1月5日
それから光は1月の2日は休み、3日にフォースハイム連合国に。そして4日にはフリージスティ王国に神威・参特式で参上した。マルファーレンス王国ほどではないにしろ、どの国でもやはり直接実物を自分の目で見ることが出来るというインパクトは非常に大きく、これからやってくる神々の試練との向き合い方が大きく変わってくるという事を各国の国民に強く印象付ける事に成功したと言っていい。
なおフォースハイムを先に訪問する事になった理由は、沙耶にある。彼女曰く『将来の妻は、一歩引く物じゃからの』という理論を振りかざしたためである。まあ順番が揉めなくて良かったというのが光の正直な気持ちである。さて、何はともあれ3国に神威のお披露目も済み、日本が間違いなくこの世界にやってきたというアピールも出来た。そうなると次にやってくるのが各国の首脳との顔合わせである。
1月5日、光はマルファーレンス帝国の会議場にて各国の首脳と顔を合わせていた。ガリウス達はあくまで日本で言う天皇陛下の立場に居る方々であり、本当の意味で国の政治を執り行っている首脳との顔合わせは初めてとなる。
「では、各国のトップが出そろった所で今回の会議を始めようと思う。皆知っていると思うが、こちらが新しく我々の同胞となり、神々の試練に新しい形で立ち向かう事を可能とした日本のソウリダイジンであるヒカル・トウドウ殿だ。トウドウ殿、済まないが軽い挨拶をお願いしたい」
今回の議長役を務めているのは、マルファーレンス帝国の首脳である。その彼の言葉に頷き、光は立ち上がった。
「先ほどマルファーレンス帝国の総軍務隊長より紹介を頂きました光・藤堂と申します。まずは、皆様に感謝を。虐げられてきた我々をどんな理由があれどこの新しき世界へと国ごとお呼びいただいた事、全国民を代表して心より感謝いたします。そして、我々は皆さまの目的であった新しい血を入れて滅亡を回避する事と、神々の試練に共に立ち向かう事をここで正式に宣言いたします」
少々前後したが……各国トップの呼び方はこのようになる。マルファーレンス帝国が先ほど光が言ったように総軍務隊長。フォースハイム連合国はファーストアークメイジ。フリージスティ王国はピンフォールガンナーとなっている。挨拶を終えた光が着席すると、頭部を除いた蒼いプレートアーマー一式に身を包み、頭部はスポーツ刈りの様な黒い髪を持つ日に焼けた筋肉質の男性である総軍務隊長が再び口を開く。
「ヒカル殿、我々としても新しい仲間が増え、神々の試練に共に立ちあがってくれたことはこの上なく力強く感じている。先日見せていただいた神威というゴーレム、実に見事だった。我々もあれに乗り込めば、今まで不可能と言われていた星々の世界で戦うことが出来よう。我らマルファーレンス帝国の国民を代表し、フレグ・カドラスは日本皇国の皆を歓迎する」
マルファーレンス帝国総軍務隊長であるフレグ・カドラスの言葉に、光は頭を下げて感謝の意を示した。次に口を開いたのはフォースハイム連合国のファーストアークメイジ。
「我々フォースハイム連合国も、ヒカル様を始めとした日本皇国の皆様を歓迎いたします。私、ティア・フレイブスの名においてこの言葉に嘘偽りなきことを誓います」
フォースハイム連合国の現ファーストアークメイジは女性であった。ティアは俗にいうエルフ耳にウェーブのかかった銀髪のロングヘア、ウェービーロングヘアというべき髪型をしている。服装はゆったりとしたローブに杖という如何にもエルフの魔法使いだと言わんばかりの服装である。20世紀前後の男性陣が見れば狂喜乱舞したであろう。
「我々フリージスティ王国のピンフォールガンナーを務めさせていただいている、ブリッツ・グリーブも他の二国と同じく日本皇国の到着、並びに新しく神々の試練に挑む同志を迎えられた事に歓迎と感謝の意を示させていただきます。手詰まりになりつつあったこの世界に、新しい風が吹く事は実に素晴らしい。これから長い付き合いとなりますが、ぜひ親しくお付き合いをお願いしたい」
フリージスティ王国現ピンフォールガンナーは、赤毛の短髪に緑の目を持つ整ったイケメンであった。服装はトレンチコートを思わせる黒い服である。もっともトレンチコートのような重さは感じられないので、布はかなり薄いのだろうと光は予想した。
「軽めではあるが、一通りの挨拶が終わったところで会議を続けよう。今回は2年を切った神々の試練への対処を話し合う事と、日本皇国を呼び寄せた本来の目的である新しい血の提供。この二点について話をせねばならん。改めて確認するが、神々の試練は来年の年末に、我がマルファーレンス帝国の首都周辺にやってくることが各国の観測に長けている魔法使い達の尽力で分かっている。ここまではよろしいか?」
フレグの言葉に、他三人が頷く。
「この神々の試練にどう立ち向かうか。これについての日本皇国が持っている意見を伺いたい。そしてもう一つの血の提供についてだが、我々はこのままでは滅びる方向にあると各国の医療に携わっている魔法使い達からの報告が上がっている。それを回避するために日本皇国の皆様に協力を願いたい。この二点はどうしても日本皇国の協力を仰がねばならない。こちらの世界にやってきて早々申し訳ない所なのだが、現段階におけるヒカル殿の意見を頂きたい」
フレグの言葉に頷き、光は現時点での考えと大臣達や如月司令との話し合いの結果を含めた上での回答を始めた。
「では、こちらの考えを申し上げます。まず、神々の試練についてですが──現段階ですでに神威シリーズの強化案、並びに帝国、連合国、王国の兵士の方々が乗りやすく動かしやすい新しい神威の開発もすでに進んでおります。この点に関しては、各国の皆様から資材の融通、並びに兵士の皆様をお借りする事をお許し願いたい。特に新しい神威の開発のために、広く兵士の皆様からの意見を取り入れたいと考えておりますのでできるだけ協力をお願いしたい所です」
地球に居た時でも様々なデータは取れていたが、機体を十全に動かせていない時点でまだまだ必要なデータが取れていないことは明白である。建造するための資材も必要だが、機体のソフトウェア更新の為には実際に乗り込んで動かす兵士の皆の協力が必要不可欠なのである。特に魔法関連の技術をより取り入れ、三国の兵士たちが乗っても違和感を感じないように調整をしなければならない。僅かな違和感を放置すると、とんでもない事になる事もありうるのだから。
「もう一つの血の方ですが……私達は遺伝子の問題が起きていると考えております。おそらくは人口が減ってしまったことにより、血の濃度が上がりすぎた……こういう状況になると、生まれてくる子供たちが難病を持って生まれてくる可能性が高まったり、生まれてきた時から既に腕がない、足がないと言った異様な姿になってしまう。それを回避するために、我々日本人の血を取り入れて血の濃度を下げなければならぬ状況にあると予想いたしております」
各国の首脳は頷く。事実、光の言う通りの状況が起きていた。生まれてくる子供が難病持ち、奇形と言った問題が多発。いくら魔法があって一人一人が長寿と言えど不老不死ではない以上いつか死はやってくる。その前に子孫を残さねば種が滅びる訳なのだが、その子孫を残すのが難しくなっているのが現状だった。
「ですので、とりあえず10年。10年ほどの間、2人、ないし3人まで各国の人達から伴侶を取っても良いという形にしようかと考えております。むろんこれは強制するものではありません。複数の伴侶を取る事でそりが合わずに問題が起きたら困りますし……逆に仲が良いのに一人だけしか伴侶を取ってはならないとなりますと、血の濃度を下げる動きが阻害されるとも考えましたので」
つまりは一時的に日本人の一夫多妻、多夫一婦を認めるという案である。各国とも日本の血を欲して日本を呼び寄せようとして成功した以上、滅びない為に相応の見返りが欲しいのは当たり前の事だ。特に金の問題ではなく確実に迫ってきている国家存亡の危機である以上、悠長なことは言っていられない。ここですでに結婚しているから無理です、などと言って断られても納得は行くまい。精子や卵子をバンクとして扱い、提供するだけでも良いのかもしれないが……それが上手く行かない可能性も当然ある。
なので、10年に限って一夫多妻、多夫一婦を認め、多くの日本人の血を持った子供たちをこの世界に増やす機会を増やそうというのである。一定の日本人の血を持った子が生まれて血の濃さが落ち着けば、この国家の危機はゆっくりと去ってゆく。落ち着きが見えたら、この法案を廃止すればいい。光の提案はそういう事であった。
「今の私達には相性が良いと分かっているのに一夫多妻は禁じられているから、多夫一婦は認められないからという理由で日本人の皆様の血を持つ子供が生まれる機会を減らす事は確かにできませんね。私達にはあまり時間が残されていませんから、一定期間限定でそういう策を取る必要もありますか……それにこれなら、すでに日本人同士で妻や夫を持った人も私達と結婚する事が叶います。そこも大きいですね」
内容的に反発も一定数は出るだろうが、各国の滅びを回避するためにはとにかく新しい血が必要だという事実はどうやっても覆せない。だから少しでも早く対処せねばならない話である。
「こちらとしても問題はありません、むしろ願ったりです。日本の皆様の血を分けて頂いて産まれてくる新しい同胞の誕生の為なら、各種援助は惜しまず行わせていただきます。とにかく、今の我々に必要なのはこのような行動をとるからこういう結果が出る。だから絶望せず希望を持てと言える、道筋がはっきりとした希望のある将来への青写真です。ただ到着点だけを言って、その道筋を示せずでは誰も納得しませんから」
フリージスティのピンフォールガンナーであるブリッツの言葉に、フレグとティアは頷く。ただ漠然と目的地だけを告げられ、そこに行けば希望があるから頑張ろうと言われてどれぐらいの人が頑張れるものだろうか? それよりもその目的地に行くためにこの道を通ります、この道具や乗り物を使います、ここで一休みしますと言ったちゃんとした計画が練られていた方が良いに決まっている。
「こちらとしても異存はない。支援として必要な物資はその都度上げて欲しい。理不尽な要求でない限りは拒まぬ」
との事で、大まかな話は決まった。日本皇国は神々の試練に太刀打ちできる機体の製造、並びに血の提供。帝国、連合国、王国は日本皇国がそれらを円滑に行えるよう、一定の支援を行う。日本皇国は一定の成果が上がり次第、逐一他国に経過を報告する。
「では、困難に打ち勝ち、共に栄えましょう」
光の言葉で、今回の会議は幕を閉じる。限られた時間の中でどこまでやれるか、新しい光の戦いはここに始まった。
来週更新お休みします。下手したら再来週も。
理由は活動報告にて。




