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3-2

 ――最近どうにも連続しているが、校門前が騒がしい。


(今度は何だ)


 ……自分絡みの予感がする。何となく。


 かくして、校門前に白い犬と黒い猫、そして一見すると飼い主の様に見えなくもない満と和泉がいて、やっぱり予感通りだった。


 多少ざわめきが起こっていたのは、どうやら和泉のたたずまいのせいらしい。

 満は普通に『他校の女生徒が誰かを待っているんだろう』で済むが、和泉のいかにも仕事が出来そうなビジネスレディな佇まいは学生だらけの校門では浮く。

 ましてそれが、明らかに誰かを待ってずっと校門前に陣取っていては。


「――瀬川さん」

「こんにちは、白祈君」

「今日はね、先生と一緒ー」


 ここにいるという事はそういう事だろうとは思ったが何故、とも思ってしまったし気詰りでやりずらい、とも思った。そしてそれは両方とも伝わってしまったらしい。


「すみません。滅多にある機会ではないので、私も後学のため同行させて頂こうと思いまして」


 考えてみれば、和泉は今回の件で遠麻たちの責任者と言っていいのだから、同行自体は不自然ではないのだ。ただやりずらいというだけで。


「いえ、経験豊富な人と一緒の方が心強いですし」


 お互い空気を和らげるように挨拶を兼ねてそう言った。気詰まりなのはそう変わらなかったが、何とかできそうだと遠麻はほっとする。


「良かった。それでは律、どこへ?」

「力は巡る。どこからでも構わないが人目に付かない所が良いだろう?」

「ああ」


 むしろそれは遠麻にとっての絶対条件だと言っていい。


「後は――やはり人工物が少ない所が良い。そう問題になる訳ではないが、遠麻は初めてだ。少しでもやりやすい方が良いだろう」


 人目に付かない自然物が多い所――なんて、そう都合良くある訳もない。


「公園じゃまずいよねえ」


 それなりのスペースがあって、それなりに自然があって――と一番初めに思い付くそこを口にした満に、残念だが遠麻は首を縦に振る。


「遮蔽物がないから隠れられないし、人もいなくはないだろうし。出来りゃ他の所がいいだろうな」

「もし場所が良ければ人払いをしますが?」


 そう提案をした和泉を遠麻は振り向いた。そういう事も出来るのかと、簡単に納得した。


「じゃあ頼めますか。近場の方が楽ですし」

「ええ、勿論。そのために同行したんですから」


 場所が決まった所で校門前から移動する。


(しっかし……)


 いよいよ大集団になって来た。性別はまだしもこの年齢の幅は確実に目を引く。

 ……まあ、それで何がある訳でもないのだから、構わないだろうと言われるかもしれないが。


 目立っていい事など何もない。出来るなら今から人払いしていきたいぐらいだったが、流石に個人の我がままで人に力を使わせようとは思わなかった。

 多少人の目に留まったものの、何事もなく公園にまで辿り着く。公園に至るまでの桜並木道から名前を付けたのだろう『桜第二公園』。

 パッと思い付く遊具は一通り揃っていて、そこそこスペースもある。故に人も結構いる。


「何か追い払っちゃうの可哀想だね」

「一時的にだけだ。そんなに時間掛かるもんでもないだろ?」

「すぐに終わる」


 白姫からのお墨付きも貰って頷き、和泉を見る。


「お願いします」

「はい」


 頷き和泉は地に五芒星を描き。


「――……」


 小声で呪言らしき言葉を紡ぐが、遠麻の位置からは聞き取れなかった。人払いの術をこれから掛けようというのだ、大声で唱えられても困るから、むしろ和泉は正しい。声量が術の成否に関係しない限り。


(残念だけど、そのうちにな)


 理屈の上では、遠麻は全ての属性の術を使える。しかしいかんせん技術がない。

 普通に生きていくのには不必要な技術ではあるが、どれぐらい続くか判らない役目のためには、色々と覚えておくべきだろう。鬼柳達のような例もある事だし、自衛を含めて。


(人に頼むのは、あんまり好きじゃないしな)


 とりとめなくそんな事を考えていた十数秒で術は発動され、場の空気が変わる。それに気が付き顔を上げると、公園にいためいめいがはっとした表情になってぞろぞろと去って行く。何か用事でも思い出したのだろう。


 申し訳ないが、少しの間公園を占領させてもらう。


「まずはこの地の力の流れを視てみろ」

「ここでいいのか?」


 全体的なバランスとかそういうのはいいのかと確認してみる。


「いい。言っただろう、力というものは世界に流れている。どこを見てもほぼ均一だし、そうでなければならない」

「勿論場によって多少強い属性弱い属性はある。たまたまそこに少しばかり溜まってしまう事もある。けれどそれも全から見れば僅かな差でしかないんだよ」

「……ふぅん」


 爆発するまでの許容範囲を超えるまでは、多少溜まっても流れに乗るから大丈夫という事か。

 そして流れが滞る事があるから爆発する、と。


(けど普通ならいつまでも詰まっている訳じゃないからどこから還しても大丈夫、か)


 成程、と納得した所で意識を切り替え力を視る。


(あァ、綺麗だな)


 力が流れるというのが眼で視えるのだ。絡まり溶け合い生み出されながら、全てがバランスよく調和して流れている。


(――?)


 だから少しばかり引っ掛かって遠麻は首を傾げた。


「どうした? 遠麻」

「いや……力はどこでも同じ、なんだよな?」

「ああ、そうだよ」

「龍気もバランス取れてるみてーなんだけど……」

「……うん? 言われてみればそうだな」


 遠麻に言われてから気が付いたのか、今更不思議そうに首を捻りつつ白姫も頷く。


「余分な力を外に出したから落ち着いたんじゃないの?」

「それにしてもあまりに変化がないと思うんだが……。まあ穏やかな分にはいいだろう。――遠麻」

「あ、ああ」


 やや適当な感のある黒君の言葉にそれでいいのかと思いつつ、彼がそう言うのだからいいのだろうと納得する事にする。


「流れの中に上手く分配して還してくれ」

「判った」


 ほぼ全ての力がバランスよく巡っているから、同じ位の力の割合で良いだろう。おそらく出来ると思うが、初めてなので慎重に、一枚札を取り出し。


 まずは札に固定した力を『力』へと戻し、多種の属性へと少しずつ分けて変換する。その一つ一つを混ぜるように奔流へ触れさせると、すぐに馴染んで同化していく。


(……急激に返すのも良くないんだろうな)


 何しろこの札に収められた力の殆どは、鬼柳の屋敷で溢れすぎてしまった分なのだから、それを一気に還したら同じ事が起きる様な気がする。

 実際辺りの『力』が濃くなって、遠麻は伺うように白姫を見た。


「……そうだな。慎重になって悪い事はない。また明日にしよう」

「もう終わり?」


 この場で一番鈍い満は変化をあまり感じ取れずにきょとんとした。


「満、貴女はもっと感覚を磨かなくては。僅かな違いをこそ感じ取れなくては、大きな事態になるまで気が付けませんよ。本当に恐ろしい変化は急激には来ないものなのです」

「はぁい……」

「世の中いつ何時、何が起こるか判らないのですから」


 満の何とも頼りない返事に呆れた息を付いて、しかしお小言はそう短く締めくくられた。


「しかし――白祈君。貴方は本当に素晴らしいですね」

「……そ、そうですか?」

「はい」


 羨望の眼差しでそう言われ、いたたまれない気持ちになる。


「別に……属性が違うってだけでしょう? 俺が凄い訳じゃない」

「素晴らしい事に変わりはありません。……本当に……」

「……?」


 一瞬感嘆以外の何かを聞いた気がしたが、優しく微笑した和泉からは何も読み取れなかった。

 優れた技術を持ち、人から『先生』と呼ばれる程の彼女にも、何か思う所があるのだろうか。


(まあいいんだけどよ、何でも)


 自分は満や和泉とは違う。この力を世のため人のために役立てようなどとは思っていない。自分はただの協力者だ。


(流石に今は選択の余地ないけどな)


 日本が壊れたら自分も困るので。


(……ってか)


 今の今まであまり考えた事もなかったが、満や和泉はいつ協会の事を知って、そして入ったのだろうか。しかも結構意欲的に従事している。


「ん? 何?」

「有谷は何でこんな事してるんだ。危ない事だってあるんだろ?」

「うん危ないよねえ」


 のんびりとした口調でそんな答えを返して来て。


「怪我だってするし、怪我したら痛いし、痕が残っちゃうとやっぱり気になったりもするし。でもあたしは怪我で済むからね」

「っ」


 まだ癒えぬ傷の部分を掠られたような、そんな寂しい笑みを微かに浮かべる。


「それにこれ以外、やる事ってないんだよね」

「……そうか」

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