黒君に待ったを掛けた。嫌という程ではないが、あまり親しくなる気もないので、些細な事から注意をする。

 そうしないと流されていくような気が凄くする。


 しかし、遠麻のささやかな抵抗に黒君はさも不思議そうに首を傾げて。


「遠麻が君という個の名前だろう? 白祈は血筋の名前だ。それなら俺は君を個で呼びたい」

「……お前……何か……」


 ふわりと微笑んでそういう黒君ははっきり言って『綺麗』だ。人間ではないせいか無機質な感があって男の造形をしていても部類として『綺麗』に入る。

 ……だからこそ、何だか寒気がするのだが。


「心配しなくても彼に他意はありませんよ。正確には『彼』ですらない。『彼』のそれはただの形ですから」

「この形はおかしいだろうか」

「いいえ、とても美しいですよ。ねえ、白祈君」

「……ああ」


 それに違いはない。遠麻の肯定に黒君はほっとした。


「彼等にとって貴方は特別なのです。それも含めてお話しましょう。まずは――そうですね、『力』について説明しましょうか」


 どこかに向かう足を進めながら、和泉の話は始まった。その声に耳を傾けながら、仕方なしに遠麻も黙ってついて行く。


「一口に『力』と一括りにしても、この世界には様々な形があります。例えば私のように龍脈――これは大地から流れる自然のエネルギーの事ですが、そこから力を得る者や、満のように己の身体エネルギーや周囲の生命エネルギーを取り込み力とする者もいます。後は図形や言葉で力を作り出す魔術師や、血脈に力を宿した獣人などもいますね」


 すらすらとそう説明させた内容をふうん、という気分で遠麻は聞いた。

 それがどれ程の違いを持つのかとか、違っていようが同じじゃないのかとかも思ったりはしたが、あえて和泉に質問を投げかけるほど興味が湧いた訳ではなかったので、聞き流す。それならばと思ったのは、せいぜい自分の事についてだ。


「俺はどこに入るんだ?」

「お前は創造の力である神力だ。実際には力を使っての疑似とはいえ、全てを生み出すそれを許されたのだ。お前は相当に世界に愛されている。誇るが良い」


 遠麻の疑問に答えたのは和泉ではなく白姫だった。どことなく誇らしげに見える。何故か。


(誇るが良い、っつわれても)


 残念ながら誇れるだけの自覚のある力がない。無理な話だ。


「では次に彼等――『律』の事をお話しましょう」


 そこで目的の部屋に着いたらしく、足を止めて和泉は扉を開く。

 中は素っ気ない作りの会議室で、今は空だ。続いて中に入った遠麻に椅子が進められて、促された席に着く。遠麻を挟んで白姫と黒君、正面に和泉だ。


 説明のために必要そうな器具や資料といった者も一切ない。どうやら場所変えのために移動しただけだったらしい。


「今説明したように世界には沢山の力が溢れていますので、稀にその力同士がぶつかったり溶けあったり、増大したり減少したりします。そしてその変化があまりに過度な場合、世界はバランスを崩してしまいます。それを防ぐのが『律』と呼ばれる番人なのです」


 そう言って和泉が示した二人に視線を向けて、そしてまたすぐに遠麻へと戻した。


「彼等は世界の力そのものです。変化が許容内の場合は彼等が調律を行いますが、そもそも予測は不可能なもの。彼らだけで調律を行うのが不可能になる時もあります」

「何故」


 力そのものだというのならば、人間などより余程上手くやれそうな気がする。実際公園で襲われた時など、黒君は簡単に男を弾き飛ばして見せたではないか。


「溢れた力は具現化します。彼等は具現化してしまったものには触れられないのです」

「どうして」

「物質となったそれは、元が元だけにとにかく力を取り込みやすくなります。彼等は力そのものなので、下手に触ってしまうと彼等自身が奪われかねない。下手をすれば世界が律を失ってしまう。万一を避けるために彼等は物には接触出来ないのです。これは彼等の意思ではなく本能です」


 故に絶対に逆らえないのだと、そう言われる。


「それで自分達の代わりに人間にやらせようってか」

「人事のように言うな。バランスを守らねば大変なのは人も同じなのだぞ」


 まるで無責任に押し付けているとでも言いたげな遠麻にむっとして、白姫は口を挟む。


「それに世界に関わるものである以上、人が全く影響していないという事でもない。例え知らなくてもだ」

「判った、悪かったよ」


 地球環境どうのの説教をされているようで頭が痛くなってくる。何を言われたって人間出来る事と出来ない事があるのだ。

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