12月29日
29日の朝。如月司令に一つの通信が入る。その内容は……
『司令、神威・参特式がロールアウトしました。最も機体本体のみで武装は一切ありませんが……』
神威・参式とは、現段階の弐式と初代神威、そして鉄の運用データを元に作り上げていく予定の次世代の機体。そして今ロールアウトしてきた特式はその生産予定である参式をより強化して作り上げた半分実験の要素が含まれる機体となる。この機体に合わせた武装もプランは出来上がっているのだが、1年をかけて徐々に調整を施しながら作っていく予定だったために現段階では存在しない。
「仕方がありません、まさか突如地球を巨大隕石が襲うなどと言う話は想定外もいい所でした。ですが、それでもこうして完成したことに意味はあります。この神威・参特式のデータは向こうに渡る技術者に渡しなさい、そして向こうでこのデータが異世界に迫っている隕石に対抗できる手段となるようにするのです」
如月司令の言葉に、通信を送ってきた技術者も『はっ、これより関連データを全て渡しておきます』との返答を返して通信を終える。通信が終わったことを確認した如月司令は席を立ち、格納庫へと向かう。ロールアウトした神威・参特式をその目で見に行くためだ。
(特式、これの完成とプラン通りの武装が出来ていれば……地球に迫っている隕石迎撃作戦の成功率は大きく上がっていたのですが。しかし、現実は機体のみ……何とも世の中とはうまくいかないものです)
そんな思いと共に、格納庫に到着した如月司令は神威・参特式を眺める。その外見は戦国時代を掛けた武将が身に纏った鎧をイメージした外見を取っている。これは今後神威をベースとした異世界三国用の特徴を表した外見の機体が増える事を考慮して、日本皇国の機体であるという事を一目でわかりやすくする狙いがある。
【頭頂高】 14m
【本体重量】 42t 重力コントロール発動にて20.4t
【全備重量】 現段階では武装がない為本体重量と同じ。プラン通りの武装がすべて追加されれば9,7t増加
【ジェネレーター出力】 メイン14,220kW 2基 サブ7.140KW 4基
【スラスター総推力】 95,000kg 重力コントロール機能搭載
【センサー有効半径】 487,000m
【装甲材質】 マギ・ゴーレムメタルネオ積層装甲、内部重力コントロールフレーム改
【武装】 現段階では無し、将来的には魔法強化剣草薙の太刀 多目的防御兵装八咫鏡 エネルギー自立射撃兵装八尺瓊勾玉を搭載
【運用】 多くの隕石に対する破壊行動
【乗員人数】 1
スペックは鉄の出力をさらに超えたバケモノ機体である。メインジェネレーターは胴体に2基。サブジェネレーターは四肢に1基づつ存在している。本体重量が鉄と比べて20tも減ったうえにスラスター出力も上昇したためさらに機動力が向上している。センサー有効半径は特に大幅に強化。装甲も研究が進んだことで生み出された新しいマギ・ゴーレムメタル。それをさらに積層構造とした。
またフレームの方も改良が進み、重力コントロールがよりスムーズにかつパイロットへの負担を減らすことに成功。フレームその物の防御力も向上し、より頑丈かつ柔軟になっている。こういったパワーアップを成功させたことで、自律兵器をより多く搭載する特殊な戦い方が可能となった。それが三種の神器の名を拝借した武装達である。
八咫鏡は一枚一枚が広範囲の防御フィールドを張る事を可能とする。もちろんそのフィールド強度は今までの中でも最高峰のレベル。これにより自機だけでなく周囲の味方を護る事も容易くなった。さらに鉄ではスレイブ・ボムズという自律兵器を搭載していたが、八尺瓊勾玉はそれその物がエネルギーの塊である。弱い相手にはさらにそのエネルギーの中から弾を撃つことで攻撃を行い、強い相手にはエネルギーの塊その物をぶつけて攻撃するという相手に合わせた攻撃が可能となる。
また、こうして自律系武装で固める事で、両手は魔法強化剣草薙の太刀を扱う事に専念できる。近接武器ではあるが、その刀身に込めた魔力とエネルギーをより高める事で刀身を数倍まで伸ばす事を可能とし、多くの隕石をまさに神話通りに一刀の下に斬り伏せる事も可能としている。これらの技術は、神威・弐式、零式を多く作り、膨大なデータを取ることが出来たからこそ生み出すことが出来たのである。
(参特式、その姿はまさに威風堂々。まさに次世代機としての期待を背負うに相応しいですね。しかし、この子は残念ながら戦うことなく消えることになってしまう確率が高い。神威・弐式の武装も使えない事もないですが、それではこの子の持ち味がほとんど生きて来ませんからね……ですが、無駄死にではない。この子の完成データは必ずあちらの世界で生きてくれるはずですから)
その頭部は鬼面に包まれ、目の奥にはツインアイ式のカメラが存在している。しかし、起動していないためその発光すれば青く光を帯びる目は暗いままだ。そしてそのまま目に灯が点ることなく終わる事をほぼ宿命づけられてしまったという点では、この子も不遇ですね、と如月司令は思う。
「司令、この特式はこの後どうしましょう?」
如月を見つけた彼の部下がそう話しかけてくる。その部下に対し如月は少々考えた後……
「このままそっとしておいてやりなさい。解体作業などはしなくてよしです」
その指示を聞いた部下は、敬礼をしたのちに「了解しました」と告げて去っていく。そんな部下の後ろ姿を見送った後、如月司令はもうしばらく戦わずに眠ることになる可能性が高い神威・参特式を眺めていた。
29日の午後2時。ランダムに抽選された3万人が、順番に地球から異世界へと旅立った。ランダムとはいっても、天皇陛下のご子息、そして世話役の二人だけは外す事はしなかったので、厳密にいえば3名だけランダム抽選に漏れている。
「ではこちらに入ってくださいね、起動すればすぐに向こうですから、少しの間だけ動かないでくださいね」
と言った感じで転移作業はスムーズに行われ、2時間後──つまり午後の4時には3万人の日本人が異世界へと無事に到着していた。彼らは異世界に渡った後、地球の結果次第で行うべき行動が変わってくるためまずは歓待され、1週間ほど休息をとってもらう事になっている。そして日本が無事転移されれば日本に移り、されなければ……その身に課せられた使命を果たすべく動いてもらう事になる手はずである。
「将軍、予定通りに転移作業は完了しました! 向こうからの報告で、無事に3万人の日本人は到着したとの連絡も入っております!」
部下の報告に、フルーレは一度頷いた。
「よろしい、では今度は我々の転移が出来るように準備を始めなさい」
フルーレの指示に、部下は「はっ!」と答えたが、その場を去らない。フルーレはその様子にわずかに眉をひそめたが、部下が何か言いたそうなので「話したいことがあるなら聞くぞ?」と促した。そのフルーレの言葉に部下は「では、発言することをお許しください」と前置きをしたうえで小声でフルーレに問いかけた。
「本当に、よろしいのですか? トウドウ殿をお連れしなくても?」
フルーレが光を気に入っている事は、彼女の部下たちにはもはや常識となっていた。その気に入り方が戦友としてなのか、それとも愛の方なのかは不明であったが。そもそもフルーレ自身が、そこら辺を分かっていない。
「彼は戦うと決めました。なら、その意志を侮辱したり、惑わすような事をしてはなりません。それに、彼は先ほど行った転移に立場を利用して乗り込む事も出来たでしょう。しかし、彼はそうしなかった。ならば、その意志を我々が尊重する事が戦士に対する誠意であり、敬意でしょう」
フルーレにとっても、不満がないわけではない。光には共にこちらの世界へ来て欲しいと思っている自分が居る事も確かではある。しかし、だ。そんな彼が選択したのは地球に残って最後まで国の為に戦う事だった。たとえ勝ち目が薄くても逃げない事だった。だから、その意思を揺らがせるような真似はしたくなかった。
(そうですね、それこそがあの人の言う『将が前に出ずして、どうして兵に戦えと言える』という事なのでしょう。そしてその言葉を己の命と心で実行している。そんな彼に逃げて欲しいと、一緒にこちらに逃げて来てほしいとは言えない。だから私は願う、彼が勝利の二文字をつかみ取る事を)
そう、フルーレは思いを馳せる。あの隕石に勝てれば、皆で笑って転移を迎えられるのだ。それが一番いい、一番理想的な結末だ。その一番いい未来を掴むため、かの者は戦いに赴くのだ。
「そうでした。彼は我々と戦い方こそ違えど、その心は我々と同じ戦士でした……その戦士の心を惑わすような事をしてはいけない。私の考えが浅はかでした、どうかお忘れになってください」
部下の言葉に、フルーレは頷く。その部下が立ち去り、周囲の目が無くなった時、フルーレはそっと両手を組んで、静かに祈る。彼女の祈りが届くのかは……もうすぐわかる。
神威参式、登場です(と言ってもこれは特別強化が入っていますが)。
なお、ツインアイです。ツインアイです。大事な事だから。
そしていよいよ、次回更新で隕石とぶつかります。多分1回では終わらなそう。
やっとここまで来れました。長かったよ、みんな……。




