4月12日
日本国会。
この日の国会は今後の日本としての展望、ならびに税率の設定、それらに加えて自衛隊の再編成なども含めたやり取りが展開していた。 このころには、フルーレを初めとした異世界からの訪問者の情報なども、徐々に国民へある程度知れ渡る様になってきている。 それに並行して、魔法と言う存在も徐々に世間から認められつつある、そんな微妙な時期でもある。
国会のほうは、長い時間が経過はしたものの、何とかある程度形になり、本日の国会は終了となる間際に手を上げた者がいた、藤堂 光である。
「総理大臣、藤堂 光君、発言を許可する」
議長の発言を受けて、光は発言の場に立ち、こう発言した。
「それでは、簡潔に申し上げます。 次の総理大臣候補を立てることを許可願いたい」
国会はその一言で異様な空気に包まれる、議長はすぐさま「静粛に!」と声をかける。
「理由を申し上げさせて頂きます。 皆様のお耳にももう入っていると思われますが、次回の国連会議に、日本の首相を出席させろと、させない場合は国連軍を持って日本を包囲するとあります」
国会全体がこの一言で静まり返る、その静まり返った中、光の発言は続く。
「私はこれに出席するつもりであります、そして、正直に申し上げます。 ──恐らく私は生きてここに帰ってくることは出来ないでしょう」
緊張が全ての議員の中に走る。
「ですが、ここで私が出向かずに、国連軍に包囲された場合、国民の心が疲弊する恐れが非常に高いと判断いたしました。 故に、私が出向く事で、そうなるまでの時間を僅かでも稼ぐ所存であります」
即座に「総理に質問があります!」と挙手をする議員。
「河内君」
「はい」
一呼吸置いて質問が行なわれる。
「河内と申します。 総理が今おっしゃられた事ですが、生きて帰れないとは個人的な予測でしょうか?」
「藤堂君」
「ただいまの質問ですが、特殊部隊の調査により、会議場で射殺が20%、行きで10% 帰りで69%の可能性で暗殺が仕掛けられると調査結果を受け取っております、ほぼ間違いなく、私は日本に帰ってこれません」
冷酷な予想数字に再び静まり返る。 その数字は、大体この場にいる議員の予想と同じだったのもあって、なおさら真実味を増した。
「武田君」
「はい」
次の質問である。
「武田と申します、それだけの暗殺される可能性があるのならば、できるだけ多くのSPを連れ立って、少しでも暗殺される可能性を下げるべきではないでしょうか?」
「藤堂君」
「ただいまの質問に対する返答ですが、私は逆に今回はSPを誰1人として連れて行くつもりはございません。 1人でも多くの日本人をあちらの世界に送り出すためにも、今回死ぬのは私1人で結構です」
この発言で流石にざわめきが大きくなる、あちこちで「首相は特攻なさるおつもりか!?」「自棄を起こしたのか!?」との声が上がっている。
「皆様に後を託さなければならない卑怯者となりますが、その代わり国連総本部にて、大きく傾いてくることでお許し願いたい」
再び静まり返る国会。 そして議員のすべてが悟った、首相は1人で神風特攻をして散る覚悟を既に固めているのだと。
「そのためにも、明日からの国会の議題として、例外的処置で次の総理を決めさせて頂きたいのです。 派手に傾くためにも、日本人の1人としての意地を見せ付けるためにも、どうかお願い致します」
一人の議員が突然直立したかと思うと、敬礼をした。 それはすぐさま全ての議員に伝播し、全ての議員が国会にて総理に対し直立して敬礼をするという異様な光景が出来上がった。
「皆様のご理解に感謝いたします。」
光は深く深く、敬礼をとった国会議員全員に対して頭を下げた。
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「光様、正気ですか!?」
国会終了後、首相邸宅において、光はフルーレに責められていた。
「明らかな悪意しかないと言うのに、それでも向こうへ出向くと言うのですか!? しかも護衛すら無しで!」
だが、光は頑として意見を変えない。
「確かに愚かに見えるかもしれない、無意味に限りなく近いかもしれない。 だがな、ここで引くことは出来ん! 幸い自分には妻子も両親もいない、特攻役にも適任なのだよ」
だがフルーレも食い下がる。
「ですが、では何故私達の護衛まで拒否するのですか!?」
それでも光の考えは変わらない。
「貴方達を巻き込むわけには行かない。 貴方達の役割は我々日本人を1人でも多く無事に向こうの世界へ送る事だろう? 人質扱いされていた事への救助はそれに当たるが、今回のことは自ら突っ込む行為なのだから、除外されるはずだ、違うか?」
フルーレは押し黙る。
「そして何より、これが最後の国連会議への出席となるだろう、ならば最後は派手に傾くのも悪くはない、その後は転送されるまでこの国が皆と一緒に一丸となって耐えればよい、そのためにも時間を稼がねばならぬ、一分でも一秒でもいい、時間を、命の時間を稼がなければ」
包囲と言う方法は実に上手い、包囲されているという事実だけでかなりの重圧感があり、疲弊させられる。 例えミサイルなどを撃ってこなくても、だ。 だが向こう側も苦しいはずだ、特に飲料水の問題がそろそろ上がってきているだろうと光は踏んでいる。
海水などを真水にろ過できるシートや機材の運用も、こまめにメンテナンスをしなければ劣化が早く進む。 日本のように真水に恵まれている国なんて本当に極僅かなのだ。 いくら技術が進んでもそういった自然を人間に都合よく改造するところまでは行かなかった。 だからこそ日本の技術による飲料水の確保は重要だったのだが……。
「どうしても……行くおつもりですか?」
「ああ、もう決めてある、後は……後任者と共に、この国を……日本を頼む……!」
フルーレは静かに敬礼をした後に、無言で部屋を出て行った。 次回の国連会議は5月11日か、一刻も早く俺を始末するために早めたんだろうなと光は想像した。
「──日本の行く末を……天命尽きるまで見届けたかったが。 俺の天命はここまでか……だからこそ見せ付けてやる。 世界よ、日本を侮ってくれるな……」
たった一人の神風特攻隊か……気がついたときは右手で握りこぶしを作っていた……『負けてなるか』の意志を示すかのように。
何とか頑張ってもう一話更新です。
たまに転移まだーって意見がありますけど、転移前がプロローグという作品ではありませんと言うことを改めて申し上げます。