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3-4

「――?」


 朝起きてすぐ、微妙な違和感に遠麻は首を傾げた。断言できる程はっきりとではないが、ここ数日で使われ、磨かれ始めた感覚が伝えて来る。


(何か……薄い?)


 力の流れが何となく――薄くなっている気がした。

 それは本当に些細な感覚の差。しかし間違っていない気がした。寝巻にしているシャツとハーフパンツからズボンに着替えただけの格好で、そっと庭へ出る。どこに出かける訳でもないから十分だ。


「黒君、白姫、いるか」


 叫ぶ訳にもいかないので、上――自宅の屋根の辺りを見上げて声を掛けてみる。と、トトン、と軽快に黒猫が下りて来た。


「どうした? 遠麻」

「気のせいか、大した事ないのかもしれないけど、何か力が薄くなってないか」


 自分が気が付いた事象に、むしろ気が付かないはずのない黒君が平然と落ち着いているので、少々言うのに気が引けつつ、しかし気になったのでやはり尋ねてみる。


「気のせいではないよ。確かに減ってはいる」

「良く気が付いたな。感度に関しては中々の適正だ」


 猫の様には身軽に下りて来られなかった白姫が、ようやく足場を見付けて下りて来た。なんとはなしに口調が満足気だ。


「って、大した事じゃないのか、やっぱり」

「大した事ではあるんだけれどね、今は力が膨張して溢れているだろう? そして溢れた龍気は物に宿ったりする。そうすると流れの中には還れないから、遠麻が減ったと感じるのは間違ってないよ」

「い、いいのか?」


 大した事だと言いつつ、やはり律二人に慌てた様子は無い。


「許容値はあるがな。この地球という星の振り幅は大きい。そう神経質にならなくてもいい」

「……そう、か」

「けれど確かに――少々おかしいのは、そうだな」


 折角ほっとしたのに黒君は愛らしい動作で首を傾げる。


「物に宿らなかった龍気はそれでも還ってこようとするはずなんだが。全部が全部何かに宿ったとも考えにくい――」

「……」

「何にしろ、そう急ぐ事はない。万一第三者の意思があったとしても、いずれ辿り着く。我等の目は欺けん」


 自信たっぷりに白姫は言う。世界のためにはそれでいいが、遠麻としては『第三者の悪意』そのものが既に心労なのだが。


「人の悪意って言っても、人の力で何かできるものなのか? こういう事が」

「干渉する術がある以上、当然害を与える事も出来る。だが膨張を故意的に引き起こすとか、そんな事はまず出来ない。例え遠麻、お前の様に適した力があり十分に研鑽を積んだとしてもだ」


 最も適した力の属性であってもそこまでの干渉は出来ない。


「『星』というものはそこまで小さくはない」

「だから第三者の介入があるとしても、せいぜい溢れた力を積極的に集めて還さないでいるぐらいだろう」

「俺みたいにか?」


 インスタントに力を得るためにストックしている龍気を宿した札。同じ事を考える者が――居た。そういえば。


「……そういや、居るよな」


 力を欲して地に還さず己の物としようとしている奴が、居た。


(鬼柳の方はアレだが、御影の方は手段を得られる可能性があるなら調べるんだと思うんだよな)


 遠麻を捕えようとして来た時は知らなかったようだが、出来るのだと判ってからはどうだろう。


「すげー嫌だが……会わないと、だろうな」


 そう考えた時にはたと気が付く。鬼柳達の素性という素性を遠麻は何も知らないのだ。

 あえて言うなら『鬼柳』だが、一高校生でしかない遠麻が彼に会わせろ、連絡先を教えろというのも無理な話。友人だというのは苦し過ぎる。


「会うなら探すが」

「出来るのか!?」

「勿論。個人としても知っている者だ。特徴的な呪力でもあるからな。造作もない」

「じゃあ今日学校が終わったら頼む」

「任せろ」


 遠麻に『頼られた』のにどことなく嬉しそうに白姫は頷いた。





「――よ、鬼柳、御影」


 つい先日やられたのと全く逆の立場で、私立天暁館(てんぎょうかん)高校の校門前でそう遠麻は鬼柳達に声を掛けた。

 都内有数の規模を誇る天暁館は、偏差値の高さでも有名で、正直かなり――びっくりした。特に鬼柳に。


「うぉっ……!?」


 まさか遠麻がここに来るなどとは思っていなかったのだろう、鬼柳はぎょっとして仰け反った。


「白祈……っ!?」


 何故ここに、と御影もありありと顔に出して驚いていた。


「ちょっと探させてもらった。やっぱ同じ位だったんだな」

「クッソ、テメェ何でもアリか」

「似た様なもんだろ」


 舌打ちをする鬼柳に遠麻は本心からそう言った。遠麻から見れば鬼柳も御影も十分何でも有りだ。

 ……そもそも彼等を見付けたのは白姫で自分ではないし。いいハッタリになるので、その辺りのネタばらしをするつもりはないが。


 あまり似合っているとは言い難い、名門校の制服を着崩して着ている鬼柳と、こちらはきっちり標準を守っている御影。シャツの襟にはそれぞれ『Ⅰ』『Ⅲ』の刺繍がされている。


「……つーかお前、年下だったのか」

「あァ? だから何だ」


 鬼柳の方は二度目に会った時には遠麻の方が年上であると知っていた訳で、清々しい程全く態度の変わらないそれにいっそ感心した。


「で、何の用なんだ。別に俺達の素性を知りたかったわけでもないんだろ」


 世間話に付き合うつもりはないらしく早々に御影からそう促されると鬼柳もそれに続く。


「それとも見逃してやった礼でもして欲しいってかァ?」

「礼は別に。ただ訊きたい事があって来た」

「ふぅん? まぁ聞くだきゃ聞いてやるよ。行くか」


 校門前で黙って突っ立ちながら聞くつもりはないようで、返事は待たずに歩き出す。


「そういや、もう戻ってんだな」

「今日の朝だ。お陰で一日引きこもりだよ」


 忌々しそうに鬼柳は盛大に顔を歪める。何しろ女の時は外に出る事そのものが危ない。特に義理の兄弟達にはろくでもないのが山と居る。鬼柳自身も人の事は言えないが、全然マシな方だと思っている。


「お前は?」

「似たようなものだ。鬼柳の側にいたからな」


 いざという時の事を考えて基本鬼柳が女の時は御影は側を離れない。


「あァ、まあ、そーだ、白祈」

「?」

「わざわざ言いに行く程でもねーが会ったから言っとく。……ありがとよ」

「!?」


 予想外の感謝の台詞にぎょっと遠麻は仰け反った。その反応が楽しかったか、やや気まずそうだった鬼柳の反応が楽しそうな物へと変わる。


「気持ち悪ィか? 俺もそう思わァ。ただま、感謝はしてんだ。女ん時ゃ不便だからよ。――テメェは出来るがしなかった。だからな」


 ――感謝している。

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