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3-5

「だからまァ、何か話があるってんなら聞いてやるよ。テメーが俺に何の用なのかとか、想像つかねーがな」

「……」


 嘘はない、ように見えた。というか多分鬼柳は嘘は上手くないだろうし。


「力集めんのも諦めるって事か?」

「テメェが使えねえんじゃ集めたって仕方ねえだろ」

「お前は簡単に出来るから自覚がないのかもしれないが、属性変換の魔術は他属性の人間には難度が高いんだ」

「知ってんのか」

「出来るならと思って調べただけだ」


 属性は違っても似た結果をもたらす術は少なくない。それが可能な事である事を知って調べ、実践してみたが御影や鬼柳では出来なかった。


「だからもういい」

「……そうか。いや、だったらいい」

「あァ? テメェそんだけのためにわざわざ来たのか?」


 嘘ではないと判断して頷いた遠麻に、鬼柳は露骨に不機嫌な顔をした。もっと面倒事を持ち掛けられるとでも思っていたのか。面倒事を楽しみにするのもどうかと思うが。


「ああ、まあ、心配だろ一応」

「らしくないな?」


 探る様に御影に眼で射られ、ぎくりとする。何もしようとしていなかった相手をどこまで疑っていたのかとか、知られたら気まずい。疑われて仕方のないような事をしていたのは彼等だから、文句を言う資格はないと思うが。

 だが、御影にとっては遠麻の抱いた罪悪感は、どうでもいい部類に入るらしい。向けられた質問は全く違うものだった。


「お前は面倒事は極力起こってから片付けるタイプだ。正直それじゃいずれ手遅れになる場面に出くわすと思うが……お前の事だ、どうでもいい」


(ぐっ)


 その通り、だ。


「実際俺達の事にしたって『次何かしたら』というニュアンスだったしな」

「へぇ? んじゃ何かあったって事か?」


 面白そうに鬼柳は唇を笑みの形に釣り上げた。自分に振りかかる面倒事も、他人の面倒事も楽しむ質らしい。


「……まぁな」


 関係のない二人に隠す事でもないと遠麻は頷く。少々気まずいが。


「悪いが俺達は無関係だ。他を当たれ」

「そうする。悪かったな」


 素直に遠麻は引き下がった。当てはこれでなくなったが、白姫達の話ではいずれは辿り着くだろうとの事。気持ちは落ち着かないが待てばいい。


「そういや今日は煩ェガキと兄ちゃんと有谷、いねえのか」

「白姫と黒君なら近くにいる。有谷はいない」

「姫!?」

「君!?」

「あ」


 つい、さらっと口を突いて出てしまった彼等の『名』に、二人の反応を見てから気が付いた。事情も半端に通じるから『つい』ではあるが――警戒心が足りないかもしれないと反省した。


(くろの)、だろ名前。見つかんなかったからマトモな人間じゃねえたァ思ってたが、どーゆー……いやいいわ、聞いても別に関係ねえしな」


 人名とするにはあまりに不自然な呼称に鬼柳は不審そうに呟くが、勝手に自己完結して遠麻に訊ねてきたりはしなかった。


「ま、黒が居んならいいんだろうけどよ、人が欲しがる種を持ってる先人からの忠告だ。テメーもあんま一人でフラフラしねー方がいいぜ」


(種?)


 理解出来ずに眉を寄せた遠麻にからからと鬼柳は笑って。


「お前の力が知れ渡ったら、お前自身は勿論、お前の子供を欲しがる奴等が居るって事だ」

「っな!?」


 ぎょっとして仰け反った遠麻に、浮かべていた笑みを消し酷く真剣に表情を崩さず、鬼柳は先を続けた。――どうやら本気で笑っていたという訳ではないらしい。


「マジだぜ、これは。俺も女ん時何回か犯られそうになってっし」

「それでも呪力の配分を考えないから馬鹿なんだ……」


 鬼柳が女の性を持っているのは確かだから、余計だったかもしれない。責める御影の視線には肩を竦めて受け流した。反省はないようだ。


「……俺は男だが――」


 犯される心配は無いが、勝手に採取して実験されるのは御免だ。自分の身を守る事でもある。

 人の悪意というものは確かに何より恐ろしい。


「忠告はありがたく貰っとくよ」

「そうしとけ。あァ、気ィ変わったらいつでも来い。テメーは使えるからな」

「悪いな。流れが見える分それはできねー」


 慣れてきて分かった事がある。


 人も確かに世界の一部。多かれ少なかれ生命という生命は、この星から力を得て生まれて来る。肉と組織の塊が動くための『力』だ。

 無機物であっても同じ。生命程のエネルギーはないが、存在のための『力』を持って作り出される。この量が人が物を作れる限界なのだろう。


 その人に与えられた力はそれが必要な分だから。

 だからそれ以上にもそれ以下にもするべきではない。それは不自然な事だから。


「歪みは破綻をもたらす。絶対だ」


 故に龍気を留めているであろう誰かも、見つけ出さなくてはならない。


「人じゃねェ力持ってんだ。もう歪んでんだろうがよ、十分」

「いや、お前は別に歪んでない」

「……っ」

「それはお前が持って生まれた力だから、自然だ」


 そうはっきり断言されて息を飲んだ後、誤魔化す様に皮肉気に笑った。


「そーかい。ま、テメーがマトモだってんなら、そりゃ大抵の奴ァマトモだわな」

「生憎俺もまともだよ。悪かったな」


 申告されなくても分かっている。強いか弱いか、異能かどうかは関係ない。ただ在り方が自然である事、それが世界にとっての正常だ。


「白祈」

「何だ」

「これ返すわ」


 懐から水気のカードを取り出しとんと遠麻に押し付ける。


「使えねえもん持ってたって仕方ねえしな」

「ああ、頂いてくよ」


 もう関わらないという宣言でもあるそれを受け取り、遠麻は校門を後にした。





「残念だったな、当てが外れて」


 しばらく道を歩いていると、ととっ、と白姫が近付いてきて隣に並んで歩き出す。黒君もその肩に乗っている。


「残念――って訳でもないかな。そういう事は知り合いじゃない方がいい」


 別に鬼柳達に友好的な何かが芽生えた訳ではないが、実は特別嫌いでもない。


「何しても良心痛まなさそうな、救いようない奴のが遠慮しなくていい」

「その心配はいらないな。そんな事を行う時点でそいつに既に救いようなどない」

「厳しいな」


 断言した白姫に遠麻は苦笑した。彼女の手厳しい物言いにも、以前よりは腹が立たない。彼女はただ世界に対して純粋なだけだ。

 もっとも人である遠麻には、納得できても頷けない判断基準のものも多いのだが。


「さて。では今日は龍気を集めるとしよう」

「ああ」


 頷き、上手い具合に人目に付かない、それなりのスペースもある地元の公園を目指して駅へと向かい――


「!」


 どくんっ、と大きく地脈が震えた。


 膨張現象だ。しかも大きい。どこだと神経を集中させて場所を探り――おかしい、と眉を寄せる。

 多くの力が膨れ上がった。間違いなく許容値以上だ。だというのに爆発らしい現象が続かない。


「遠麻、あちらだ」

「ああ」


 ――気持ち悪い。何だこれは。


 遠麻よりも鋭敏な感覚を持つ白姫が正確な位置を悟ってくれていて、案内に従い現場を目指す。

 現場はそう遠くなかった。『テナント募集中』の張り紙がされた、がらんとした建物の中。


「――……」

「どうやらいたようだ」

「みたいだな」


 最早本人はそこにはいなかったが、存在していた形跡は残っていた。

 陰陽道で広く使われる晴明桔梗印が、何かの力の影響の跡かくっきりコンクリートに焼き付いている。間違いなく龍脈の力を使う者だ。


「とりあえず、人為的であるとはっきりはしたな」

「……できりゃ多少不自然でも、自然現象の方が嬉しかったんだけどな」


 だが残念ながら、そちらの希望はなくなってしまった。そして相手は、放ってはおけない程度に貪欲だ。


「少し急いだ方がいいかもしれないな」


 ――面倒な力を手に入れられてしまう前に。

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