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12月30日 そして残酷な事実に抗う一人と一体

 光の駆る鉄は、空を駆け、宇宙を駆けていた。目的の場所までもう少し……地球を振り返る事もなく、ただただ前だけを向いて駆け抜けた。


『マスター、あと少しで目的地です』「了解だ、そろそろ減速しよう」


 ノワールの言葉に光は鉄の速度を徐々に緩め始めた。このペースで緩め続ければ、射撃予定位置に到着する時に変な負荷を掛けずに静かに止まる事が出る。そして目的地周辺に到着し、如月司令との通信を繋ぐ。


「如月司令、こちらは予定通り……どうした? ずいぶんと後ろの方でばたばたとしている様だが?」


 最終的な射撃方向の確認の為、通信を入れる事は予定通りであったのだが……如月司令の後ろが少々騒がしかったのだ。これは鉄を追って飛び出した神威・参特式の行方を追う為だったのだが、光はそのことを知らない。


「ああいえ、総理の作戦が成功に終わった後の予定で少々。──はい、こちらからも鉄が予定位置に到着した事を確認しました。隕石の位置、移動方向に変化は一切ありません。予定通りに射撃を行ってください」


 何かをごまかすような如月司令の発言に少々首を傾げる光であったが、すぐにその事を思考の外へと追い出した。今肝心な事はそれではないからである。肝心な事は隕石の位置と移動の向きであり、それは変わる事がなかったという事である。これならばアドリブ一切なしの何回も繰り返したシミュレーション通りに行えばいい。


「了解した、ならばこちらも射撃の為の行動に移る。ノワール、シミュレーション通りに」『イエス、マイマスター。ですが一つだけ違う事があります。アマテラスシステムは非常に強力な武装です。そのため解除キーの打ち込みと同時に、マスターの音声認証が必要となります』


 シミュレーションでは、アマテラスシステムの解除キー(映画やアニメなどにある、あの複数のキーを所定の順番通りに押す奴である)を入力すれば起動したのだが、本番は音声認証が必要であることを光は初めて告げられた。が、それは大した問題ではない。シミュレーション通りに解除キーを打ち込んだ光は「アマテラスシステム、起動を要請する」とノワールへ告げた。


『了解、解除キー並びにマスターの音声認証両方の入力を確認。アマテラスシステム、起動します』


 ノワールの声と共に、鉄が簡易変形を行う。腕が胴体に密着し、胴体の前で両腕が組み合わされる。そこからさらに変形し、腕が大きな砲塔へと変化。この砲塔から強力な一撃を放つのがアマテラスシステム中における最大の射撃攻撃となる。


『変形完了、エネルギーのチャージを行います。なお、システムの安全上、チャージは80%のリミッターが掛けられています。攻撃対象、巨大隕石。ロックを開始』


 鉄が吠え、エネルギーが高まり始める。高まったエネルギーは、砲塔の先に球体となって表れ始めた。その球体はチャージが進むとともに徐々に巨大化する。


『現在チャージ率50%。システムオールグリーン。ロックオン完了、チャージを続行します』


 鉄の目の前で膨れ上がってゆく破壊エネルギーである球体は、鉄と同じ大きさにまで成長していた。だがまだチャージが終わっていない為、その球体はさらに膨張し、ついに鉄よりも大きくなる。


『チャージ75%、76、78──80%。リミッターが付いている関係上、チャージはここまでとなります。射撃権をマスターへと移行。トリガーを引いてください』


 ノワールの指示に従い、トリガーに手を掛ける光。だが、そのトリガーが重い。この一発が地球の、そして日本の未来を決める一発なのだ。軽いわけがなかった……しかし。だからと言って引かないなどと言う選択肢はあろうはずもない。


「了解した、アマテラスシステムによる特殊砲、発射!」


 通信を通じて今回の作戦の成否を見守る僅かな人達の願いも込められたその一撃は、光が引いたトリガーに従って隕石へと発射された。隕石までの距離はかなりあるため、命中するまでの間は重い沈黙が支配する。その長く苦しい沈黙時間を経て、ついにこの声が通信先から入る。


『着弾を確認! 鉄から放たれた光球は隕石を確実にとらえました! 隕石は──』


 誰もが息をのむ。そして願う。破壊成功と言う結果が報告される事を。ああ、だが、だが! 現実は上手くはゆかぬもの。悲劇は容易くやってくるもの。そう、結果を見守っていた皆の耳に届いたその言葉は──


『隕石……健在です……破壊に至りませんでした。そして、方向転換も行えておりません……僅かに押し返しただけのようです』


 最悪の言葉であった。せめて破壊できなくとも、隕石の進行方向をわずかに変えることが出来れば転移が間に合うのだ。しかし、それすらできなかったのだ……全員が悲痛な表情を浮かべ、その心は絶望へと染まろうとしていた。ただ一人を除いて。


「ノワール、システムの再起動にどれだけかかる?」『30分頂ければ。しかしマスター……まさか!?』「ノワール、そのまさかだ。アマテラスシステムのリミッターを解除しろ! 80%でだめなら、150%のパワーで撃ち出すだけだ!」


 光の言葉に、通信先の如月司令が反射的に大声を上げる。


『総理、それは無茶です! リミッターは何の理由もなくつけた物ではありません! 150%と総理は仰いましたが、その50%低い100%でも無理です! 100%までチャージを行った場合、45%の確率で鉄が自壊するのです! 150%までチャージを行えば、鉄は間違いなく大破する……いえ、そのチャージ途中で99%自滅します!』


 繰り返された無数のシミュレート結果から、如月司令はそう光へと告げる。元々このアマテラスシステムは後付けの機能だ。鉄製作時には想定されていなかったエネルギー量を運用することもあって、100%自壊しない最大火力を出せるのが80%チャージである。しかし、それらのデータを見た上で、光はこう言い放つ。


「ならばこのまま地球が隕石によって破壊され、多くの日本人が夢を幻にして消えてゆけと言うのか!? 後悔は死んでからでもできるが、行動は今しかできんのだぞ! ここで悲劇の訪れを阻止できる手段があるのなら、それをやらないという結論はないだろう!」


 だが、今度はノワールから待ったが入る。


『150%のチャージそのものは確率が低くなりますが可能です。ですが、その場合……マスターの命が保障できません。それでもよろしいのでしょうか?』


 ノワールは保証できないと言ったが、実際はほぼ100%の確率で死ぬことになる。この場には鉄以外の人工物はない。そう、自壊する鉄から脱出に成功しても地球へと帰還する手段がないのだ。専用のスーツを着ているから宇宙空間に投げ出されても暫くは問題がないが、当然いつかは酸素が切れるし食料だってない。ならば結末は一つだけ。


「構わんさ……むしろノワール、お前にこそ済まないと思っている。こんな無茶に付き合わせてしまう事になる」


 だが、光もそんな事は分かっていた。分かった上でやろうと言っているのだ。無茶は承知だが、この無茶で隕石を足止めし、日本の転移が間に合ってくれるのなら……自分の命にも意味はある。そして日本の未来が続くのであれば、これは決して無駄死にではない。自分のバトンは、きっと誰かが継いでくれる。


『──いえ、私はマスターと共にあります。マスターがそうなさるという決心を固めているのであれば、私の体が砕け散るまでお供するだけです』


 ノワールの返しに、光は満足げに頷いた。


「何、世の中には無理を通せば道理が引っ込むなんて言葉もある。今回はその無理を通して、隕石によって日本が消えるなんて言う認められない道理を引っ込ませる、いや消し飛ばす時だ。やるぞ、ノワール。俺とお前の意地を、あの隕石を送ってきた奴に見せつけてやるぞ」『了解、マイマスター』


 もはや現場の一人と一体がその気になってしまった以上、如月司令がこれを止める事はもうできない。それに、このままでは確かに日本の未来がないのも事実。苦い顔をしながらも、見守るしかなかった。そして天照神を始めとした八百万の神々へと彼は祈る。


(我々は人事を尽くしました。どうか、あの一人と一体に、確率と言う名の厚すぎる壁を乗り超える奇跡と言う名のお慈悲を。叶うのであれば、私の命を差し出しても構いません。どうか、どうかお聞き届けを)


 30分が過ぎ、システムを再起動し始めた鉄の様子を固唾を飲んで見守るこの状況知る僅かな者達。これがラストチャンス、泣いても笑ってもこれでほぼ全てが決まる。


「行くぞ、ノワール!」『はい、マスター! 私達の命の熱さ、そして思い! あの隕石を通じて分からせてやります!』


 鉄最後の行動が始まった。

ごめんなさい、今日はここまでです。力尽きました。

多分来週、来週でケリがつくと思います。た、多分。

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