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まだ1月1日

 翌日目を覚ました光は、皇居を後にした。正月早々仕事をさせてしまった車の運転手であったが、彼は笑顔で「いえ、総理の仕事に比べればこれぐらい大したことではありませんよ」と返した。ある意味総理を一番近くで見ている運転手は、総理である光の仕事がどれほど大変な物なのかという事をよく理解していた。


 そんな運転手のおかげで、正月でも問題なく官邸に到着できた光。最低限の身だしなみを整えた後、各大臣と通信越しで会議を始めた。時間は午前の10時少し過ぎ。少々酒が入っている大臣もいたが、これは緊急の呼び出しになるのでそれを非難する者はいない。ましてや色々な意味で新しい時代の始まりを迎えることが出来たのだから、浮かれても仕方がない。


「正月早々すまない。だが少しだけ我慢してほしい。なに、決めたい事は1件だけだ。それが終わり次第皆には正月に戻ってもらって構わない」


 光がそう切り出すと、大臣達は皆話し合いを始める態勢に入る。さすがにここは酒が入っていようがいまいが変わらない。その各大臣の様子を確認した光は議題を口にした。


「話をしたい事とは、例の神威・弐式、そして弐式をアッパー調整した異世界各国の人……今はもう他国か。その他国の人々の体や魔力に合わせた専用機体をいつお披露目するかと言う話だ。実はフルーレ殿の方から、各国の国民が直接目にしたいという欲求がもう暴発寸前の所まで来ているという話を受けてな」


 光の言葉を聞いた大臣達は『なるほど』『無理もないですな、向こうは少しでも早く現物を見たいでしょうから』と理解を示す者。『かなり各国の首脳陣がせっつかれている訳ですか』『これからともにやっていく以上、放置はできませんね』と各国首脳陣の状況を慮る者と別れた。が、結論として「それならば、出来るだけ早く派遣してお披露目した方が良いでしょう」と言う部分は変わらなかった。


「よし、その点は私も同じ考えだから意見の一致は見たな。では、いつにしようかと言う話になるのだが──」


 そこからは1月中にと言う点は一致したが、早い意見は1月の3日。遅い意見は1月の末と意見が割れた。早ければ早いほどこちらの本気を理解させるとともに向こうの国民を安心させられるという意見と、まずは外交のパイプをきちんと結んでからでないと混乱させかねないのでは? と言う意見がぶつかった形である。


「ふうむ、確かに意見に筋が通っているな。早くしたいがもっとしっかりと宣伝をして、国家間のパイプをしっかりと構築した後に派遣すると言う意見ももちろんだし、早く派遣する事でこちらの存在を言葉ではなく目に見える形でアピールできるというのも間違いではない。どうした物か……」


 目を閉じてから腕組みをし、左手の力こぶ付近を人差し指で3回ほど叩いた光は一言「よし」と呟いてからある端末を開いた。


「皆、すまん。ならば向こうの意見を聞いてみようと思う。正月早々呼び出すから応じてもらえるかどうかわからないが……」


 光が取り出したのは、3国の象徴となっている人物の1人である沙耶殿の物であった。地球に居た時に受け取っていて、時々使っていたものだ。そしてこれは直接繋げられるので、向こうに伝わるのが早い。実際に通信はすぐにつながった。


『おお、婿殿が年の初めから連絡してくれるとは嬉しいのう! これからは同じ世界の人間としてよろしく頼むぞ!』「沙耶殿、こちらこそよろしくお願いいたします。そしてすみません、こうして年の初めにいきなり通信をさせていただいたのはどうしても伺っておきたい事がありまして」『ふむ、なんじゃ?』


 光は先ほどの話を沙耶に伝え、神威・弐式と各国の人に合わせた機体の各国への派遣をいつ行うべきかの意見を伺いたい事を話した。その結果は。


『3日の意見を採用してほしい、と言うのがわらわの正直な意見じゃ。おそらくガリウスやフェルミアも同じことを口にするじゃろうて──いや、1カ所言い直そうかの。ガリウスなら今日でも構わないと言う筈じゃ。何せ試練の時は今を持って2年を切っておる。首都に落ちる試練と言うのはわらわ達の歴史でも初めての事での。ガリウスもそうじゃが、国民が皆はっきりと縋れるもの、頼れる物を無意識に欲しておる。いくら心強気き者と言えど、今回は折れかけておるじゃろう』


 という物だった。やはり今までこちらの世界に住んできた人の意見は重い。まだ新参者である日本にとって、ここら辺の考え方が出来ていないのは仕方がないのかもしれない。だが、この沙耶の言葉でやはり早く派遣して一刻も早く落ち着かせた方が良いという形で話が纏まってゆく。


『ふむ、早めに出してくれるというのであればわらわに文句はない。正直に言えばわらわも一刻も早く映像ではなく実物を見たかったというのが本音での──なにをする!? やめぬか!!』


 突如沙耶からの通信から沙耶のそんな声が聞こえてきた事により、この話し合いをしている一同に緊張が走る。まさか刺客か!? と言う予想が数人の頭の中に浮かぶ。しかし今回はそうではなく。


『通信に割り込むでない! これはわらわが贈った機材からの通信じゃぞ!』『硬い事言うんじゃねえ! こっちにとっては明日に希望を持てるかどうかの瀬戸際なんだ! ちょっとだけ話をさせてもらうだけだからよ! いいだろ!』『良い訳あるかこの脳筋めが! 話をしていたのはわらわじゃぞ! 話を直接したいならお主の娘のフルーレでも向かわせればよいじゃろうが!』『今走らせてる! だから今は解散しないでくれって言いたいだけなんだ!』


 ──どうやら、何らかの方法でガリウス殿が沙耶さんの通信に乗っかってきた? らしい。そして収まらないやいのやいのな言い争いを日本側があっけにとられながら聞いていると、会議室のドアが勢いよく放たれた。開いたドアの先に居たのは息も絶え絶えで、普段の鎧姿でびしっと決めている姿はどこにもなく。普段着を汗で濡らして一部が透けているというやや刺激的な姿を見せているフルーレだった。


「た、大変申し訳ありません新しい年早々こんな情けない姿をお見せしてしまい……とりあえずこちらを、お願いいたします……」


 普段と比べて明らかに力が入っていない声で、一つの通信器具を差し出すフルーレ。心配しながらもその通信器具を受け取り、さっそく起動すると……


『お、届いたかっ! 光殿、例の巨人の派遣は一刻も早く頼む! 何なら今日今すぐでも構わない!』


 予想通りガリウスに繋がり、沙耶の予想した通りの言葉を吐いた。そんなガリウスの発言に反論するのは沙耶だ。


『阿呆な事を言うでない! 日本側の皆様方にも様々な準備という物があろうが! 今すぐ派遣してくれなどと無茶を言うでないわ! そんな事も分からぬのか!』


 沙耶の言い分は実にもっともである。しかしガリウスが必死になるのも理解できる。なので日本側はどうした物かとお互い通信越しではあるが顔を見合わせていたのだが……


『正直、今年の年明けは活気がねえんだ! 首都が活気がねえってヤバすぎるだろうが! このままじゃ試練が来る前に国その物が崩れちまう!』


『理解はするが、その考えもおかしくはないが、だからと言って日本側の都合を考えぬのは愚かに過ぎると言っておるのじゃ! あれだけの存在じゃぞ? そう簡単にポンポン動かせるわけがなかろうが!』


 ガリウスと沙耶の言い争いはまだまだ終わりそうになかった。その様子をしばらく見ていた光であったが、おもむろに再び通信を開く。


「如月司令、新年早々すまない。なに? 言い争う声が聞こえる? 仕方がない理由でな……で、だ。話は一つだけ、今すぐ神威・参特式だったか? あれ一機だけでいい。動かす事は可能か?」


 このままではガリウスと沙耶の言い争いは日が暮れても終わらないだろう。そう感じた光は、自分が動かせる神威1機だけでひとまずガリウスの国、マルファーレンスへと向かう事を考えた。そう考えた最大の理由は首都に活気がないというガリウスの言葉だ。新年を迎えて活気がないとなれば、今後ますますふさぎ込んでいく可能性が高い。その閉塞感を吹き飛ばすために必要であると、そう結論付けたからだ。


『神威・参特式は別段ダメージを受けた訳ではありませんからね、出せますよ。一応何があっても良いようにとエネルギーのチャージも終わってます。連続稼働100時間は保証しますよ』


 如月司令の言葉を聞いて、光は「了解した、では済まんが私が乗ったらすぐ出られるようにしておいてほしい。専用のスーツの準備も頼む」と伝え、如月司令の了解という返事を聞いたのちに通信を切る。


「フルーレ殿。すまんがもう一仕事頼めるか? あなたの祖国、マルファーレンスまでの先導を頼みたい。こちらはまだここにやってきて1日も経っていないのでね、私一人では迷う事になりかねないのでね。もちろん、服装を整えてからで構わない」


 あまりフルーレの方を見ないようにしながら光は伝えた。汗だくの姿など、あまり他者に見られていい気分はしないだろうと思うからである。この辺りは例え世界が変わっても大差はないはずだ、と。


「は、はい。では失礼いたします! 後ほど合流という事で! 如月さまが指示を出しているあの建物付近でよろしいのですか? 分かりました、では後程!」


 あっという間にフルーレは姿を消した。その後、大臣達を見渡しながら光は言う。


「そういう訳でな、とりあえずちょっと行ってくる。皆は正月休みに戻ってくれ。では解散だ、新年早々呼び出して済まなかった」


 大臣達は頭を下げた後通信を切っていく。大臣達との通信が全て終わり、まだ言い争いが止まらないガリウスと沙耶の通信を止める事を伝える。


『すまんなあ光殿、恩に着ますぞ!』『この脳筋め! 婿殿に何かあったらただでは置かぬぞ! 婿殿、ガリウスの頭をハンマーでぶん殴っても構わぬぞ、わらわが許す!』


 苦笑しながら、通信機を停止させ、再び運転手を呼び出す。次は如月司令の元へと急がねばならない。新年早々忙しいなとは思ったが、総理大臣の椅子に座っていればこんなものかと思い直す。

正月早々何やってんでしょうねえ。そしてまだ1月1日が終わらない。


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